<図書館は屋根のある公園である~まちづくりは図書館から> ~IHATOV・LIBRARY(「まるごと賢治」図書館)の実現を目指して(その2)

 

 「図書館は屋根のある公園である」―。今年4月まで「みんなの森/ぎふメディアコスモス」の総合プロデューサーを務めた吉成信夫さん(67)はこんなキャッチフレーズを掲げながら、こう述べている。「図書館というのは、今までのように閉鎖形で全部そこの中で完結しているというふうに考えるのではなくて、むしろ図書館の考え方が街の中に染み出していく。そして、街づくりというか、街の考えが図書館の中にも染み込んでくる、その両方が浸透しあうような造り方というのが、たぶん、これからいろいろな形で出てくるだろうと思っています」(開館1年後の記念講演)

 

 賢治好きが高じて、東京生まれの吉成さんは1996年、一家で岩手に移住。賢治が技師として働いた旧東北砕石工場に併設して建てられた「石と賢治のミュージアム」(一関市東山)の開設をほぼ一人で担った。また、自然と共生する“賢治ワールド”を実現しようと葛巻町の廃校を利用した「森と風のがっこう」(NPO法人岩手子ども環境研究所)を開設したほか、一戸町奥中山の「県立児童館」(いわて子どもの森)の館長なども歴任。その後、メデイアコスモスの中核施設である岐阜市立図書館館長の公募に応じて、2015年の開館から5年間、館長を務めた。

 

 「柳ヶ瀬商店街を活性化することに図書館がどうやって寄与できるのか」―。館長としての初仕事はかつて「柳ヶ瀬ブルース」に沸いた商店街の立て直しだった。実は岐阜市立図書館は岐阜大学の旧医学部の跡地に建っている。新花巻図書館の立地候補地のひとつが「花巻病院跡地」という点も似通っている。さ~て、「吉成」流の出番である。まずは来館者を上町など中心市街地に呼び込むような新たな“人流”の形成へ。夢はさらに広がる。賢治の生家や童話『黒ふだう』の舞台となったとされる菊池捍邸、賢治が設計した花壇がある「茶寮かだん」(旧橋本邸=元呉服店)などなど。こんな“賢治”ルートを確立したら、シャッター通りに賑わいが戻ってくるのではないか…

 

 実は農業技術者として、台湾やスマトラなどでも活躍した菊池捍(まもる)さんの長女の昌子さんは戦前のプロレタリア美術界の第一人者、寺島貞志さん(ともに故人)の妻である。父親が建築した洋館風の邸宅では戦後、絵画やピアノの教室が開かれ、小中学生が通う寺子屋“寺島塾”として知られた。さらに、昌子さんは賢治の末妹クニさんとは小学校の同級生で、花巻高女時代は妹トシから直接、英語を習うなど宮沢家とは近い関係にあった。一方で当時の花巻図書館の司書を長年務め、現在まで続く「宮沢賢治の作品を読む会」の設立を呼びかけたのも昌子さんその人であった。

 

 当市出身の童話作家、柏葉幸子さんの代表作のひとつに『つづきの図書館』という作品がある。「図書館のつづき」ではなく、本の主人公たちが自分の本を読んでくれた読み手の「つづき」を知りたがるという奇想天外な展開である。その水先案内をする女性司書こそが昌子さんをうかがわせる文中の司書「山神桃」さんである。柏葉さんは以前、「昌子さんには何度も作品に登場していただきました」と語っていた。柏葉さん自身、賢治の影響を受けたという「縁(えにし)」の不思議に圧倒される。ザネリや鳥捕り、燈台看守、かおる子、タダシ…まるで賢治の名作『銀河鉄道の夜』に登場する30人もの”遭遇劇”を彷彿(ほうふつ)させるではないか。

 

