断捨離「大作戦」(「本の目利き」三人衆その2)…「港」という小宇宙の不思議な空間!!??

  • 断捨離「大作戦」(「本の目利き」三人衆その2)…「港」という小宇宙の不思議な空間!!??

 

 「人や本や、そして色んなモノたちがより集う場所こそが港。だから、『港』と名づけたんです」―。原油の積出港が攻撃され、ホルムズ海峡の封鎖問題で全世界が揺れる中、私は店主の村上巨樹さん(43)の言葉に「そうだよな」といちいち、うなずいていた。名刺には「古書、レコード・CD、東南アジア食品…」と印刷され、裏には入港する大型船のデザインがあしらってある。開業は2年前の秋。いわゆる、“古本屋”とは一味ちがう雰囲気である。突然、店の奥からギターをつま弾く音が聞こえてきた。

 

 もともと、音楽好きだった村上さんは中学1年の時、ギターの音色に取りつかれた。特訓を受け続け、ギター奏者としての腕はめきめき上達した。やがて、作曲も手がけるようになり、自主音楽レーベル「CADISC」を主宰するほか、ギターとドラムだけのバンド「te-ri」(テーリ)を結成。ヨーロッパやアメリカの縦断ツアーも敢行した。転機が訪れたのは東日本大震災(3・11)。地元・花巻の高校から東京の大学を卒業し、ごく普通の社会人生活を送っていた。未曽有の大災厄…村上さんはきっぱりと都会に別れを告げた。

 

 田舎暮らしのそんなある日、何気なく聴いたYouTubeからポップ調の音楽が流れてきた。海を隔てたミャンマー(首都ネピドー)で開かれた音楽イベントの映像だった。これまで耳慣れない旋律(メロディー)にビビッときた(らしい)。それはひょっとしたら、“民族の魂”みたいなものだったのかもしれない。2016年、念願のミャンマ―へ。祭りや儀式に流れる、仏の国ならではの独特の旋律に肌が敏感に反応した。生来とも言える“文化人類学”的な嗅覚がそれを生み出した風土や歴史の探求に向かわせた。

 

 太平洋戦争中、旧日本軍はタイとビルマ(現ミャンマー)とを結ぶ泰緬鉄道〈415km〉の突貫工事に着手した。旧連合国捕虜や現地のアジア人労働者など10万以上が犠牲になり、“死の鉄道”とも呼ばれた。昨年9月、タイ側のカンチャナブリから現場に足を運び、当時のビルマ戦線の悲惨な歴史の記憶を心に刻んだ。

 

 映画「ビルマの竪琴」(竹山道雄原作・市川崑監督、1956年)は日本兵「水島上等兵」が復員後、僧侶に帰依(きえ)して亡き戦友の霊を弔うという筋書きである。水島上等兵が竪琴で「仰げば尊し」をつま弾くシーンが後半部分に出てくる。日本への帰国が決まった戦友とビルマの土になることを心に決めた水島上等兵との最期の別れの場面である。「今こそ別れめ、いざ、さらば…」―。「加害と被害の描写があいまいだ」という批判を承知しつつ、私はこのシーンに何度も涙をこらえることができなかった。

 

 「僧侶が音楽演奏をすることが禁止されているので、この映画は今もミャンマ―では上映禁止になっています」と村上さんは話し、こう続けた。「でも、あの最後の場面にはやはり…」―。「サウンガウッ」と呼ばれる竪琴は千年以上の伝統を有する民族楽器で、映画に使われたのもこれである。「まだまだ、手が届きません。一日も早く、あの深い音色を自由に操りたい」と村上さん。と次の瞬間、背後の本棚からどぎついタイトルの本が目に飛び込んできた。

 

 『宮沢賢治殺人事件』(1997年3月、太田出版)―。筆者のノンフィクション作家、吉田司さんとは旧知の仲だった。この1年前、賢治のふるさと「イーハトーブはなまき」は生誕100周年を祝うイベントで盛り上がっていた。ある時、彼から突然電話がかかってきた。

 

 「このお祭り騒ぎにはホトホト、嫌気がさしてきた。おれは賢治の聖者伝説、つまり“神話崩し”をやろうと思う。ところで、あんたのふるさとは花巻だったよね。ただのぶった切りでは身も蓋(ふた)もない。あんたは等身大の賢治を描いて、合わせて一本勝負というのはどうかね」―。滑り込みのセーフ。賢治が“殺される”、わずか1か月前に上梓されたのが拙著『賢治の時代』(1997年2月、岩波書店)だった。

 

 ギターの音が聞こえなくなった。副業にしている「ギター教室」が終わったようだった。ブログ用の写真撮影に応じた村上さんがポツリと言った。「僕はアイヌ民族の『ウポポ』(座り歌)にも興味があるんです」―。約5000冊の本に囲まれた空間に身を置いているうちに「時間と空間とが無限に交差する小宇宙」…これこそが古書店「港」ではないかと思った。そして「真の意味のナラティブ(物語化)は古書や歌や踊りといった、混然一体とした空間から生まれるのではないか」とブツブツと独り言ちていた。

 

 

 

 

 

 

(写真はギターを手に“本談義”に興じる村上さん=花巻市大通り1丁目で)

2026.03.26:masuko:[ヒカリノミチ通信について]

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