山と人の物語 vol.8 『山で学ぶ、山でつながる ~子どもたちと地域が育つ場所~』

  • 山と人の物語 vol.8 『山で学ぶ、山でつながる ~子どもたちと地域が育つ場所~』

はじめに

山には、人を育てる力があります。

木々の間を歩き、薪を割り、火を起こす。
それは学校では学べない、生きた体験です。

子どもたちが初めて山に入るときの目の輝き、
地域の人たちが久しぶりに山と向き合う時間。
そこには、静かだけれど確かな「つながり」が生まれています。

今回は、そんな“学び”と“交流”が芽吹く現場の物語をお届けします。


自然の中で育つ、まなざし

ある日、小学校の体験学習で子どもたちが山を訪れました。
最初は土の道を歩くのもおっかなびっくり。
けれど、目の前に広がる大きな木、風の音、落ち葉の感触に、
次第に夢中になっていきます。

「この木が、薪になるの?」
「山って、こんなに静かなんだね」

そんな素朴な声が、私たちにはとても嬉しく感じられます。

彼らは木を見る目を変え、
山という存在を“遠いもの”から“身近な場所”へと感じはじめます。


火を囲むという学び

体験会では、実際に薪を割って火をつける活動も行います。
自分たちで割った薪に火がつき、パチパチと音を立てる。
その炎でご飯を炊いたり、スープを温めたりする──
そんなシンプルなことが、子どもたちにとっては大きな経験になります。

「自分で火をつけたら、ご飯の味が違った」
「手伝ってもらいながらできた。嬉しかった」

五感を通じた体験は、“生きる力”につながっていきます。

火を囲んだあとの会話もまた、学びのひとつ。
協力し合った仲間とのやりとり、地域の人とのふれあい。
山の時間は、人の関係をゆっくり、そして深くつないでくれます。


地域と山をつなぐ活動

私たちは、親子での体験イベントや学校との連携などを通して、
地域の人と山をつなぐ活動を続けています。

「子どもと一緒に山に入るのは初めて」
「昔はこうやって薪をつくっていた」
そんな声が山の中に響き合い、世代を超えた交流が生まれていきます。

山に関わるということは、木を使うだけではありません。
その恵みに気づき、大切に思う“心”を育てることでもあります。

山と暮らす地域だからこそできる体験を、
これからも未来へつないでいきたいと考えています。


おわりに

山で過ごす時間は、子どもたちにとって宝物になります。
それは、教室では学べない「生きる力」を育て、
地域の人々にとっても「忘れていた大切な感覚」を呼び覚ます。

木を伐るだけでなく、火を使うだけでもない。
山は、学びとつながりを生み出す“場所”なのです。

次回は、そんな山の営みを支える“見えない努力と技術”に光を当ててお届けします。
どうぞお楽しみに。

2025.06.08:yamagata-maki:[新着情報]

