山と人の物語 vol.5 『山が支える、誰かの働く場所』

  • 山と人の物語 vol.5 『山が支える、誰かの働く場所』
  • 山と人の物語 vol.5 『山が支える、誰かの働く場所』

はじめに

山は、木だけを育てているわけではありません。
そこには、人の働く場があり、成長する場があり、
未来へつながる大切な営みが広がっています。

林業と福祉が交わる場所──
今回は、山が生み出す「誰かの働く場所」についてお伝えします。


誰にでも役割がある ~薪づくりの現場から~

私たちの現場では、薪づくりを通して、障がいのある方たちも多く活躍しています。
薪を作る仕事は、一見単純に見えるかもしれません。
しかし、そこにはたくさんの工程と役割が存在します。

  • 玉切りされた丸太を運ぶ人

  • 薪割り機で木を割る人

  • 割った薪をきれいに積み上げる人

  • 配達の準備を手伝う人

それぞれが、自分のペースで、コツコツと仕事に向き合っています。
「できた」「できる」という実感が、小さな自信を育てていくのです。

毎日の作業の積み重ねが、山を整え、誰かの暮らしを温め、
そして、働く一人ひとりの未来を少しずつ切り拓いています。


「できること」を見つけるサポート

福祉的な支援を取り入れた林業の現場では、
一人ひとりの“できること”に着目する工夫を大切にしています。

たとえば──

  • チェーンソーで木を倒すのではなく、割った薪をまとめる

  • 複雑な機械操作ではなく、手作業でできる部分を担当する

  • 外作業が苦手な方には、屋内で乾燥薪の選別をしてもらう

そんなふうに作業を細かく分解し、個々の強みに合わせた役割をつくります。

安全管理にも気を配り、
声かけや作業工程の見える化を徹底することで、
誰もが安心して作業に集中できる環境を整えています。

できることがひとつ増えるたびに、表情が変わり、
作業の合間には自然と笑顔が生まれる。
その瞬間に立ち会えることこそ、私たちの喜びです。


山も、人も、未来へつなぐ

山を守ることは、単なる自然保護ではありません。
そこには、人が働く場をつくり、育て、つないでいく力があります。

荒れてしまった山を整備し、
薪を生産し、
それが地域の人々の暮らしを温め、
さらに障がいのある方たちの働く場を支える。

山の循環は、そのまま「人の循環」につながっているのです。

持続可能な林業と、福祉の力を組み合わせる。
それは、これからの時代に求められる新しい山との向き合い方だと、私たちは信じています。


おわりに

山が育むのは、木だけではありません。
そこには、人の成長も、希望も、未来も、
静かに、しかし確かに根を下ろしています。

これからも私たちは、山を守りながら、
そこに集うすべての人たちの「働く場所」と「生きる場所」を支えていきたいと思います。

次回は、森と未来をつなぐ「植林」と「次世代への想い」をテーマにお届けします。
どうぞお楽しみに。

2025.05.18:yamagata-maki:[新着情報]

山と人の物語 vol.4 『雪とともに生きる ~冬の山と薪のはなし~』

  • 山と人の物語 vol.4 『雪とともに生きる ~冬の山と薪のはなし~』

はじめに

冬の山は静かです。
すべてが雪に包まれ、音も吸い込まれてしまうような、凛とした空気が広がります。
そんな中でも、私たちの仕事は止まりません。

雪に閉ざされた道を越え、凍てつく山へと入り、薪を届ける日々。
今回は、冬の林業と薪づくり、そしてその裏側にある想いをお伝えします。


白い静寂の中へ ~冬の山の表情~

山が雪に覆われると、見慣れた景色も一変します。
木々の枝には雪が積もり、地面の起伏すらわからない白い世界に変わる。
一歩一歩が慎重さを求められる、まさに“別の山”です。

けれど、そんな中でこそ感じられる美しさがあります。
朝の陽光が雪面に反射する瞬間、山の静けさが心に染み渡る時間。
私たちは、ただ作業をこなすだけでなく、この自然とともに生きているのだと、冬になるたび実感します。


雪の中の仕事術

冬の作業には、独自の工夫と覚悟が必要です。

雪に覆われた現場では、伐倒方向の見極めも一層慎重になります。
枝が雪の重みで垂れていたり、地面が凍っていたり──
夏とはまったく異なる“山の表情”に向き合わねばなりません。

配達もまた、ひと苦労です。
タイヤチェーンを装着し、凍結した道を走る。
吹雪で視界が奪われる中でも、安全に薪を届けるには高度な判断力が求められます。

スタッフの中には、月山道でチェーンが切れ、猛吹雪の中で救助された経験を持つ者もいます。
その経験があるからこそ、今では「雪道でも自信を持って走れるようになった」と語ります。


