キレる脳 引きこもる脳

 先日、有田秀穂(東邦大学医学部統合生理学 教授)の「キレる脳 引きこもる脳」と言う講演を聴きましたので報告します。

 私たちは、日々の生活の中で、自分の思い通りにならない状況に直面し、その度に柔軟に方向性や発想を切り換えて現実的に対応して生きている。これが出来ないと、キレる、あるいは衝動的な攻撃行動が発現することになる。私たちの脳には、衝動的な攻撃行動を調節する機能が備わっていて、この機能が十分に発揮できなくなると、キレやすくなると考えられる。その働きを担当する脳領域は前頭前野の腹外側部である。

前頭前野の腹外側部にはさまざまな脳領域から入力があるが、重要なのはセロトニン神経からのもので、セロトニン神経の機能障害が前頭前野・腹外側部の働きを弱め、キレやすくする。セロトニン神経の機能障害は、うつ病やパニック症候群、子どもでは自閉症との関連がよく知られている。セロトニン神経の働きを補強する薬であるSSRIは、うつ病の治療薬として最近よく使われる。うつ病で問題となる自殺は、自己に向けられた衝動的な攻撃行動に対して、歯止めが効かなくなったものと考えられる。

セロトニン神経の働きが弱るのは、現代の生活習慣に原因があり、これがキレる状態を作り出している可能性がある。現代生活の中でも、ゲーム(パソコン?)漬け、昼夜逆転の生活が、セロトニン神経の正常な働きを弱め、キレる子どもや大人を作り出している。最悪の生活は、ひきこもりである。セロトニン神経は、夜、寝ているときは、ほとんど活動がなく、朝、起きると、活動が始まり、起きて生活している間は、ズーと活動が続く。従って、覚醒の状態を調整する働きを担っている。

セロトニン神経が情報を送っている領域は広範な脳領域で、大脳皮質では覚醒レベルの調節、大脳辺縁系では心のバランス、間脳・視床下部では自律神経の調節、脳幹・脊髄では痛みの調節と姿勢筋・抗重力筋の緊張である。すなわち、セロトニン神経の働きが弱ると、朝起きても、スッキリした覚醒が得られず、自律神経もスタンバイ状態にならず、身体に力なく弱々しく、ちょっとした痛みに大騒ぎすることになる。

セロトニン神経の活性化因子は二つある。一つは太陽の光であり、もう一つは、歩行、咀嚼、呼吸などのリズム運動である。したがって、朝起きたら、朝日を浴びながらウォーキングをすれば、セロトニン神経は活性化される。

セロトニン神経を積極的に抑制する因子も二つあり、疲労とストレスである。生きている限り、ストレスも疲労も避けて通ることはできない。それに打ち勝つには、日常的にセロトニン神経を活性化する生活を続けるしかない。

現代人はセロトニン神経を知らず知らずのうちに弱らせてきている。キレ易くなるのは、現代の生活習慣病なのである。

2500年前、釈迦は荒業(=ストレス実験)を行って、入息出息法をあみだした。意識的なリズム運動には、座禅・読経・ウォーキング(速足)・チューインガムを噛む・フラダンス・歌唱・スクワット・自転車・水泳などがある。

所感として、現代人にうつ病が増えている理由として、セロトニン神経が弱まっていることにあることが理解できた。既に実践している人は多いが、朝起きたら朝日を浴びながらウォーキングする効用を認識した。
2007.12.05:dai:[学習]

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