ヤシ酒
もう、かれこれ10年も前の話だが、 フィリピンのネグロス島、バコロドという街を中心に その島の農業を視察に行った時の事である。 サトウキビ畑とバナナ畑を見学しながらの、8泊の旅であった。 うち、何日か民家にお世話になった。 各地区を廻る折、現地のガイドを務める、人懐っこい小柄なオヤジから、 「ヤシ酒っちゅうもんがあるだけんど、知ってるかおめ? おらたちゃ~いつも飲んでるだに~ 朝起きて、ヤシの木に傷つけて、バケツ下げとくと、 晩方にゃ~酒になってるだぁよぉ~」 みたいな話であった。 小さな頃、”はじめ人間 ギャートルズ”というアニメの中にヤシ酒とか猿酒とか出てきて、主人公のオヤジが、旨そうに飲んでいたのを即座に思いだし、 「飲む、飲む・・飲ませてほしい。 ただちに飲ませてほしいのである。」 と、お願いしたのであった。 そして、農家民泊の時に、しかと連絡をつけて頂き、我々が到着すると、 「ほれ、見ろ、あそこ・・、木にタンクあるべ~ あれが、ヤシ酒になるのである のみて~だろ、のみて~だろ。」 と言うのである。 終日、彼らの生活を一通り見学し、夜の歓迎会及び宴会である。 リンガホブというその村は、島の中央部で、富士山に似たカンラオンボルケイノの中腹にある、まあ、高原の村なのである。 高原と言ってもそこはフィリピン、やはり暑いのである。 電気も、水道もないそこでは、ラム酒の空き瓶に灯油を入れ、ランプの代わりにしていた。まあ、投擲前の火炎瓶状態であるのだ。 さて、お待ちかねの、「ヤシ酒」である。 見た目は カルピス である。 「お~ついに出会ったな~。お~お~」 と、口に持っていくまではよかった・・・・・。 ゲ・・・!? なんじゃ こりゃ あ~いかん まったくいかん その匂いたるや、田んぼの稲藁が、嫌気発酵したみたいな匂い。 一言でいえば、ドブの匂いではありませんか。 朝から、飲む 飲む 飲みたーい・・・と、ほざいていた手前、一杯は・・・・。 あ、あ、味は・・・カルピスだ・・炭酸入りのかるぴすだ・・・・・ が・・・・・・ いや、開高健いわく、「ヤギのおしっこ」である。 出会う機会がある御仁は、挑戦あれ。 あれから、10年立った今では、彼の地も近代化というか、生活環境が変わり、 ヤシ酒を作る習慣も、作れる人も、もはや僅かになってしまったと、この間ネグロスを訪れた旧知の友が教えてくれた。 地球は廻っているのだなぁ
2010.03.28