玄田有史氏(東京大学社会科学研究所・助教授)の「私の仕事道(しごとみち)」と言う講演を聴いて来ましたので報告します。
講師の玄田有史氏は、「仕事のなかの曖昧な不安」(中央公論)や「ニート、フリーターでもなく失業者でもなく」(幻冬社)や「14歳からの仕事道」(理論社)などの著作で知られる41歳の気鋭の社会科学者である。
大学生の就職について、相談を受けて気をつけているのは「答を出さない」ことである。出来るだけ悩ませ、迷わせる。岡本太郎の著書「自分の中に毒を持て」に、“迷ったら危ない道を行け”と言う言葉がある。テリー伊藤は“迷ったら後で笑える方に行け”と言っている。今の学生は安定した公務員を目指す(公務員が安定しているか否かは分からないが)。
高橋俊介氏のキャリアと言う言葉は元は馬車道と言う意味で使いたくない。仕事道(しごとみち)と言う言葉を使っているが、藤子不二雄の「マンガ道」から借用した。
英国の10代の一割がなると言うニートは、グローバル化の中で日本も同様であり、その共通点は、「やりたいことが見つからない」ことである。中学・高校では勉強しないが、大学生はエンプロイアビリティを向上すべく、資格やTOEICなど良く勉強している。あせり→不安→恐怖の連鎖の中で、「自分は社会で求められていないのではないか?」と思ってしまう。就職活動が苦しくてニートになってしまう。その結果、学生相談室が繁盛している。
学生を苦しめているのは大人だろう。即戦力を求めるような会社はダメな会社で、良い会社は「化けそうな人材」(→入社すれば当社の人材育成システムで化かしてあげます)を求めている。不況でも逞しく成長している会社は風通しが良い。トップから担当まで、お互いに良く話し合っている。儲かっている会社は雰囲気も良い。仕事がきつくても必ず一人前にする。吉本興業は新人研修で、「困難な壁は乗り越えられない。その場でウロウロしてなさい。」と教えている。誰かが助けてくれるかもしれないし、やがてチャンスは巡って来るかもしれないからである。
専門の労働経済学は、「どうしたら皆がハッピーに仕事が出来るか?」を考える学問である。分からないことも多く、「仕事とは訳分からないもの、社会は理不尽や矛盾だらけ」だと思う。
社会人として必要な能力は、コミュニケーション能力である。人間関係と自分だけの人は苦しい。「聴き上手になれ」と言っている。そのスキルは、前傾姿勢で、頷きながら、たまに首を振って聴くことである。
人材育成の本質は変わっていない。失われた10年と言われるが、人を育てる自信が失われたとも言える。ニートが85万人になったが、自分の中にもニート的な気持ちがある。教育プログラムも大切だが、絶妙のタイミングでの一言が大切である。
自分は、「目先の損得勘定ばかり考えるな、ケチな学者は良い学者にならない。」と言われてきた。ちゃんと迷わせる。ちゃんとウロウロさせる。「今のうちに失敗しろ」と言うべき。自分自身がどう生きてきたか、自分の誇りを語るべきである。ニートの親の会では、「これだけはダメだと思うことを、きちんと伝えて欲しい。」と話している。親自身の人生を充実させなければダメだ。
低所得の家庭からのニートが増えている。高校中退は生活リズムが乱れてしまう。ニートは、働くことに希望が無く、働くことを諦めている人である。彼らは親に悪いと思っている。メンタル的に働けないような病気やケガによるニートも増えており、中年ニートの問題は、やがて生活保護政策にも関連してくる。引きこもりと同様に、ニートへの関心も今後急速になくなってしまうだろう。
イッパイ、イッパイになる前に手を抜く。仕事と家庭の他に第三の居場所が必要である。ちゃんといい加減に生きよう。良く見られようとすると良くない。即戦力より早期に戦力化することだ。「すみません」より「ありがとう」と言おう。
フリーターとニートの違いは働いているか否かである。正社員になるために面接をクリアすることだ。フリーターには自分を守ってくれる仕組みがない。総合労働相談コーナは、そのためにある。
兵庫や富山で中学生の職場体験が始まった。中学2年生(120万人)の11月は危険な時であり、何かのイベントを仕掛けたい。橋渡し役がいないのが問題で、学校に留まらず社会にも良い先生が求められる。ニート問題に関連して、希望学プロジェクトを立上げている。失望や挫折に変わっても、きっと得られるものがあると考える。それを具体的に明らかにしたいと思う。
「14歳からの仕事道」をベースとした講演であったが、ニートについて話す場面では涙ぐむ様子があり、若者に希望を与えたいと言う強い想いがあるのだと感じられた。
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