山と人の物語 vol.7 『苗を植える、その先の30年』

  • 山と人の物語 vol.7 『苗を植える、その先の30年』

はじめに

森を育てる──それは、今を生きる私たちが、
まだ見ぬ未来の誰かのために手を動かすことです。

伐ったら、植える。
それが山を守り、次の世代に引き継ぐという約束。

今回は、私たちが取り組んでいる植林と育苗の現場から、
「森づくりの未来」と「山に託す願い」をお届けします。


植えることは、未来への投資

伐採した山に、再び命を戻す作業──それが植林です。

斜面に登り、一本ずつ苗を手で植えていく作業は、
見た目以上に体力と根気が必要です。

根がしっかり張れるように、土の深さや角度を考えて、
一つひとつ丁寧に植えていきます。

植える間隔や本数、傾斜や日当たりも見ながら、
“この山がどう育っていくか”をイメージしながらの作業。

今日植えた木が、再び収穫されるのは30年後。
自分がその姿を見届けられるとは限りません。

けれど私たちは、
その時に喜んでくれる人がいることを信じて、今日も苗を植えます。


苗を育てる、地域とともに

山に植える苗は、育苗ハウスで育てられています。

冬の間もビニールハウスの中では、
適温を保ち、自動潅水で水を与え、丁寧に管理された苗たちが育っています。

苗を育てるということは、未来の森の基礎を整えるということ。

私たちはコウヨウザンなどの苗木生産にも取り組みながら、
地域の方々と協力し、山と地域を同時に育てるプロジェクトを進めています。

ただ木を増やすだけではありません。
人の関わりがあることで、
その苗一本一本が“役割”と“意味”を持つのです。


30年後の森を想像する

30年後──
今日植えた木が、誰かの手で伐られ、また新しい命に変わっている。

それは薪かもしれないし、建材かもしれない。
もしかしたら、まだ見ぬ子どもたちの働く場所になっているかもしれません。

「この木が育つ頃、私は何をしているだろう」
そんな想像が、森と向き合う私たちの背中を押してくれます。

山は、長い時間をかけて、
人の暮らしを支え、働く場をつくり、
そしてまた次の誰かにバトンを渡していきます。


おわりに

苗を植えるということは、
未来に対して「私はここにいた」という証を残すことでもあります。

その木が育ち、誰かの役に立ち、また次の苗が植えられる。
そんな風に続いていく山の循環の中で、
私たちもまた、今という時間を精一杯生きています。

次回は、山で生まれる“学び”や“体験”をテーマに、
子どもたちや地域とのつながりを描いていきます。
どうぞお楽しみに。

2025.06.01:yamagata-maki:[新着情報]

山と人の物語 vol.6 『薪のある暮らしをつくる ~ぬくもりが生まれる場所~』

  • 山と人の物語 vol.6 『薪のある暮らしをつくる ~ぬくもりが生まれる場所~』

はじめに

「火を焚く」。
かつてはどの家庭でも当たり前だったその行為が、
今では“贅沢な時間”として、見直されつつあります。

私たちが届けている薪は、ただの“燃料”ではありません。
それは、暮らしをつくる道具であり、心をあたためる存在。
今回は、薪ストーブとともにある暮らしの魅力について、
実際のお客様の声を交えてご紹介します。


火があるだけで、空間が変わる

薪ストーブの炎には、不思議な力があります。
赤く揺れる火を見ているだけで、気持ちが落ち着き、
自然とテレビを消して、家族と火を囲む時間が増える。

「子どもがスマホを見なくなったんですよ」
「家族で火を見ながら話す時間が、何より贅沢です」
そんな声を、多くのユーザーからいただきます。

炎がある空間には、ぬくもりだけでなく、
“人のつながり”まで生まれているのです。


薪は手間、だけど心地いい

薪を使うには、手間がかかります。
薪を割り、積み、乾燥させ、取り込み、火をつける──
決してスイッチひとつで完結する便利さはありません。

けれど、それこそが「薪のある暮らし」の魅力です。

「不便だけど、その手間がなんだか楽しい」
「火をつけるとき、なんとなく一日が整う気がする」
という言葉にあるように、
薪を扱う“動作そのもの”が、暮らしのリズムをつくってくれるのです。

炎のぬくもりだけでなく、手をかけた満足感。
それが、薪のある生活にしかない“豊かさ”です。


顔が見える薪を選ぶ理由

私たちの薪を選んでくださるお客様の多くは、
「誰が、どこで、どう作っているのか」が分かることを大切にしています。

「山形のあの山で伐った木が、
 今、うちのストーブの中で燃えていると思うと、なんだか安心します」

そんなお声をいただいたとき、
私たちは「この仕事をやっていてよかった」と心から思います。

定期的に薪を購入してくださるリピーターの方とは、
配達時に近況を話したり、おすすめの燃やし方を教え合ったりと、
いつの間にか“ご近所づきあい”のような関係になることも。

薪を通して生まれる信頼関係が、
地域の中で、小さくても確かなつながりを育んでいます。


おわりに

薪は、ただのエネルギーではありません。
そこには、手間を惜しまない心、自然とのつながり、
そして人とのあたたかな関係性が詰まっています。

山で伐られた木が、誰かの暮らしの中心にあるストーブに火を灯す。
その一連の流れを見ていると、
「自然の恵みが、人の暮らしを豊かにしている」ことを、あらためて実感します。

これからも、そんな薪のある暮らしが、
静かに、でもしっかりと広がっていくことを願っています。

 次回予告:
これまでの「山と人の物語」シリーズを総括し、
印刷物・資料化に向けたまとめページをお届け予定です。

2025.05.25:yamagata-maki:[新着情報]

山と人の物語 vol.5 『山が支える、誰かの働く場所』

  • 山と人の物語 vol.5 『山が支える、誰かの働く場所』
  • 山と人の物語 vol.5 『山が支える、誰かの働く場所』

はじめに

山は、木だけを育てているわけではありません。
そこには、人の働く場があり、成長する場があり、
未来へつながる大切な営みが広がっています。

林業と福祉が交わる場所──
今回は、山が生み出す「誰かの働く場所」についてお伝えします。


誰にでも役割がある ~薪づくりの現場から~

私たちの現場では、薪づくりを通して、障がいのある方たちも多く活躍しています。
薪を作る仕事は、一見単純に見えるかもしれません。
しかし、そこにはたくさんの工程と役割が存在します。

