山根節(やまねたかし 慶応義塾大学教授)の「会計情報から経営を読み解く」と言う講演を聴いてきましたので報告します。
ビジネス・リーダーに必要な能力は情報リテラシーである。第一は情報感度(=状況認知能力;変化に気づくこと)であり、第二は方向性(=問題解決能力)であり、第三は説得(=発信能力;特に重要)である。情報は「情け」と「報せ」からなる。
情報リテラシーの三言語は、母国語である自然言語と、コンピュータの機械言語と、会計言語からなり、経営三言語と言われる。会計は経営活動を総合的にとらえる、経営の写像であり、経営者にとっての地図になる。
経営(マネジメント)とは、経営資源を集め太らせる拡大再生産のループである。期首の貸借対照表(BS)と1年間の儲けの記録である損益計算書(PL)と期末の貸借対照表(BS)で表される。
会計が読めれば世の中が見える。利益額(横軸)と利益率(縦軸)を産業マップに表すと、第一象限は「リーディング産業」でありバイオ・金融業・エンタテインメント・ITが該当する。第二象限は「成熟産業」であり自動車・家電・海運・不動産で、第三象限は「負け組産業」で、第四象限は「ベンチャー・老舗産業」でありネット・ソフト・ブランドが該当する。
新日鉄は、売上高3兆9,063億円、経常利益5,474億円、ROS=14.0%、中国市場・自動車が牽引している。特に中国は2008年北京五輪、2010年上海万博でヒートアップしている。銀行は、コア業務純益は不変だが信用コスト(不良債権比率)が低下して利益を上げている。構造改革途上にあり、メガ金融に勝ち残れるかがポイントである。
消費者金融は、営業貸付金が1.7兆円、営業収益が4,450億円で利益率26%、余裕で儲かる業界であり、利息制限法でも生き残れる。消費者金融トップの武富士のユーザは、30歳以下の若者が60%、女性が40%を占め、年収400万円以下が5割を占める。フリーター(417万人)ニート(85万人)がサラ金から借りて消費を支えている。フリーターは、慶応15%や東大10%もおり、3年以内に社員を辞めるのでフリーターは減らない。また、女性も消費を支えており、主婦のパチンコ依存症やブランド嗜好で個人消費指数は増加し破産件数も高止まりしている。
トヨタは、売上高2兆1,036億円、純利益1,372億円、ROE=14.0%、GMの10倍の時価総額がある。従来から住宅や半導体など多角化は上手くないが、金融事業に展開しつつある。トヨタの次の一手はETCカード、携帯電話とネットワークを通じてトヨタから金を借りる仕組みを構築しつつある。GMがモデルになっている。
ソニーは、エレクトロニクスが売上高5兆1,000億円、営業利益▲300億円、ゲーム・音楽映画が売上高1兆7,000億円、営業利益300億円、金融が売上高7,000億円、営業利益1,900億円で、金融事業が利益源になっている。
キャノンは、事務機が売上高2兆5,000億円、営業利益5,400億円、カメラが売上高8,800億円、営業利益1,700億円、光学機器が売上高3,700億円、営業利益▲1,300億円で、プリンタのサプライ用品(トナーやインクカートリッジ)が利益3,000億円で、端末を安くして顧客を抱え込む戦略が功を奏している。
利益率を縦軸に、素材・部品・加工組立・サービス・コンテンツと言ったバリューチェーンを横軸に取ると、加工組立が最も利益率が低くスマイルカーブと呼ばれる曲線を描く。
NTTドコモは、無線通信サービス粗利益が3兆5,500億円(収入4兆3,000億円、原価7,500億円)端末機器販売の粗損失が6,400億円、販売一般管理費が2兆0,800億円、営業利益が8,300億円である。ここでも、安く端末をばら撒いて顧客を抱え込む戦略を取っている。さらに、「おさいふケータイ」で金融事業に乗り出そうとしている。
ユニクロは、売上原価率52.7%であり、中国でのローコスト生産とブランド(コンテンツ)で儲けている。伊勢丹は売上高7,600億円、営業利益300億円、営業利益率4%であるが、ユニクロは売上高4,500億円、営業利益700億円、営業利益率16%である。
M&A件数は年々増加している。事業再構築のプロであるジャック・ウェルチ氏はCEOに20年在任中、買収企業数1,000件、売却事業数400件であった。1年間に70件、1月間に6件になる。まさに企業が商品になる時代である。キャッシュ・リッチ経営の武田薬品は、現預金・有価証券が1兆8,565億円あり、格好の買収ターゲットになってしまっている。
会計情報を用いることで企業の現実の姿が良く分かると感じられた。
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