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第四章 自分の居場所を作るネクストビジネス

自分の会社を手放した後は、ビジネスには無関係の人生を歩む・・・。

 

売却しようとする大半の経営者はこのようなことを考えるのではないでしょうか。

 

「最近の中小企業は人手不足のようだし、仕事が恋しくなったら、長年経営してきた会社で腕を磨いてきた知識を活かせる何かがあるだろう?」などと、悠長に漠然と考えている経営者がいるかもしれません。

 

仕事に人生をかけてきた経営者が、本当にビジネスに無関係の人生を全うできるでしょうか。

 

自分の経営してきた業界での知識を売却後も活かせるでしょうか。

 

 

多くの中小企業M&A指南書には、売却した経営者は、顧問という肩書き等で、一定期間会社に残ることができる。あるいは、引き続き経営に従事できることができる、などと楽観的に教示する著書があります。前者の「一定期間会社に残ることができる」ということは可能ですが、これは、新社長への引継ぎのための期間と考えるべきです。私の場合は6ケ月間、顧問という肩書きで売却した会社に残留しました。

 

後者の「引き続き経営に従事できることができる」というアドバイスも間違いではありません。しかし、売却した経営者の心情を無視したアドバイスかもしれません。売却前まで代表権を持ったオーナー社長であった立場から、代表権を返上した、「雇われ社長」として経営に携わっていくことになります。考えるべきことは、オーナー社長として君臨していた経営者が、代表権をもった実質オーナーの下で、雇われ社長、あるいは、顧問として経営を続ける覚悟があるか、ということです。私の経験から言えば、売却した会社からはできるだけ早く離れ、自分の居場所を新たに見つけた方がよいのではないかと思います

 

売却を検討している経営者は、売却後の引継ぎ等も終了し、仕事から解放された後は、どこに居場所を求めるのでしょうか。冒頭の「ビジネスとは無関係の人生」とはどのような人生でしょうか。具体的なイメージが出来上がっているのでしょうか。

 

「朝起きて、新聞に目を通し、今日のスケジュールを確認し、愛妻がいつも準備してくれる朝食を済ませ、さぁ出社!」売却後はこの一連の行動様式が不要になります。つまり出社不要ということです。

 

何の予定もない人は、自分の居場所が終日自宅になる恐れがあります。一日や、二日程度の休日で自宅に引きこもるならば「命の洗濯」になります。しかし、売却後、連日自宅に居座る日が続けば、確実にその存在は「粗大ゴミ」です。過去、経営者として家族を養ってきたという自負があるでしょ。しかし、悲しきことですが、過去の偉業ということになってしまい。「粗大ゴミ化」した元経営者の居場所は確実に失われてしまいます。

 

経営者として活動していた時は、仕事一途に休日も惜しんで自社の経営に勤しんでいたはずです。精神的にも肉体的にも自分の体を酷使し、「休みが欲しい」と心の底で思っていたはずです。その思いが自社売却と共に実現したと思えば、今度は時間の経過と共に「仕事が欲しい」という思いが強くなっていくかもしれません。

 

経営者は、「忙しい」を口癖にしながら仕事を楽しんでいるのではないでしょうか。

 

経営者は、仕事があるから休息と余暇が楽しくなるのではないでしょうか。

 

経営者は、休息と仕事の両立で幸せになれるのではないでしょうか。

 

そこで、自社売却後の経営者にお薦めしたいのが、売却後に自分の居場所を創るネクストビジネス(第2創業)です。売却前の優良企業経営者は、業界の会合や、地域の企業で構成する商工会議所や、税務署関連の法人会他、地域の名士として様々な会合や交流会に勤しんでいるはずです。しかし売却後は、その活動の主体は買収側の社長へと移行していくのです。売却後引続き社長、あるいは、顧問として残ることも可能ですが、いつまで続くのでしょうか。さらに、社長の座を降りた元社長として、売却した会社での居心地は快適なのでしょうか。

 

 前述したように、私は引継ぎのため、売却後、顧問として残留する契約を結びました。しかしながら、正直なところ、その居心地は快適なものではありませんでした。譲渡先企業の待遇が悪かったというものではありません。売却し、社長の座を退いたという精神的な負い目があったのです。しかし、私は、売却と同時に、売却した会社とは別の地でネクストビジネス(第2創業)の準備に入り、別会社設立を進めていましたので、息抜きの場があり、精神的負担という息苦しさから解放されました。

 

M&Aを実践しようとする経営者にネクストビジネスを提案する理由がもう一つあります。

 

売却と同時に元の会社の経営者としての肩書が消え、前述した様々な活動主体は買収側の社長に変わります。つまり、ビジネスを介した活動の場がなくなるということです。ビジネスを介した地域社会での活動といえば、前述した商工会議所、法人会、さらには、ロータリークラブ、ライオンズクラブ、倫理法人会など様々な団体があります。本書をご覧いただいている経営者の多くが、これら地元の団体に所属しているのではないでしょうか。

 

これら団体では、様々な研修会や、交流会、懇親会が開催され、中小企業経営はこのような中でコミュニケーションをとり、地域内で地元の名士として活動することで生きがいを持っているはずです。しかし、自社を売却した後、役職も離れてしまうと、その団体からは退会せざるを得ないという危惧が発生します。その危惧を一掃するためには、ネクストビジネスがあれば、売却した会社から離脱しても、ネクストビジネスの会社の代表者の肩書で所属し交流を続けていくことができます。

 