薪がつなぐ冬のくらし

冬こそ、薪がもっとも求められる季節です。

寒さの厳しい東北地方では、薪ストーブの火は、ただの暖房ではありません。
“暮らしの中心”であり、“家族の団らんの源”なのです。

そんな暮らしを支える薪を、自分たちが届けている──
その実感は、スタッフのやりがいにもつながっています。

「よく燃えて暖かかったよ」
「またお願いね」
そんな言葉をいただくたびに、
厳しい雪の中を越えてきた意味が報われる気がします。


おわりに

雪の季節。
それは厳しさの中に、美しさと意味が宿る時間でもあります。

山と向き合う者として、
薪をつくる者として、
そして人と人をつなぐ仕事をする者として──

私たちはこれからも、雪とともに、生きていきます。

次回は、林業と福祉の接点に迫る「山が支える、誰かの働く場所」をテーマにお届けします。
どうぞお楽しみに。

2025.05.11:yamagata-maki:[新着情報]

山と人の物語 vol.3 『一本の木が、命をつなぐ ~山から薪ストーブへ~』

  • 山と人の物語 vol.3 『一本の木が、命をつなぐ ~山から薪ストーブへ~』
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  • 山と人の物語 vol.3 『一本の木が、命をつなぐ ~山から薪ストーブへ~』
  • 山と人の物語 vol.3 『一本の木が、命をつなぐ ~山から薪ストーブへ~』

はじめに

山に立つ一本の木。
それは、ただの“木材”ではありません。
人の手によって選ばれ、伐られ、整えられ、そして“薪”として新たな命を吹き込まれる──。
今回は、一本の木が人の暮らしにぬくもりを届けるまでの道のりを追ってみたいと思います。


山の中で、その木は選ばれる

森の中に立ち、一本の木を見定める。
それは私たちにとって、最初の大切な仕事です。

間伐であれば、混み合った樹木の中から、成長を妨げる木を選びます。
皆伐の場合でも、地形や水の流れ、後の植林のことまで考えて、一本一本に目を向けます。

木を倒す瞬間には緊張感が走ります。
周囲の安全、木の倒れる方向、風や地面の状態──
自然を相手にする私たちは、常に謙虚でなければなりません。


命を活かすための手入れ

伐られた木は、すぐに次の工程へと進みます。
枝を払い、一定の長さに玉切りし、用途に合わせて造材していきます。
これらの作業は、薪の品質を左右する“命を活かす”手仕事です。

チェーンソーやハーベスターなどの機械を使いながらも、最終的な判断はすべて人の目と感覚。
太さ、曲がり具合、節の位置、樹皮の状態──
細かな観察と経験が物を言います。

山の中で加工された木は、フォワーダやトラックで土場へと運ばれます。
その時点でようやく、「木」が「資源」として新たな旅を始めるのです。


乾燥という“待つ技術”

薪づくりにおいて欠かせないのが、「乾燥」です。

含水率が高いままでは火がつかず、煙やタールも発生しやすくなります。
そのため私たちは、自然乾燥に時間をかけるほか、必要に応じてキルン(人工乾燥機)を使い、一定の品質を保ちます。

乾燥の過程は、一見地味ですが、実はとても重要な工程。
「薪がパチパチと心地よく燃えるかどうか」は、この“待つ技術”にかかっているのです。


届ける、その先の笑顔

乾燥を終えた薪は、いよいよお客様の元へ届けられます。

配達スタッフが現場に伺い、直接薪を運び入れると、
「今年も待ってました!」「よく燃えて暖かいです」といった声が聞こえてきます。

その一言が、現場で働く私たちにとって何よりの励みです。
山で伐った木が、誰かの生活の一部になる──
そう思うと、一本の木の持つ役割が、ぐっと大きく見えてきます。


おわりに

一本の木は、森を整え、薪となり、誰かの心と体をあたためる。
それは決して使い捨てではない、循環とつながりの物語です。

次回は、「薪の品質とこだわり」について、
より具体的な技術や視点を交えながら深掘りしていきます。

どうぞ、お楽しみに。

2025.05.06:yamagata-maki:[新着情報]

山と人の物語 vol.2

  • 山と人の物語 vol.2

『静かに燃える誇り ~スタッフが語る、薪づくりの現場~』


はじめに

山に入り、木を伐り、薪をつくる──。
一見するとシンプルな仕事に見えるかもしれません。
けれど、その裏には、自然と向き合いながら、誇りをもって働く人たちの、静かな物語がありました。