 吉成さんの著作に『ハコモノは変えられるー子どものための公共施設改革』と題する労作がある。行政主導型からの発想の転換を促し、それを実践してきた“奮戦記”ともいえる記録である。メディアコスモスの1階部分には市民活動交流センターや多文化交流プラザがあり、「婚活」ならぬ本を通じた”としょこん”などユニークなイベントが盛りだくさん。禅僧に座禅の場を提供したこともあった。名勝・金華山と岐阜城を望むテラス席は人気の的で、霊峰・早池峰山を遠望できる病院跡地と立地環境もそっくりである。世界的な建築家、伊東豊雄さんの造形美とのコラボレーションもこれまた見事である。

 

 メディアコスモス(メディコス)全体の来館者数は今年6月、開館10周年を待たずに1千万人に達した。賢治を”実践”した貴重な体験は図書館の先進的な活動に贈られる最高賞「ライブラリーオブザイヤー」(2022年度)の受賞に結実した。いまは自由の身となった吉成さんは東奔西走の忙しい日々を送っている。さて、「吉成」流ならどんな「IHATOV・LIBRARY」をデッサンしてくれるだろうか…

 

 

 

 

(写真は新図書館の立地比較のための測量をする作業員。稗貫農学校跡の石柱が建っている。後方の建物(花巻小学校)の背後の山並みが早池峰山などがそびえる北上山地=花巻市花城町の病院跡地で)

 

 

 

 

 

《追記ー1》~よっぽど、”へそ曲がり”の人たちみたい!!??

 

 

 花巻市のHP上にふるさと納税新サービス「旅先納税」と銘打った商品が県内で初めて導入されたという告示が掲載された。電子商品券の名称は「はなまき星曲ぐりコイン」(私にはそう読めた)。賢治が作詞・作曲した「星めぐりの歌」にあやかったのだと思うが、何でもかんでも金品に結びつけてしまう、その魂胆が何ともさもしい。しかも、あの歌は星たちと「巡り会う」物語で、こんな低俗な”金権主義”とはそもそも相容れるはずがない。

 

 ふるさと納税はある意味で、他の自治体の税金を奪う制度だとも言える。「バルドラのサソリ」(『銀河鉄道の夜』初期形)は自分のいのちを他者に役立てたいと願う。賢治を利用したと思われる今回のネーミングはこうした利他の願いに真っ向から反しているのではないか。「感性」の欠如はこんな形でひょいと、その素顔を見せるものである。賢治の「星めぐりの歌」は『双子の星』の中などで歌われる。掲載記事は以下から。

 

共同記者会見用資料_ふるさと納税新サービス「旅先納税(R)」を岩手県内で初めて導入します (PDF 1.3MB)新しいウィンドウで開きます

 

 

《追記―2》~「世界がぜんたい」

 

 賢治ファンを名乗る方から以下のようなコメントが寄せられた。「なるほど」と合点した。

 

 「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」と言った宮沢賢治をことごとく利用している花巻市。国が認めた制度とは言いながら、ふるさと納税の一分類である旅先納税に、こともあろうに賢治さんの作った「星めぐり」をネーミングに使って、全国自治体の住民の福祉向上に使われるはずの税金をかすめ取ろうとしている姿に、草葉の陰でどのように思っているのでしょうか。

 

 

《追記―3》~ダメなのですか!?

 

 今回の「旅先納税」が盛り上がっている。今度はふるさと納税ファンを名乗る方から以下のようなコメントが寄せられた。ふるさと納税の獲得競争のためにここまで賢治を利用するのか。このおぞましさに思わず、のけぞってしまった。

 

 花巻市が使っているふるさとチョイスで、次のようなふるさと納税がありますが、だめなのですか?宮沢賢治の「雨ニモマケズ」の食事内容(玄米・味噌・野菜)を体験できるセット《雨ニモマケズ》「一日ニ玄米四合ト味噌ト少シノ野菜ヲタベ」体験セット。賢治さんの窮乏の生活を体験できるふるさと納税がだめなのですか?

 

https://www.furusato-tax.jp/product/detail/03205/4785273

 

 

 

 

 

 

2024.07.24:masuko:[ヒカリノミチ通信について]