池谷裕二(いけがやゆうじ 東京大学講師)の「脳を知り、脳を使いこなす」と言う講演を聞いてきましたので報告します。
池谷さんは、てんかん、アルツハイマー病、パーキンソン病などの脳の病気に対する治療薬や予防薬の研究開発を行っています。特に、アルツハイマー病の症状である「なぜ記憶が失われてしまうのか」と言う点に関心を持っているそうです。
「脳は世界を勝手に解釈しており、私たちはその解釈から逃れられない。」「脳は足りない情報を補っており、それゆえに強引で頑固である。」即ち、脳はありのままに見ておらず、デフォルメしがちであり、脳の活動こそが世界であるとのことである。
目の細胞には、明暗(明度)を感じる細胞と色(色相)を感じる細胞がある。色を感じる細胞は目の中心部にしかなく、実際に目が捉えている映像は、視野の中心部だけがカラーで周辺部はほとんど白黒という状態で、周辺部は記憶に基づいて脳が色を埋め込んでいる。
脳は情報の間に因果関係を作ったり、風景に意味合いを見出す傾向がある。これを脳が勝手に行ってしまうために、「私たちは脳の解釈から逃れられない」ことになる。一方、判断を速くし危険を察知して生命の存続に必要な一面を持っている。
人間には、自由な意思(心)というものはなく、脳神経(ニューロン)の「ゆらぎ」こそが意思を決めていることが実験で分かっている。脳神経の「ゆらぎ」が先にあり、約1秒後に意思が生まれ、約1.5秒後に行動する。この時間差0.5秒が行動を思い止まれる時間である。
人の記憶には「あいまいに憶える」という優れた特長がある。あいまいな記憶は汎用性を高めることができて、応用がきくことになり将来の自分のためになる。
記憶能力は年を重ねるにつれ低下する。それを最小限に食い止める方法として、シータ波がある。シータ波は記憶力を高めるのに役に立つ。外界に対する意識・興味が高まっている時や、散歩など運動している時にシータ波が多く発生する。「マンネリ化」が脳の敵である。物事に対する新鮮な興味や関心を持つことが出来なくなると脳の働きが低下する。
反面、「マンネリ化」は仕事を迅速に行うために必要であり、物事に対する新鮮な興味を持つこととのバランスが大切である。意識的にマンネリ化と戦うことが、記憶力を高め脳を活性化することに繋がっている。
好奇心をもって物事に取組む姿勢の大切さが、脳の仕組みからも実証されると感じられた。
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