スローキャリアのすすめ

 高橋俊介氏(慶應大教授)の「スローキャリアのすすめ」と言う講演を聴いて来ましたので報告します。スローキャリアと言うのは、スローフードをもじって考案した造語で、日々充実した人生を送るために、キャリアを目的合理性で考えず価値合理性で考える、ポリシーをもってプロセスにこだわって本物志向のキャリアを積むことだそうです。

 なぜ今スローキャリアなのかと言うことについては、組織内出世を皆のモチベーションに使えないことや、上昇志向の人が減少していること(特に20代)、変化が激しく長期のキャリア目標から逆算するやり方では世の中に振り回されること、内向きの出世ではなく顧客志向のプロフェッショナル人材が経営的にも重要になってきていることがある。

 良い仕事人生の条件としては、一つ目は日々の仕事において動機に支えられた能力を多く活用していること(動機活用)、二つ目は日々の仕事において自分の仕事のやりがいや自分の存在そのものの意義を感じること(意味づけ)、三つめは継続的に学習し発達・成長している実感が持てること(継続的成長)、四つめは家庭など仕事人生以外とのバランスや仕事以外での人生の意味づけを持てること(人生充実)があり、ワーク・ライフ・インテグレーションの概念を語っておりました。

 仕事に役立つ人の能力の四要素として、①要件が変化しやすいが何時からでも習得できる最低必要な要素としてのスキル、②仕事の最低必要要素としての頭の良さ、③要件も保有能力も緩やかに変化する高い成果を生み出す直接要素としての思考・行動能力、④思考・行動能力をドライブする高い成果を生み出す潜在要素としての動機がある。

 動機はエニアグラム・MBTIなどで測定されるが、達成志向・上昇志向系の動機と対人関係系の動機とプロセス系の動機がある。動機にドライブされて能力を発揮している時はストレスを感じにくく、動機が無いのに意思と努力で習得すると燃え尽きてしまう。

 過去のキャリアに自分らしさを感じ、今の仕事に充実感ややりがいを感じている人は、いわゆる勝ち組みではない。幸せなキャリアの条件としては、主体的なジョブデザイン、ネットワーキング、スキル開発の行動を日常から取っている人である。

 主体的なジョブデザイン行動とは、自分の価値観やポリシーを持って仕事に取り組んでいる。社会の変化、ビジネス動向について、自分なりの見解を持っている。部署・チームを超えて、積極的に周囲の人を巻き込みながら仕事をしている。仕事の進め方や企画を立てる上で、今までの延長線上のやり方ではなく、自分なりの発想を持って取り組んでいる。自分の満足感を高めるように、仕事のやり方を工夫している。

 ネットワーキング行動とは、新しいネットワークづくりに常に取り組んでいる。自分のネットワークを構成する個々人が、どんなニーズを持っているか把握し、それに応えようとしている。自分の問題意識や考えを社内外のキーパーソンに共有してもらうようにしている。

 スキル開発行動とは、今後どのようなスキルを開発していくか、具体的なアクションプランをもっている。スキル・能力開発のために自己投資をしている。

 結局、働き方を重視したキャリアの考え方は、キャリア目標より仕事における主体性であり、仕事の質・テーマ・スタイルなどへのこだわりであり、自身のブランド・自己イメージへのこだわりであり、弱い絆も重要視する人間関係へのこだわりであり、キャリアフェーズという考え方でキャリアと人生を分けて自分の言葉で位置づけることであり、経済的精神的セーフティネットを構築することである。

 以上、この抄録をまとめながら、なかなか先進的なキャリア観を語っているなと感じた。
2005.04.26:dai:[学習]

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