奇跡のバックホーム

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現在、熱戦が続いている高校野球

東北勢強いですね!

花巻東、仙台育英、秋田商業、鶴岡東、初戦突破おめでとうございます。

三沢商は残念でしたが、4勝1敗は凄いことだと思います。

 

さて、高校野球100年ということで過去の名場面などを振り返り放送されていますが

私が最も印象に残り感動した試合があります。それは、1996年の夏の決勝「松山商業

対熊本工業」の試合です。高校野球ファンならご存知かと思いますが、延長11回の熱戦

となり延長10回裏にサヨナラ負けのピンチを救った「奇跡のバックホーム」は球史に残

る名場面として今も語り継がれている試合で、今回ご紹介させていただきます。

 

【試合展開】

(9回表まで)1回表に松山商が3点先制し、2回裏と8回裏に熊本工が1点ずつ返し、

3-2で松山商がリードし9回表終了。

(9回裏)熊本工は2アウトから、唯一1年生の澤村君が土壇場で何と同点ホームランを

放ち、熊本工応援団からは「ウォーッ」という地鳴りのような大歓声でスタンドが揺れ

るようだった。松山商2年生投手の新田君はマウンドで座り込み、まるで敗戦投手のよう

に落ち込んでいた。そこへ、主将の一塁手の今井君が抱え上げ「まだ負けていない」と

激励し内野手たちにも声を掛けている。次のバッターは内野ゴロに終わり9回裏終了。

延長に入ったが、試合の流れは完全に熊本工に傾いた。

(10回表)松山商は2アウトからランナーを出すが無得点に終わる。

 

【奇跡のバックホーム】

(10回裏)熊本工の先頭星子君が2塁打を放ち、ここで松山商は投手交代をする。

(ライトの渡部君と投手の新田君が入れ替わった)ここから送りバントで1アウト3塁

となり、松山商は満塁策をとる。(澤田監督は、1969年夏の決勝戦松山商対三沢高校

のときの延長で2度の満塁策を切り抜けた場面を思い出す)

熊本工のアルプススタンドはサヨナラ勝ちを確信し、歓声が一段とあがる。

ここで、澤田監督に迷いが・・・。(ライトにいる新田君はライトの守備に不安だが交代

したら延長が長引いたときに新田君が投げられない・・・)

渡部投手がキャッチャーのサインを見ようと投球に入ろうとしていた瞬間「タイム」と

叫び、控えの矢野君とライトを守る新田君の交代を告げた。

矢野君は肩をグルグル回し準備万端のような仕草を見せた。

 

プレーが再開され、熊本工の左のロングヒッターの本多君が打席へ入り、初級の高めの

球を強振し打球は大きくライトの方向へ、その時NHKの実況では「行ったー!文句なし」

というほどの大飛球であったが、甲子園独特の「浜風」に少し戻された。しかし、定位置

よりも後ろの位置で矢野君が構える。キャッチした矢野君は瞬時の判断で内野に中継して

も間に合わないとみて、力任せに山なりのバックホームを投げた。(高校野球のセオリー

は、内野中継又はダイレクト返球の場合はワンバウンド送球)誰もが犠牲フライでサヨナ

ラと思った瞬間「浜風」に乗ってグングン加速した球はキャッチャーの構えたところへ吸

い込まれ・・・際どいタッチプレーとなる。 審判は・・・「アウト、アウト」と叫んだ。

少しでも送球がそれていればセーフとなる奇跡と言えるピンポイントの返球だった。

ダブルプレーで3アウトとなり、星子君は信じられない表情を浮かべ、犠牲フライを確信

し一塁付近でバンザイをしていた本多君は呆然と立ち尽くしていた。なぜあの深い位置

(距離にして約80m以上はあった)からの返球でアウトになったか、球場は興奮とどよ

めきに包まれていた。この返球が後に「奇跡のバックホーム」と呼ばれることになる。

【奇跡の完結】

11回表の松山商は、奇跡のバックホームを見せた矢野君からでいきなり2塁打で出塁し

チャンスを作り、そして勝ち越しのホームを踏み、結局この回3点を奪い6-3で松山商が

勝利した。

 

【試合のポイント】

熊本工の4番だった西本君は後に、9回裏にホームランを打たれた新田君を今井君が

「まだ負けていない」と抱き起こしたシーンと、10回裏に本塁でアウトになった星子

君を傍らにいた自分を含め誰も手を貸さなかったシーンを比べ、これが松山商と熊本工

の違いだったと反省している。

 

【奇跡の舞台裏】

矢野君はチームで一番の強肩だったがミスが多く送球もバラバラで不器用だった。

矢野君は、「奇跡のバックホーム」と11回の2塁打のたった2球で高校生活の全てを

出し切った。チームメイトから「最後に出てきて、いい所だけ持っていった」とから

かわれた。矢野君はテレビ局の取材でこの時のバックホームの再現を試みるも、1球も

ホームに届かなかった。

矢野君は、現在愛媛朝日テレビでスポーツキャスターを勤めている。

 

星子君は50mを5秒9で走るチーム1、2の俊足だった。決して悪いスタートではなく

自分ではちょっと早かったかなというスタートだったと語っている。

星子君は社会人野球に進んだが怪我で退部しそのまま会社も辞め熊本へ戻る。

星子君は2014年5月、熊本市にスポーツバー「たっちあっぷ」を開店し、自らカウンター

に立ち、壁には自分が着ていた熊本工のユニホームと、矢野君が送ってくれた松山商の

ユニホームが額に入って飾られている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2015.08.12:a-kenji:[コンテンツ]

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