卯の花姫物語 5-② 姫が死後の正しい推論

  姫が死後の正しい批判の論文
 以上、斯くの如くして、姫が一生は終わりを告げたのである。姫が生涯を按んずれば、奥州一の大豪族・安倍貞任の姫として、其世に生を受けたのだ。栄躍栄華のうちに育ち上がって成人した。漸くにして青春の妙味を覚とらんとするの年齢で、父が外交工策の具に供されて、まみえた人は即ち源義家であったのだ。幸か不幸か其人は、世上あらゆる女性が求めんと欲する条件を完全具備の異性であったのが、姫をしてああした運命を赴らしめたと見るのが当たりでありましょう。
 一旦思慕を捧げた義家には、生命をも惜しまぬ迄の心に至らしめた。兵馬 愡、闘戦、兵革の間にも、慕う義家が身を守る心に怠りはなかったのだ。面した中に於いて反逆の父といえど、父ば飽く迄で親である。其の親をして逆賊の汚名から免れしめたいとの思いのままに、降参を進めて終始一貫諜めに諜めてつとめた。が、どれもこれも成らずに終わったので、一門残らず打死で滅亡の運命となったのだ。
 あれ程迄でに戦争を避けんとつとめて平和を守って、父を助けんと心を尽くした姫が行動の生涯は、世上一般に対しても、恋し愛した義家には勿論のこと、はたまた反逆の父に対して迄でも巧あって罪のない姫が行動であったのだ。忍んで京に上って義家が厚い温情に包つまる可くを最後に望みをかけて、古寺の山仲にかくれて機会を待っておった処まで探し当てられ、飽くなき清衡武忠が横恋慕で執ように追い詰められ、京に上る望みをも絶たれて終った。失望した姫はとうとう三淵の深淵が最後の場所となったのだ。
 心ある人が泣かずにいられぬ姫が悲恋である。平和を守るに苦心の一生を捧げて通した人を討った罪名は又皮肉を極めたものである。平和を撹乱した逆賊の残党を討伐したとは非道い表面の理由となって表れたものである。それに対して討ち取った武忠が表面の上に現れたのは、皮肉に尚一層の輪をかけた皮肉を極めた表れであったのだ。
 朝敵安倍貞任が残党を鎮守府の命を奉じて斑目四郎武忠が討伐の巧を奏した戦功と云う峻厳なる表面であったとは。武忠が姫を打ち取ったと云う之迄でにやって来た行動は、姫を生捕りたいのが目的とした行動に終始したやり方であった。それが不可能と見たので討ってしまったのである。表面ばかりが如何に立派な理由となって表れたとしたとても、これを正しく論じたならば、己が狙った横恋慕が叶わぬ恋の滝登りの鬱憤晴らしをやったのか。表面がああした事に該当したと云うに過ぎないものである。
 姫が一生を通してやった行いこそ、愛し慕うる主を守りつつ父をかばって平和を望んで終始一貫したのである。事実は丸きりあべこべだ。浮世は全く裏表と云うのはこうしたことでありましょうか。
2013.01.14:orada:[『卯の花姫物語』 第5巻]