山からの授かりもの
連日である、何日かにいっぺん休みがあるくらいの午前様が続いている。 大酒のみの口なので、酒宴が長ければそれだけ酒の量が増える訳だが、結構つらいものがある。 日中人並み以上に動き回り、日没後の酒宴をこれ程まで続けられるのであれば、きっと政治家になれる体力があるのではないかしら、などと小ばかにした含み笑いをこらえるのだが、嘘をつけない性格なので、それは無理というものである。 さて、昨晩の報告の通り、山より大切な命と、その肉を授かった。 そういった貴重な命であっても、放射能の影響などな脳裏をよぎる訳だが、幸い当地では先ごろの検査で「安全である」と言う事だった。 15日も高い山は霧のなかで、その中は氷の世界だったが、昨日は雪。 家の周りもモロモロと降ってはいたが積りはしなかった。 山の7合目から上は雪景色。 登山道にも雪が積もっていた。 15日は獲物を見ず。 崖の上のコシアブラの木に爪痕、こんな崖の上の木に平気で登って餌を食べるのである。 ライフルを背に、山を眺める「ミーあんちゃん」はカッコいい。 何にも獲れない時の「ナメコ」はありがたい 昨日も、寒さのあまりお昼は下山して、車で食べようと言う事で、鼻水ダラダラで山を下ってきた訳である。 そこが猟師の目。ブッシュマンみたいな視力。 藪越しに、崖で餌を食べる山のアニキを発見。 そこから2時間、崖のてっぺんの細尾根をウロウロ。 リックは登山道に投げっぱなしで、猟の先輩と、また崖を登り弾丸を放つ最善の場所を確保する。 斜度は70度。ほぼ垂直の崖に見える。 俺も、奴も、谷を挟んでそんな場所にいる。 腹が減った。 寒い。 奴がその姿を全て表した瞬間に、弾丸は放たれた。 150メートル離れた谷を飛び越え、弾丸は山の神様の導きによって、「いのち」の駆け引きの勝者を決定される。 彼にその弾丸は到達し、100メートル程の崖を落ちてくる。 彼の仲間がもう2頭、そのうちの1頭に向けて発射。 その彼も同じところ、崖の一番深い小さな沢の中を転がり落ちる。 あまりに急な崖。 2頭のうち1頭は、死力を振り絞り、崖を越え視界から消えてしまった。 崖を降り、そして登り、1頭を回収する。 里に来て、お神酒を捧げ、山に向かい感謝の祈りを捧げる。 そして、この猟、この獣たちが、未来永劫、私たちと共にあらん事を願う。 肉を切り分け、仲間を呼び、獲物となり私の手中に収まった者の葬儀を開催するのである。 そのお肉は、滋味豊かで香ばしく、そして軟らかかった。 美味しい、の一言である。 私たちの血となり肉となるのである。 そして、感謝なのである。
2011.11.17