  • 玉切りされた丸太を運ぶ人

  • 薪割り機で木を割る人

  • 割った薪をきれいに積み上げる人

  • 配達の準備を手伝う人

それぞれが、自分のペースで、コツコツと仕事に向き合っています。
「できた」「できる」という実感が、小さな自信を育てていくのです。

毎日の作業の積み重ねが、山を整え、誰かの暮らしを温め、
そして、働く一人ひとりの未来を少しずつ切り拓いています。


「できること」を見つけるサポート

福祉的な支援を取り入れた林業の現場では、
一人ひとりの“できること”に着目する工夫を大切にしています。

たとえば──

  • チェーンソーで木を倒すのではなく、割った薪をまとめる

  • 複雑な機械操作ではなく、手作業でできる部分を担当する

  • 外作業が苦手な方には、屋内で乾燥薪の選別をしてもらう

そんなふうに作業を細かく分解し、個々の強みに合わせた役割をつくります。

安全管理にも気を配り、
声かけや作業工程の見える化を徹底することで、
誰もが安心して作業に集中できる環境を整えています。

できることがひとつ増えるたびに、表情が変わり、
作業の合間には自然と笑顔が生まれる。
その瞬間に立ち会えることこそ、私たちの喜びです。


山も、人も、未来へつなぐ

山を守ることは、単なる自然保護ではありません。
そこには、人が働く場をつくり、育て、つないでいく力があります。

荒れてしまった山を整備し、
薪を生産し、
それが地域の人々の暮らしを温め、
さらに障がいのある方たちの働く場を支える。

山の循環は、そのまま「人の循環」につながっているのです。

持続可能な林業と、福祉の力を組み合わせる。
それは、これからの時代に求められる新しい山との向き合い方だと、私たちは信じています。


おわりに

山が育むのは、木だけではありません。
そこには、人の成長も、希望も、未来も、
静かに、しかし確かに根を下ろしています。

これからも私たちは、山を守りながら、
そこに集うすべての人たちの「働く場所」と「生きる場所」を支えていきたいと思います。

次回は、森と未来をつなぐ「植林」と「次世代への想い」をテーマにお届けします。
どうぞお楽しみに。

2025.05.18:yamagata-maki:[新着情報]

山と人の物語 vol.4 『雪とともに生きる ~冬の山と薪のはなし~』

  • 山と人の物語 vol.4 『雪とともに生きる ~冬の山と薪のはなし~』

はじめに

冬の山は静かです。
すべてが雪に包まれ、音も吸い込まれてしまうような、凛とした空気が広がります。
そんな中でも、私たちの仕事は止まりません。

雪に閉ざされた道を越え、凍てつく山へと入り、薪を届ける日々。
今回は、冬の林業と薪づくり、そしてその裏側にある想いをお伝えします。


白い静寂の中へ ~冬の山の表情~

山が雪に覆われると、見慣れた景色も一変します。
木々の枝には雪が積もり、地面の起伏すらわからない白い世界に変わる。
一歩一歩が慎重さを求められる、まさに“別の山”です。

けれど、そんな中でこそ感じられる美しさがあります。
朝の陽光が雪面に反射する瞬間、山の静けさが心に染み渡る時間。
私たちは、ただ作業をこなすだけでなく、この自然とともに生きているのだと、冬になるたび実感します。


雪の中の仕事術

冬の作業には、独自の工夫と覚悟が必要です。

雪に覆われた現場では、伐倒方向の見極めも一層慎重になります。
枝が雪の重みで垂れていたり、地面が凍っていたり──
夏とはまったく異なる“山の表情”に向き合わねばなりません。

配達もまた、ひと苦労です。
タイヤチェーンを装着し、凍結した道を走る。
吹雪で視界が奪われる中でも、安全に薪を届けるには高度な判断力が求められます。

スタッフの中には、月山道でチェーンが切れ、猛吹雪の中で救助された経験を持つ者もいます。
その経験があるからこそ、今では「雪道でも自信を持って走れるようになった」と語ります。


薪がつなぐ冬のくらし

冬こそ、薪がもっとも求められる季節です。

寒さの厳しい東北地方では、薪ストーブの火は、ただの暖房ではありません。
“暮らしの中心”であり、“家族の団らんの源”なのです。

そんな暮らしを支える薪を、自分たちが届けている──
その実感は、スタッフのやりがいにもつながっています。

「よく燃えて暖かかったよ」
「またお願いね」
そんな言葉をいただくたびに、
厳しい雪の中を越えてきた意味が報われる気がします。


おわりに

雪の季節。
それは厳しさの中に、美しさと意味が宿る時間でもあります。

山と向き合う者として、
薪をつくる者として、
そして人と人をつなぐ仕事をする者として──

私たちはこれからも、雪とともに、生きていきます。

次回は、林業と福祉の接点に迫る「山が支える、誰かの働く場所」をテーマにお届けします。
どうぞお楽しみに。

2025.05.11:yamagata-maki:[新着情報]