東京出張という心地よい響き。その6
後楽園に行くには、水道橋の駅から歩くというのと、丸の内線の後楽園駅で下車というのと2パターンある。 東京に来た頃、随分ジャズ喫茶巡りをしたのだが、水道橋にはスイングという老舗があった。 どうやって場所を調べていったのか憶えていないが、あそこは一体なんだったのだろう。 川の脇の、ちょっと船着場のそばの店みたいな佇まいだったように記憶している。 まるでニュー・オリンズにでも紛れ込んだような錯覚を覚えるいい雰囲気だった。 黒澤明映画の戦後すぐの東京、酔いどれ天使あたりともかなりかぶるシチュエーションだ。 人のよさそうなおじさんとちょっと大柄のおばさんでやっている摩訶不思議な空間。 そこで流れるのは1920年代から40年ごろまでのデキシー、スイングジャズ。 時間が止まったような場所は、私が行ってから数年で無くなった。だから私がそこへ足を運んだのは一回きり。 その後スイングは飯田橋へ移った。ちょっと坂を上ったところにある穴倉のような空間で、ここも居心地は悪くなかったが程なくして閉店してしまった。 サラリーマンになってからは飯田橋の店によくサボりに行ったんで、私が行くとテナーサックスのレスター・ヤングやベン・ウエブスターなんぞをかけていただいたことを思い出す。 スイングという同じ屋号のジャズ喫茶は渋谷にもあった。 ここはジャズの映像をプロジェクターで見せてくれる店で、たまたま渋谷区役所に営業に行く途中立ち寄った。 東急ハンズから少し坂を登り、左にタワーレコードを見ると右に階段がある。 数段登ると左側の奥のほうがスイングだった。 ここには随分お世話になった。 マスターは宮沢さんというおじいさんで、ちょっと昔話を聞いたこともある。 いつもビールの小瓶を注文していた。 最近余り見ないが、缶よりもいいね、ビールの小瓶。
2010.02.23