しかしながら、ネクストビジネスと言っても仰々しく考える必要はありません。雇わない雇われない働き方で、自分の興味の持てる分野、やりたい分野での起業です。起業というと大袈裟になりますが、自分の居場所創りです。利益追及のビジネスではありません。自分の趣味を活かした分野、現代社会が求めている分野を本気になって探してみてください。自分の経験を活かせる分野、自分の人生の棚卸と社会の出来事を探求していくと「これだ !」という起業アイデアが見つかります。自分の向き、不向きを見極めて自分の居場所を作るネクストビジネスにチャレンジしてみてください。

 

売却した会社のように社員は必要ありません。社長一人、社員ゼロでいいのです。売却後の居場所となる会社はシェアオフィスやノマドで十分です。自宅に余裕のある部屋をお持ちであれば、自宅に事務所を構えてもいいのですが、一日中自宅兼会社に閉じこもっていると、前述した「粗大ごみ」になる恐れがあります。ネクストビジネスは、自宅から離れ通勤するという環境が重要です。通勤することで気分転換になり、通勤し自分のシェアオフィスか、ノマドでビジネスを行うことで充実感があり、余生を元気に過ごす意欲が持続します。通勤時間も勤務時間も自分で好きなように決めればいいのです。

 

シェアオフィスとは多くの人が事務所を共有できる、会員制のレンタルオフィスです。一定の月会費を支払えば自分のオフィスとして使用することができ、月会費のランクで様々なサービスをうけられます。机やいすが備え付けられており、多くのシェアオフィスでは、Wi-Fiや応接室なども必要に応じて使うことができます。「身一つ」で入居することができるのが特徴です。

 

一方のノマドとは、オフィスだけでなく、様々な場所で仕事をするワークスタイルです。特定の場所にとらわれず仕事をする人々をノマドワーカーと言います。ノートパソコンと通信技術の発展で、ネット環境があれば世界中どこでも働ける「ノマドワーカー」が増加しています。

 

大半の喫茶店やカフェにはWi-Fi環境が整っています。シェアオフィスの活用は、月会費一万円程度の負担で自分の会社が出来上がります。ノマドウォーカーになるには、カフェでコーヒーをオーダーするだけです。ノマドワーカーの代表的なカフェに、スターバックスコーヒーがあります。数年前までのスターバックスコーヒーは、パソコン持参の若者や外国人ビジネスで占められていましたが、現在では様変わりしています。パソコンや「Ipad(アイパッド)」持参のシニアが増えてきました。

 

日本や世界の至る所、ノマドワーカーの場所には事欠きません。私の住む仙台には、前述のスターバックコーヒー、ドトールコーヒー、カフェベローチェ、星乃珈琲店などなど、より取り見取りです。マクドナルド、イケヤレストランでは、Wi-Fi完備でコーヒーがたったの100円です。以前は、「長時間の滞在お断り」の店内表示が見受けられましたが、ノマドウォーカーが市民権を得ている現在では、このような表示は撤回されるようになってきました。

 

自分のネクストビジネスを定めた後、シェアオフィスの活用とノマドワーカーの組み合わせはリタイア後の人生を生き生きとしたものにすることができます。私は、よくスターバックスを利用しますが、顔なじみとなり、私が社長であることを知っているスターバックスのお嬢さん方は、明るい笑顔で「社長おはようございます」と挨拶してくれます。私のオーダーはいつもわき目を振らずにドリップコーヒーのため、カウンターで私がオーダーを告げずとも、すぐにドリップコーヒーが出てきます。まるで、私の秘書が気を利かしてコーヒーを提供してくれるような感覚に陥ります。

 

明日のノマドはスターバックス、次の日はマクドナルナルド・・・その次は星乃珈琲店などと、ノマドスケジュールを手帳に記入していくことが楽しみとなり、人生に張りがでてくるはずです。

 

私は自宅とは別に自分のオフィスを構えていますが、気分転換も兼ねながら、様々な場所でノマドワーカーを決め込んでいます。ノートパソコンをカフェに持ち込み、Wi-FiでインターネットやEメールにアクセスし、メールチェックやビジネスの進捗状況チェック、そして新たな企画のプランニング等で時間が過ぎていきます。この著書原稿も大半をスターバックスコーヒーで執筆しています。自分のオフィスをホームとするならば、ノマドワーカーは「アウェー」の居場所です。自分のオフィスや自宅に閉じこもっているばかりでなく「アウェー」に出向くことで、様々なアイデアが次々に創出し自らの意欲に結び付いていきます。

 

それでは、どのようなネクストビジネスがいいのでしょうか。

 

自分の趣味や好きなことを仕事にできたらどんなに楽しいことでしょうか。売却額の高低にもよりますが、ネクストビジネスは家計に響くような事業は控えるべきです。儲けは二の次で構いません。前述したように、本来のネクストビジネスの目的は自分の居場所作りです。売上目標や様々なビジネス慣習や常識に縛られることなく、自由な発想で手掛ける「ゆる起業」がお薦めです。楽しみながらいきいきと働くことができるネクストビジネスを見つけて下さい。

 

現在の日本の中小企業は後継者不足です。後継者不足の中小企業に対し、「フェース to フェース」でM&Aの仲介者が介入するM&Aも進化し、今ではインターネットで売買が成立する時代です。それこそ、数百万円程度でお気に入りの企業が購入できるかもしれません。自社を売却し、お気に入りの中小企業を購入し「ゆる起業」というネクストビジネス起業が実現します。

 

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