卯の花姫物語 ⑥逆賊降伏

 逆賊降伏奥州の平和

 追討の大軍は鬼をも拉しぐ坂東の荒らくれ武者を以て中堅とした編成の軍勢である。卒いる大将は天下に隠れもない、名将の誉れも高い源氏の大将父子と聞いてはどうしても勝ち目がない、これではたまらないと只々呆れ果てて終わった。そうした圧倒的の対照となると、たとえ味方にも智者や勇者がいても、其勇をふるわず其勇をめぐらさず、只茫然として終うものである。流石の頼時父子も官軍の軍門に首をのべて降伏するよりないと、未だに口にこそ出さないが心の中で閉口しておった。
 そうした矢先に丁度都合のいい事が出てくれた。と云う事には偶々、御上に御目出度い事があったので、大赦令が発布された。それが全国布達になって来たので喜んだのは安倍の一族共であった。早速頼義将軍の軍門に無条件降伏をした。追討軍の方でも大赦令のことでもあるので降参をすると云うならばそれで免してもよかろうと云うので軍議の上即座に無罪放免の云い渡しをしたのである。安倍家では、取り敢えず一族を挙げて国府の多賀城に参勤し、貢ぎ物の金銀財宝を山の様に貢献して、恭しく赦罪敬意の念を表したのである。そうして戦がなくて済んだが、当時国司が一期の任期の四カ年であったので、鎮守府将軍兼陸奥守の任期がその後四年であるので、そのまま国府の多賀に在城して、泰平の国府を執ることになったのである。そこで平和の裡に政事を執っておるのに、大兵を常備に駐屯して置く必要はない。事ある時はいつでも馳せ参んずることとして、将軍直属の将兵を残した外の大軍は一旦召集を解除して各々国へ帰すことにした。
 不平たらたらであったのはそうした将兵連中の人達であった。おいおい何んだい茲まで遠々やって来て、矢一本打つぱなさないで、むざむざ帰るとはあっけがない。何んぼ大赦令だからと云ったとて、直ぐ無条件で免るして終うなんて、俺は反対だ。これじゃ全く分捕り巧名も出来たもんじゃない。おいおい君、ちと当てがはずれ過ぎたないや、衣川の城中にや奥州美人の粒選り揃いが千人もいたと云うことであったざい・・・えと云う噂とりとりの話。

2012.12.31:orada:[『卯の花姫物語』 第壱巻]