こちらも、ちょっと古い写真資料からの話だ。
平成14年4月に納めた総宮神社の獅子頭制作の時の事である。
私の自宅ある清水町に中井さんという指物大工さんがいた。
以前、中井さんから獅子頭展の際に獅子頭をお借りした事があり、
やませ蔵さんに納めた塗りの無い獅子頭木地だった。
中井さんは中津川小屋の獅子彫り師 故渡部 亨氏より指導を受け弟子として獅子彫りに挑戦
し獅子頭を残している。
その後、獅子頭借用の縁もあり、近所の縁もあり中井さんが渡部氏が亡くなった後、妹さんか
ら譲り受けた複数の大小獅子頭の木地を私に託された。
その栃の乾燥しきった木地を使って総宮神社の現存する8番頭の部分を制作したのだ。
顎はしなやかな柳材を用いた。というのも、歴代の獅子頭は栃材で作られ破損修理を繰り返し
ている。栃は乾燥するにつれ硬化しカチカチ堅くなる。堅い材と堅い材が衝突すれば割れやす
いので、比較的柔らかい柳を顎に使えば、衝撃を吸収すると考えたのだ。
また渡部氏は、西置賜各地の数多くの神社や個人の獅子頭を制作している名工だが、黒獅子の
源流総宮の獅子頭を作る機会には残念ながら恵まれなかった。
まぁ・・そんな思いも私にあって渡部氏の用意した乾燥した木地の良材を使用した。
「寛文11年改め」と記名ある最古の獅子頭をモデルにして制作が始まった。
獅子彫り師にとって腕の見せ所で、形よく振りやすく頑丈な獅子頭を目指した。
同時に二頭制作し、木地が完成すると微妙に表情が違うので、どちらを選ぶか迷ってしまっ
た。
特に獅子の鼻の面が反り返った表情が良く、鼻筋が曲がり左目が飛び出た伝説の面構えと言わ
れている。・・・こちらの言葉で言えばキカナイ顔だ。
高野町に90歳を越した目利きの翁がいた。
翁は骨董に造詣が深く、自宅には洗練された骨董美術品のコレクションを収集していた。
その翁を獅子宿に招き、二頭を比べ観てもらった。
やはり私も心の中で考えていた方を翁は選ばれたのだった。
もう片方は、その後に塗りを施こし個人宅に嫁に行ってしまった。
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