今まで読んだ文章の中で、風呂場ででかいキュウリを食むというものがあったろうか。
裸になり、湯船に浸かる訳である。
タオルも歯ブラシも、カミソリも何も持たない。
右手にでかいキュウリ。
味噌など付けて、風呂に落とすと何とも気分が悪いので、
冷蔵庫で冷やしたままの奴を握って湯に浸かる。
で、しっかり耳元まで湯に浸かったなら、そいつに噛り付くのだ。
40歳を超えて初めて聞く音が新鮮に身体を走る。
皮を食い破る食感。
同時に耳とも、脳とも、身体にとも言えない第6の器官に響く「パリッ」という響き。
そして、仄かな酸味。
ビタミンCなのか、抗酸化物質なのか、それともクエン酸の醸すものなのか、酸味が広がる。
パリパリ齧れば、低音域は脳に直接響き、冷たい塊は水の如く食道を流れおちる。
そこいらのrestaurantでは味わえない、素朴と高貴なのである。
願わくば、うら若き乙女などと、月など眺めながら楽しめたなら、これはたまらぬ業であるが、
早乙女でなくとも、ススキなどを脇に置き、月を眺めながら、露天風呂にキュウリを齧る男女の図、と言うのも悪くはない。
・・・・・・ような気がする・・・・・・。