有限会社 しんせい

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 広島の出身である私の夏は、八月六日の『原爆の日』に集約されているといても過言では無いかも知れません。私自身は戦争が終わって十年後に生まれたので、直接の戦争体験は有りませんが、原爆ドームのすぐそばで幼い頃を過した体験は、知らず知らずのうちに、私の中に戦争の悲惨さを刻み込んだような気がしています。
 私が小学生の頃、母から聞いた話では、私の知らない何人かの叔父や叔母も、原爆の犠牲になったとの事でした。また、原爆投下の三・四日後に、疎開先の京都から広島の爆心地に入ったという母も、もしかすると二次被爆していた可能性は有ります。でも母はその事を、死ぬまで他人には言いませんでした。それは何故かと言うと、戦後しばらくは『被爆している』と言うだけで白い目で見られる事も在ったし、結婚できないなど、不当な差別を受ける可能性も有ったからです。
 確かに被爆者や、その子供たちは今でも大変な生活をしておられると思います。そういえば、あれだけ多くの人が犠牲になった原爆なのに、私の身近にはそれほど多くの被爆者は居ませんでした。と言うよりは、被爆したと言うことを黙って、何事もなかったかのように生活していたのかも知れません。広島出身の人は、一人として公言しないと思いますが、被爆者に対する差別が有ったのは事実です。
 私の勝手な考えなのですが、こういった現象は、日本文化の独特な部分に起因しているような気がします。人々は知らぬ内に、被爆者を『古代の死者』と同じように感じていたのではないでしょうか。古代において死者は『穢(ケガ)れた』存在であって、忌み嫌われるものでした。ですから、平安京等の、都の内には墓地は無く、死人は都の外に捨てられたのです。私の父親の出身地、日本三景『安芸の宮島』厳島も同様で、神聖な島で在るが故、島内にはお墓は有りません。宮島に住む人は皆、島の対岸の山に墓地を持っているのです。神と供に暮らす島の民にとっては、『死』そのものが『穢れ』であり、近付くことや、見たりしてはいけない物だったのです。
 こうした日本人に染み付いた思考体系が、被爆した人々に対して、『穢れ=差別』という形で向けられたのではないでしょうか。世界で唯一原爆の被害を受けた国の住民としては、実に嘆かわしく、さびしいことです。
 しかし、こうした差別は『死』に関わる仕事をしている人たちに対しても有りました。昨年末頃から話題になりました映画「おくりびと」の中にも、そう言った映像表現がありましたが、映画の舞台である東北地方より、原作の舞台である北陸地方にそうした差別が、根強く残っている様な気が、私はします。原作の「納棺夫日記」の中で、火葬場の市職員が「お前も納棺夫をしているから分かると思うが、こんな仕事は金にでもならなかったらやっておれるか、お前も相当稼いでいるんだろう」と言うくだりが有ります。世間の人が好んでやらない仕事だから、「当然お金も多めに貰うべきだ。いや、多めに取っても文句は言わせない。」と言った理論のようです。
 少し前までは、専門の機械・工具及び技術を必要とした仏具屋や石材店も今は、商品が完全完成品で外国から輸入されるようになったので、資金と販売力さえあれば、商品に対する知識や愛情が無くても、誰でも出来る『商売』になってしまいました。ですから、そんなとんでもない論理を元に、差別される立場にある仕事は、他の仕事より儲けても良い。と言う事は、死にまつわる仕事をすれば儲かる。とばかりに、これまでまったく関係ない仕事をしていた人達が葬儀や仏壇、石材業に、新規参入して来ています。まあ、葬儀業などはこの二十年程の内に確立された業種で、これと言った歴史もありませんので、何か新たなサービスを謳っては、料金を上積みする。何が本当に必要で、何不要なのか誰も判らない。新規参入の仏壇屋や、昨日始めたばかりの石屋も巻き込んで、それこそ「葬儀から仏壇・墓石まで」なんでも売っちゃえの状態になっています。
 昨年九月の朝日新聞に『お布施キックバックやめます』と言う記事が掲載されました。内容はと言うと、「お坊さんが、葬儀で受け取ったお布施の一部を葬儀業者に『仕事を回してくれた謝礼』として渡す。そんな不明朗な関係はやめようー。」(原文のまま)と言う物です。この件について、知り合いのご住職に真偽を尋ねた事が在ります。そのご住職はこうお答えになりました。以前葬儀業者に、お葬式を紹介されたお礼に、現金を渡さず、皆さんで食べて頂ける様、お菓子を渡した所、その後、その葬儀社からは一切葬式の紹介は無くなったとの事でした。
 我々も、映画に出てきた主人公のように、さわやかでケガレの無い仕事がしたいものです。
2009.08.15:yoneda:count(106):[メモ/仙台発・大人の情報誌「りらく」]
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