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第四章 終わった経営者にならないためのPDCA

昨年上映され話題となった映画作品のひとつに「終わった人」があります。定年を迎えた男のまだまだ終われない人生の奮闘記です。脚本家・内館牧子さんによる同名小説を、舘ひろしさんと黒木瞳さんの主演で映画化したハートフルコメディです。大手銀行の出世コースから子会社に出向し、そのまま定年を迎えた舘ひろしさん演じる田代壮介。世間からは「終わった人」と思われ、仕事一筋の人生を歩んできた壮介は途方に暮れます。一方の主役黒木瞳さん演じる、美容師の妻・千草は、かつての輝きを失った夫と向き合えずにいました。壮介は「どんな仕事でもいいから働きたい」と再就職先を探すのですが、これといった特技もなく、さらに東大卒という肩書が邪魔するなど、定年後の男に職など簡単に見つかるはずがありません、さらに、娘から「恋でもしたら」などとけしかけられたところで、気になる女性がいてもそう思い通りになるものはありません。しかし、すでに止まってしまったかに思えた壮介の運命が、ある人物との出会いから大きく動き出していく、といった概要の映画です。

 

この映画を反面教師とすることで、売却後の経営者の生きがい作りのひとつになるものと思い紹介してみました。自社売却後、終わった経営者にならないための人生計画が必要と思うからです。原作は内館牧子さんの「終わった人です」。売却を視野に入れている経営者のみなさんには、売却後の余生を探る参考書として、一読されることをお薦めします。「終わった人」を「終わった経営者」と入れ替え、自らが主人公としてイメージしていくことで「ビジネス」に従事していたありがたさを実感でき、さらなる目標がみえてくるかもしれません。

 

前述した「ある人物との出会い」は、新規ビジネスに導かれていく出会いです。リタイアを経験してみて初めて分かることは、目標なき人生の喪失感です。売却した後、完全リタイアから一か月程度は解放感に浸ることができます。しかし、その後の目標が見つけられなければ抜け殻になる恐れがあります。長年ビジネスの世界に従事してきた経営者は自由時間の使いかたに不慣れです。経営者としてビジネスの最前線にいた時の経営者は、会社主導で様々なスケジュールがあり、自らの行動様式のオン・オフも会社に所属していることでメリハリをつけることができました。

 

しかし、リタイア後は自分自身で自分の行動様式をつくり、自分を管理していかなければなりません。売却は成功したものの、時間の経過と共に、元経営者時代のビジネスを介した部下や取引先、さらには関係団体との交流もなくなり、目的を失ってしまう危惧があるからです。「終わった人」ならぬ「終わった経営者」になってしまうのです。

 

経営者の皆さんは手帳をお持ちのはずです。きっとその手帳には、先々のスケジュールがビッシリと記入されているでしょう。しかしながら、一度、そのスケジュールを見つめ直してほしいのです。その大半が自のビジネスを介したスケジュールではないでしょうか。仕事のスケジュールを除いたならば、「真っ白」となる経営者も存在するのではないでしょうか。現経営者の皆さんは、業界の会合、研修会、親睦会等々、様々なスケジュールに付きまとわれ、自らの余暇を犠牲にしている連日かもしれません。

 

しかし、売却後、リタイアしたならばビジネスを介したスケジュールが無くなり、手帳に書き込まれたスケジュールは、持病の通院予定だけなどと、笑えない状況を迎えるかもしれません。そこまで悲観的な事にならずとも、売却前に夢見た、国内旅行や海外旅行の予定を手帳に記入できたとしても、年に数回ではないでしょうか。

 

 売却後は妻と二人で悠々自適を夢見たものの、悠々自適が仇となり、外部とのコミュニケーショ不足で孤立し、さらに、唯一の理解者であり伴侶と思っていた妻からも敬遠され、目的もなく、意欲喪失し、孤立してしまう危惧は、売却を成功させた経営者に潜む盲点なのかもしれません。

 

経営者時代は、経営の第一線で自社を率いていく能力が必要ですが、リタイア後はリーダーシップよりも、あらゆるコミュニティに溶け込む協調性が求められます。会社を経営していれば、なにがしかのコミュニティとのつながりがあります。さらに遡って子育て中であれば、子供を介したなにがしかの行事があります。つまり、自分から求めなくとも、社会と関わるコミュニティが知らぬ間に介在しているのです。しかし、売却した経営者はそうはいきません。社会と繋がるには,自分からアプローチしていかなければなりません。売却後、様々な意味で生涯現役を続けるには、手帳の空白を埋める努力が必要なのです。