今回は、現場で日々奮闘するスタッフたちの声をご紹介します。

熊坂吉紀「道を切り拓く、その先に」

先輩の紹介で林業の世界に飛び込んだ熊坂さん。
作業道を自ら切り開き、伐採・搬出までを手がけます。

「自分で作った道を戻る時に達成感を感じます。」
土場に高く積まれた木材を見上げる瞬間、地道な努力が実を結んだことを実感するそうです。

初めて触れたハーベスターの複雑な操作、
岩場を切り拓いた道作り──
一つひとつの経験が、彼をたくましく成長させました。

「30年後、自分たちが植えた森を見たい。山も、所有者も、そして会社も幸せになってほしい。」
未来への静かな願いを胸に、今日も山に向かいます。


鈴木智明「自然とともに生きる」

林業に憧れたきっかけは、雑誌やテレビで見た“自然と働く人たち”の姿でした。
チェーンソーでの伐倒、刈払い、フォワーダ搬出に携わる鈴木さんはこう語ります。

「体力的にはきついけど、精神的にはすごく楽です。」

四季折々の美しい山の景色に包まれながら、汗を流す日々。
重機操作に苦労した時期もありましたが、それも今では乗り越えました。

これから挑戦したいのは「チェーンソーカービング」。
自然を相手にするだけでなく、木に命を吹き込む新たな表現にも意欲を燃やしています。


安部秀樹「資源に変わる喜び」

「森林の空気の中で働きたかった」──
そんな思いから林業の道へ進んだ安部さん。
伐倒作業や森林再生業務に携わっています。

伐倒した木が薪や資材へと姿を変え、誰かに喜ばれるとき、
「この仕事をやってよかった」と心から感じるそうです。

自然の厳しさの中で、健康管理に苦労した経験もありました。
それでも今夢見ているのは、自宅にヨツール製の暖炉を設置し、家族みんなで炎を囲むこと。
森の恵みを、日々の暮らしにもつなげていきたいと願っています。


真由美「リピートの『またね』が力になる」

薪の配達を担当する真由美さん。
最初は「自分にできるだろうか」と不安もありましたが、
今では仕事を「楽しい」と感じ、日々やりがいをもって取り組んでいます。

「リピートのお客様が増えて、『また頼むね』と言ってもらえると、すごく嬉しいです。」

冬の月山道でチェーンが切れ、吹雪の中で立ち往生した苦い経験も乗り越え、
いまでは雪道の運転にも自信がつきました。

これから挑戦したいのは、「木で何かを作ること」。
森ともっと深くつながる未来を、静かに描いています。

おわりに

一人ひとりの小さな努力が、森を支え、薪を届け、誰かの暮らしをあたためている。
「静かに燃える誇り」は、今日も山の中で息づいています。

次回は、「一本の木が、命をつなぐ」をテーマに、
伐採から薪として届けられるまでのストーリーをご紹介します。
どうぞお楽しみに。

2025.04.26:yamagata-maki:[新着情報]

山との出会い

 山と人の物語 vol.1

『山との出会い』


はじめに

「林業は危険な仕事」──それが、私の最初のイメージでした。
でも、ある山との出会いが、その考え方を大きく変えました。
そして今では、その山が私たちの仲間や地域の人々、そしてお客様とをつなぐ“場所”になっています。
今回は、その原点となった一つの山の物語をお話しします。


荒れたままの山に立った日

最初にその山へ足を踏み入れたとき、
そこはまるで時が止まったような場所でした。

枝が折れ、倒木が転がり、下草は伸び放題。
かつて人の手が入っていたであろう痕跡も、今はもう見えません。
「このまま放っておくと、この山は本当にダメになってしまう」
そう直感的に感じたのを今でも覚えています。

でも同時に、心のどこかで「ここを再生させたい」と思ったのも事実でした。
この山が持っている力を、もう一度目覚めさせたい──そんな気持ちが湧き上がってきました。


手を入れることで見えた“変化”

まずは下草を刈り、間伐を進め、山の呼吸を取り戻す作業から始めました。
急な斜面、重たい機械、予測のつかない天候…。
決して簡単な道のりではありませんでした。

でも、少しずつ光が差し込むようになり、
足元の土が柔らかく、息を吹き返すようになっていくのが分かりました。
山は、手をかければちゃんと応えてくれる。
それを、毎日の作業の中で何度も実感しました。

そしてその木々は、やがて薪になり、新しい役割を得ていきました。


山が、人をつなぐ場所に変わった

この山で生まれた薪は、私たちのもう一つの大切な仕事──
福祉の現場へとつながっていきます。

障がいのある方と一緒に薪を割り、積み、乾燥させ、出荷する。
その作業は、彼らにとって“自分の力でできる仕事”となり、
一人ひとりが誇りを持って関われる活動になりました。

薪を購入してくださったお客様から、
「この薪、すごくよく燃えました。ありがとうございます」
と声をいただいたとき、
それを伝えたスタッフの顔がぱっと明るくなったのを、私は忘れません。


おわりに

かつては誰にも見向きされなかった山が、
今では人を育て、つなぎ、ありがとうが循環する場所になりました。

山は、ただ木を育てる場所ではありません。
人の生き方や働き方、そして地域の未来を形づくる、
そんな“可能性の源”なんだと思います。

次回は、この山で実際に働いてくれているスタッフの一人に焦点をあてた物語をお届けします。
どうぞお楽しみに。

2025.04.20:yamagata-maki:[新着情報]