「第一次審査については、当初5者に絞る想定でしたけれども、どうしても5番目と6番目が選びきれないということで、協議の結果6者を第二次審査の対象者として選んでいただきました」(令和7年10月2日開催の記者会見における上田東一・前市長の発言)―。二次審査の対象枠を1者増やした結果、「昭和設計・tデ・山田紗子建築設計事務所共同企業体」が最優秀者(以下A者)に選出されたことについては、当ブログで何度か言及してきた。一方、この選定手続きに対し「(5番目と6番目に)甲乙つけがたいと言いながら、両者には歴然たる得票差があるではないか」など疑念を呈するコメントが寄せられた(5月12日付当ブログ参照)
この数字を深掘りした結果、驚くべき事実が浮き彫りになった。今回、次点になったのは「西澤・畝森設計共同企業体」(以下B者)。応募があった61者に対する予備投票の結果、うち14者が2回目の投票権を獲得し、さらにこの中の6者が第二次審査の対象者に選ばれた。A者とB者の得票数を比較すると、前者が3票だったのに対し、後者は6票と2倍の開きがあった。しかし、これだけの票差があったにも関わらず、最終的に優先交渉権を得たのはA者だった。この選定に係る全体講評では以下のように述べられている。
「本プロポーザルにおいては、駅前という利便性の高い場所が図書館敷地として選ばれた意味をくみ取り、使い勝手の良さとしての空間の具現化と、市街地再生の起点として長く市民に親しまれ、利用価値を最大化できる図書館を、厳しいコスト管理の下で短い期間の中で練り上げなくてはならないという課題があります」(市HPから)
さらに、A者が最優秀者に選ばれた理由については「計画全体に身体知をきっかけにした余地を意図的に設けるアプローチは、賢治の精神とも呼応する」と評価する一方で、B者については「花巻市の図書館としての発展性から考えると、C案(A者)に卓越する点を見出すことは残念ながら困難であった」(いずれも市HPから)とした。では一体、この二倍もの得票差は何を意味するのであろうか。
審査を締めくくる「公開プレゼンテーション」が昨年11月24日に市文化会館大ホールで開かれた。「188人もの傍聴者があった」と上田前市長は胸を張ったが、定員数(1200席)からみれば、まさにガラガラ状態。「各階を結ぶ空調設備には賢治(の『風の又三郎』)にちなんで、又三郎シャフトと名づけました」―。A者はプレゼンテーションでこう説明した。反射的にプロポーザル選定委員会の副委員長でもある吉成信夫さん(「みんなの森 ぎふメディアコスモス」元総合プロデューサー)の反応に注目した。
賢治にあこがれていた吉成さんは生誕100年の1996年、家族を挙げて岩手に移住。20年近くにわたって、「石と賢治のミュージアム」(一関市東山町)や「森と風のがっこう」(岩手郡葛巻町)を立ち上げるなど賢治を“実践”してきた人として知られる。その著書『ハコモノは変えられる』(2011年1月)は“箱もの”行政を真っ向から批判した書として今も読み継がれている。
「“又三郎”シャフトという命名は賢治の物語風土とは相容れない」―。プロポーザルの中でのこんな質疑を期待していた私はいきなり、肩透かしを食らった思いをした。持論である“賢治実践論”がひと言も聞かれなかったからである。吉成さんが実は“駅前図書館”の熱烈な推進者だったことを知ったのは、ごく最近のことだった(5月12日付当ブログ「追記―1」を参照)。正直、裏切られたという気持ちになった。
設計業者に選定されたA者の中心企業体でもある「山田紗子建築設計事務所」代表の山田さんは2020年には日本建築設計学会大賞を受賞するなどスケールの大きいランドスケープ・デザイナーとして知られる。「山田紗子展」(パラレル・チューンズ)が7月12日まで、東京都内のギャラリ―で開かれており、案内チラシにはこうある。「調和を目指すシンフォニーではなく、和音も不協和音も同時に響く、ポリフォニー(多声音楽)として世界を描きたい」
ひょっとしたら、「又三郎シャフト」は山田さんのこうした建築理念にその根があるのかもしれない。その大胆な発想に異議を唱えるわけではないが、賢治“風土”にどっぷりつかってきた地元民の私にとってはやはり、譲ることができない一線である。賢治の“いいとこ”取りだけがやけに目に付くからである。
もうひとつの立地候補地である「旧花巻病院跡地」は賢治が市民歌でもある「花巻農学校精神歌」を作ったゆかりの地である。広大な敷地の背後には霊峰・早池峰山が浮かんでいる。賢治の物語世界を演出できるのはここしかないというのが私の頑固なほどのこだわりである。受託業者を決めたプロポーザル選定委員会(乾久美子委員長ら6人)の構成は行政職を除いた5人中3人がハード面の担当する「建築」関係者である。「知のインフラ」と呼ばれるように図書館の生命線はソフト面の充実にかかっている。その辺がすっぽりと抜け落ちてはいないか。
今回の大逆転劇の舞台裏はやはり、気になる。AIさんの意見を聞いてみた。「制度上は必ずしも不当ではありませんが、公平性・透明性の観点から非常に慎重な対応が求められるケースです」。“出来レース”という疑念が頭をよぎった。「駅前立地か病院跡地か」―。私は民意を問い直すための最後の選択肢はもはや、「住民投票」しかないと思っている。上町など市のど真ん中に位置する「中心市街地」の活性化を促すためには、人流が直結する病院跡地への立地こそが最適ではないか。なぜ、駅前立地にこれほどまでにこだわるのか…。背後にきな臭さが漂っている気配を感じる。
図書館“迷走劇”につき合わされて10年以上が過ぎた。闇にうごめく魑魅魍魎(ちみもうりょう)を嗅ぎ分ける“嗅覚”だけは異常に敏感になった。賢治まちづくり課を置き、「イーハトーブはなまき」の実現を掲げる行政当局がその“賢治殺し”に加担するという自殺行為だけは絶対に避けなければならない。
(写真はプロポーザルの審査をする選定委員会。マスクの女性が乾委員長、その右側が吉成副委員長=令和7年11月24日、市文化会館で。市HPに公開された動画から)
《追記》~資材調達は前倒しってこと!!??
「建物の躯体、根幹になるような建物自体、そういう空調や電気設備 というのは、大体は標準的なものと考えられるのでそれらは当然地元でも受注できる と思います」ー。市川清志・新花巻図書館計画室(当時)主任専門員が令和7年6月6日開催の議員説明会で、こんな発言をしている会議録を見つけた。大型建造物の建設の際、資材調達の目途をつけておくことが業界の常識と理解しつつも…。設計業者が決まる半年近くも前に”又三郎”シャフトを連想させるような生臭い話があったとは。眉に唾をつけて置こう。



この記事へのコメントはこちら