 

それでは「終った経営者」にならず、生涯現役を続けるにはどうすればいいのでしょうか。M&Aで売却を成功させた後、元経営者の皆さんはどのような人生を送りたいのでしょうか。そのためにはどのようにすればよいのでしょう。

 

私はPDCAを推奨したいと思います。

 

PDCAは、「Plan計画」「Do実行」「Check評価」「Action改善」の4つの英単語の頭文字で「PDCAサイクル」とも呼ばれています。生産・品質などの管理を効率よく進めるためのビジネススキルです。

 

M&A売却を目指す大半の経営者のみなさんは、自社売却後、ビジネスの第一線から退きリタイアしたならば、PDCAなどというスキルは「何の役にもたたない」「面倒くさい」と考えるのではないでしょうか。リタイア後はビジネスから解放され、好きなことをして過ごしていくなどと、漠然と考えているのではないでしょうか。しかし、その考えかたは、「終わった経営者」になってしまう恐れがあります。

 

経営者にとってのPDCAは業績重視に高い優先順位があるはずです。しかしながら。リタイア後は肩肘張ることはありません。成果や業績などは全く関係なくなるからです。成果や業績向上のためにやらなければいけないことではなく、自分の興味の赴くままにリタイア後の人生をプランニングし、PDCAを回していけばいいのです。人生100年時代。リタイア後の20年、30年先の人生をどのように生きたいのか、何が自分にとって幸せなのか、自分らしく生きるためのプランを立て実行することが求められるのです。PDCAはどの業界にでも通用するスキルですので、大半の経営者の皆さんはPDCAの知識をお持ちではないでしょうか。

 

ここではPDCAを深く掘り下げて説明しませんが、「終わった人」「終わった経営者」にならないための目標設定や行動様式、さらに、自分自身を管理するために、私は次の6項目を読者の皆さんに推奨したいと思います。

 

「自分の居場所を作るネクストビジネス創業」

「社会と繋がるコミュニケーション力育成」

「夫婦間の適度な距離を作る方法」

「アクティブ高齢者になるための自己演出法」

「財産一覧と遺言書で争続を回避させる方法」

「自分の人生にけじめをつける終活法」

 

以上の6項目について自分の人生をプランニングし、PDCAを回しながら様々な軌道修正をおこなっていくことで、アクティブなリタイア後の人生を送ることができます。この6項目に限らず、読者の皆さんが必要と思う項目に置き換え、今年はどのような一年にしようかと考え、そのために今月はこんなことをしなければいけない、さらには、それじゃ、今週はこんな予定を組んでみようという目標ができれば、その目標をクリアしていくための様々なスケジュールが決まり、手帳が自らの予定で埋まり生活のメリハリができ、意欲が出てくるはずです。

 

手帳を埋める予定は、経営者時代のように誰かとのアポイントや会議予定でなくていいのです。こんなことを今年はやってみようなどという「ゆるぅい年間目標」を設定し、それじゃ今月はこんなことをやろうという」「ゆるぅい毎月の目標」を決めます。今月のやることが見えてきたら、今週はここまでやってみようという「ゆるぅい週間目標」、さらに、今週やるべきことを手帳に書きこんでいくのです。書店や文房具店に行けば、様々なタイプの手帳が並んでいます。あなたのお気に入りの手帳を見つけ、少々あなた自身の手を加え、あなたなりのPDCA手帳を作ってみてください。

 

自分はどのようなことをしたいのかをプランニングし、プランニングを行動に移し、週末にでも手帳を見つめなおし振り返り、自分の行動に不都合があり思うように物事が進んでいかないようであれば、その改善方法を見つけるため、一人だけで会議をする。この繰り返しを楽しみながらやることができれば人生は一層楽しくなるはずです。周りの人々からの評価も高まります。目標もなく喪失感ばかりでメリハリのない人生は、孤独なものになります。一方、人生計画のPDCAで毎日を過ごすことができれば、いつまでも若々しく過ごすことができるでしょう。

 

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