新花巻図書館が建設される予定のJR花巻駅前のスポーツ用品店跡地と目と鼻の先に9階建(地下1階)の建物が建っている。おなじみのホテル「グランシェール花巻」である。平成5(1993)年11月、当時の建設省(現国土交通省)が提唱した駅前開発事業「レインボープロジェクト」の一環として、オープンした。事業の推進母体は「(株)花巻レインボー開発」で、花巻商工会議所会頭などを歴任した故宮澤啓祐さんがそのトップの座にあった。あれから、30年―
「目指すのは小さなイーハトーブ。宮澤賢治の世界観を紡ぎ続ける場所として」―。令和5(2023)年3月、同ホテルは賢治を模したメルヘンチックな雰囲気に姿を変えてリニュ-アルオ-プンした。経営を引き継いだのはホテル業界大手の「(株)リオ・ホ-ルディングス」(リオ・ホテルズ花巻)で、改修に当たっては市側が補助金申請した「地域一体となった観光地・観光産業の再生・高付加価値化事業」(観光庁)の補助金約5億円が充当された。
当初は市街地で唯一の駅前ホテルという触れ込みだったが、その経営実態は決して順風満帆ではなかった。それどころか、登記簿などによると、同ホテルはオープンと同時に地方銀行や大手生命保険会社からざっと、30億円の融資(抵当権設定)を受けるなど難産のスタートを強いられた。車社会の到来と鉄道利用者の減少に加え、コロナ禍がこれに追い打ちをかけた。英領西インド諸島を本拠地とする外資系の債権者に一時、ホテルを差し押さえられるという事態も発生。競売の直前にメーンバンクがその債権を買い取って、窮地を脱するという出来事もあった。
こんな中で浮上したのが新図書館の「駅前立地」構想である。JR側と市側とで駅前開発を協議した「まちづくり勉強会」の開示文書の中にこんなやり取りがある。「運営面を絞ってから考えたい。予想では上層階が図書、低層が多機能スペースかと。これらを一体で運営できる手法があるとよい。図書館が複合施設の出店者やホテルやなはんプラザとの連携(新しい事業開発)を誘発する存在になればと思う」(JR側、平成30年4月19日)、「図書館と複合の事業で周辺の価値を高めていきましょう、という趣旨。その分周辺の価格が上がり、税収もペイできるという理論構築につなげていければ良い」(市側、平成30年6月19日)
新装なったホテルに足を踏み入れると、以前和食レストランだった場所には「宮沢賢治探検隊本部」の看板が掲げられ、賢治関連の秘蔵品などが並べられている。さらに、『銀河鉄道の夜』や『注文の多い料理店』を題材にした「銀河ルーム」や「山猫ルーム」などのコンセプトルーム、賢治が愛した鉱物から着想を得たという大浴場「ポクポクの湯」…。賢治の“ゆかり”を演出する仕掛けがあちこちにほどこされていた。一方、「リオ・ホ-ルディングス」のHPには「出会い」と題して、こんな文章(要旨)が載っている。
「そんな中、宮澤様のメーンバンクからの紹介で、リオにホテルグランシェール花巻を一緒に運営してくれないかとご相談がありました。宮澤賢治ゆかりの地にあって、かつその親族が長く運営してきたホテルともあり、大変魅力的に感じたのは言うまでもありません。またご相談を受ける中で、花巻市長上田東一氏とも面会させていただくことに。そうして、グランシェール花巻を再生するだけでなく、駅前の立地を活かし、花巻の玄関口として駅前全体を元気にしたいというリオの想いを叶えるためのスタートを切ることができたのです。以後、花巻市もまじえ、宮澤家とタッグを組んで運営に取り組むことになりました」
ずいぶんと分かりやすい構図ではないか。新図書館の駅前立地と駅橋上化という二大プロジェクトがもたらす波及効果はまず、周辺地価(土地評価額)の上昇という形をとって表面化する。このことはこの一帯の不動産所有者にとっては、固定資産税が増える一方で、その資産価値は逆に高まることを意味している。その点では浮沈の激しいホテル業界の運営にとっても「駅前立地」はある種の救済策だったとも言える。逆に言えば、「新図書館(市)×駅橋上化(JR)×ホテル(賢治“利権”=宮沢家)」―。この“三位一体”こそが上田市政のまちづくり構想を背後で支える「利権の構図」に他ならなかった。つまり、この3者の利害が一致するのは「駅前」以外にはあり得なかったということである。
「花巻駅前も賢治作品『シグナルとシグナレス』の舞台であり、『銀河鉄道の夜』のモチーフとなった岩手軽便鉄道や花巻電鉄の駅があった場所で賢治ゆかりの地でもあります」―。「駅前立地」を正当化する理由として、菅野圭生涯学習部長は議員説明会(3月28日)で苦し紛れにこう述べている。これだけでは説得力がないということなのだろうか。市側はホテルの密閉空間にしつらえられた、もうひとつの「賢治ゆかり」の宣伝に余念がない。装いを新にした賢治“利権”の登場を当の本人は銀河宇宙の果てから、どんな思いで眺めているだろうか。
(写真は「中ニ居リマス 賢治」と書かれた暖簾が下がった「宮沢賢治探検隊本部」の入り口=インターネット上に公開の写真から)
≪追記ー1≫~「利害共同体」という名の“四位一体”!!??
表向きは“中立”の姿勢を見せながら、国政選挙などでは自民党候補者を公然と支持してきた上田東一市長の選挙戦でなぜ、社民党系の市議がその後援会の実行部隊を担ってきたのか―長年のナゾだったこの「奇妙な関係」が新図書館の駅前立地と駅橋上化事業によってその輪郭が少しずつ、見えてきた。
その背後には「駅前開発」というこの巨大プロジェットがもたらす美味しい“果実”がたわわに実っているはずである。これに賢治“利権”が加わる形で産声を挙げたのが「利害共同体」という名の“三位一体”。いや、後援会事務局長の照井省三市議ら上田応援団の市議連中も含めれば、”四位一体”体制とも言える。世にも稀なる「イーハトーブ」政体の、これが出自の秘密…
≪追記―2≫~そうとうテコ入れしたことが理解できますね。
「北野賢人」を名乗る方から、「以下のホテルグランシェールさんのホームページを見ると、行政とリオグランデさんとの蜜月関係(仲良く市長ほか関係者の皆様と写真に載っていますね)がよくわかりますね。(笑)」と興味深い画像の数々が送られてきた。以下のアドレスから、どうぞ
https://www.rio-corp.co.jp/creation/collab04/
≪追記―3≫~行政の力
「納税者」を名乗る方から、以下のようなコメントが届いた。花巻病院の“借金”肩代わり事件(財政支援)も結局は行政側の“失政”に起因するのではないか。監視役の議会側の力量も問われる昨今である。
「花巻市のビッグプロジェクトに関った民間事業者はどうしてこうも巨額の負債を被るのか不思議です。レインボープロジェクトでは30億円の借金、昨年の民間病院の例では75億円の借金で、破綻しそうな法人を救うために市が5億円の公金を補助していたのももう旧聞に属するようです。5億円の支援も元をただすと国民、市民の収めた税金ですよね。失敗してもこんな風に取り繕うことができるのって、行政の力ってすごいものです。こういう力、違う方に使ってほしいものですが」
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