前回登場した地業工事が完了した後、その上面に厚さ5cm程度のコンクリートを打ちます。
(コンクリートを流し込むことを、「打つ」または「打設する」と言います。)
このコンクリートを、捨てコンクリート(略して捨てコン)と呼びます。
どうして、コンクリートを「捨てる」のでしょうか?
構造耐力上、必ずしも必要ではありませんが、良好な現場では捨ててしまいます。
それは、型枠の正確な位置出し(墨出し)と、鉄筋を配筋するときに、設計で決められた所定の位置を確保するためです。
作業性と精度を向上させるために、捨てるのです。
決してもったいないと、ケチってはいけません。
コンクリートを「捨てる」のは、もったいない?
まずは、地業(じぎょう)工事で地盤固め
着工後しばらくは、建物の良し悪しを左右する重要な工事が続きます。
地業(じぎょう)工事もその一つ。
ある活動が成り立つための足場や勢力を固めるときに、よく「地盤固め」という表現を使いますが、地業工事は、まさに「地盤固め」です。
地業とは、建物の基礎を支え、かつその荷重を確実に支持地盤に伝えるため、地盤の支持力を増強する工事を目指すもので、基礎の下部に施す地盤増強工事の総称です。
住宅では、砂利地業(じゃりじぎょう)や割栗地業(わりぐりじぎょう)がよく使われます。
写真は、砂利事業が完了したところです。比較的良好な地盤の場合、根切り(ねぎり)面に砂利あるいは砕石を10~15cm程度敷き込み、突き固めます。
土の上なのに、どうして水(みず)?
前々回紹介した「地縄張り」を元に、縄より1m程度離して水杭(みずぐい)と呼ばれる木杭を打ち、縄を取り囲む形で巡らします。
この水杭に打たれる木を水貫(みずぬき)と呼んでいますが、計測器で高さを正確に測定して一定の高さで水貫を取り付けます。
水貫が取付けられると、そこに芯墨(柱・壁の中心)や基礎の高さなど、数々の重要な情報を書き込みます。
対面する水貫の間を、芯墨に合わせて糸を張り渡し、この後に行われる地業工事・基礎工事の基準にします。この糸を水糸(みずいと)と呼びます。
これら一連の仮設物が、遣り方(やりかた)です。
土の上なのに、どうして水(みず)?
ある時、はたと気付きました。そう、水面のように平らであるという「水平」ですね。
建物は、水平が命です。遣り方次第で、建物の命が左右されます。
すごく単純な方法ですが、合理的で、施工精度と作業性を上げる先人の知恵です。
誰の曲尺(さしがね)だ?
墨付けは大工技量の集大成!棟梁たるゆえんです。
墨付けとは、曲尺(さしがね)と墨糸(すみいと)または墨刺(すみさし)を用いて、梁や柱などの木材面に線や印を付けることです。
棟梁の頭の中では、家の構造が立体的に理解されていなければなりません。
立体としての家を頭に描きながら、仕口(柱・梁などの部材の接合部)をどのように納めるのか、想像しながら刻みの基準となる線を付けていきます。
また、曲尺(さしがね)を使いこなすのも棟梁の技量です。
曲尺は墨付けに用いるL字型の物差しで、線を引くだけでなく、加減剰余の図解計算や平方根・立方根の解法、長さ・面積・体積を求めることができる優れモノです。
「誰の曲尺(さしがね)だ?」
建て方(たてかた)前に刻んでおいた部材を組み上げていって合わない場合「これは誰の曲尺だ。どういう寸法か?」から発展して、「どういう魂胆か」という意味で使われています。
写真は、棟梁が加工場で墨付けをしているところです。
近年はプレカット工法と呼ばれる、コンピュータ制御による自動機械加工の波に押されています。
熟練技の伝承が途絶えてしまうことは、非常に寂しい限りです。
ちなみに写真の木材は、山形県を代表する銘木金山杉(かねやますぎ)です。
地縄張りは、原寸大の配置図です
建物を建てる前に、敷地に縄を張って位置を示します。
まるで原寸大の配置図です。
縄を張るための杭を「地杭(じぐい)」と呼び、縄やビニール紐を張って位置を示すことを「地縄張り(じなわばり)」と呼びます。
俗に「領分を示す」意味に使われる『縄張り』というのはこれに由来するものです。
よほど大きな建物でなければ、地縄張りを見て「意外と狭いなあ」という印象を持ちます。高さ方向のボリュームを感じていないためだと思います。
設計者は、地縄が設計通りの位置であるか、それが敷地・周辺の状況に対して妥当であるかを再確認します。
また、建築主にも確認してもらい、敷地に対する建物のイメージを膨らませてもらうことが望ましいでしょう。










