高樹 のぶ子
対談
渡辺 淳一
「枯れない人」になるために
中高年に必要なのは
情感を満たす性愛です
たとえ好意を持っていても、一歩踏み出せない人が老若男女問わず増えている昨今。
生涯¨現役¨でいる秘訣から、異性の思いを知る方法まで、
恋愛と性を描き続けるおふたりが語り尽くしました。
ラクで簡便な愛ばかりの時代
高樹 最近、恋愛することに臆病な人がすごく増えた感じがします。恋愛感情が100あったら98は成就しないのだから、ダメもと精神で、行っちゃえばいいのに、傷つくのが怖いのね。
渡辺 男が元気をなくしちゃってるからね。本来口説くのが男の仕事なのに、それをしようとしない。
高樹 だから、女性の側が動かないと、恋愛が成立しないんですよ。
渡辺 男の性って、イマジネーションだけで満たされて、射精にまでゆきつける。その意味では自立した性だからね。女性の体がなくても、十分な快感を覚え、まっとうできるところがあって。
高樹 あら、女性にもセルフサービスで快楽を得る人はいますよ。
渡辺 自慰でも得られるかもしれないけれど、本当の満足を得るには、男性に優しく抱かれたり、愛撫されて、性的な興奮が、高まって結ばれる、というプロセスが必要でしょう。でも男は一人で完結できる。
高樹 でも、それと恋愛におけるセックスの快楽とは、全然違うでしょう。
渡辺 たしかに違う。でも、快感に関してだけ言えばほとんど変わらない。いや、自慰のほうが自己中心な分だけ、満足感が高いかもしれない。それに較べると、女性と結ばれるまでの恋愛や結婚に伴う煩瑣な条件を考えると、一部の男性が自慰に走って満足するのは仕方がないかも。
高樹 煩瑣ねえ、セックスも面倒なのかな。自分とは全く違う対象に欲望を覚え、自分のほうに引き寄せ、あるいは相手に歩み寄り、なんとか関連性をつけていく、という行為そのものが。
渡辺 それが望ましい姿だけど、結婚している夫でも、妻に、「今夜いい?」「眠いから明日にして」「そこをなんとか」みたいなやりとりが面倒で、一人でポルノ見てオナニーをしているケースって多いんじゃないかな。ラクで気をつかわなくてもいいようにと、そこだけ求めていったら、やがてはお互い触れ合わず、オナニーするという形になっちゃうかも。
高樹 生身の女性よりもアニメのキャラクターに欲情する人も出てきたでしょう。生理的に人間が変わってきちゃったのかな。
渡辺 生活が簡便でラクな方向へ動いていくと、風速も変わり、やがて愛まで変わっていく。でも愛にかかわる人間関係の煩瑣を否定するのは怖いことですよね。本当は楽しくて素敵なことなのに。
年をとるのは性的にもチャンス
高樹 中高年の場合、恋愛に臆してしまうのは、自分の容色の衰えを自覚しているから、ということもありますよね。加えて男の人は精力の衰えもある。もうオジサンだしオバサンだし、という負い目を乗り越えて、一歩踏み出すのはたいへんなエネルギーがいります。渡辺さんは、そのあたりはどうしていらっしゃるの?
渡辺 いや、僕は年をとることって、ある意味でチャンスだとおもっているのね。なんか、年齢とともに、少し自信が出てきたようで。
高樹 性的自身が!
渡辺 ほとんどの男性は、セックスというものを、「あそこをがんばらせて、一生懸命やればいい」と思っているけど、性の快楽ってそんなものじゃないでしょう。それより、優しく抱き寄せてゆっくり愛撫する、素敵だねと言葉をかける…そうした情感が満たされれば燃えあがるのに、かなりの男は、へたなモノを入れて激しく動いて終わり、ですよね。
高樹 みんなわかってないから…。
渡辺 そう、自己というか、男性中心の考えが強くて。
高樹 ただ、若いころのように自分のモノでは、もはや相手を満足させることができないという男としての哀しみみたいなものはあるでしょう。
渡辺 それはある程度仕方がない。でも愛撫にはいろいろな方法があるから。ある年齢から、男は射精しなくなるんです。交感神経が強くないと射精ってできないから。
高樹 だけど、射精しないと男の満足は得られないんでしょ?
渡辺 そういう満足じゃなくて、愛する女性が満足する姿を見る満足。
高樹 ふーん、女性が満足すれば、射精しなくてもおとなしくなるんだ。
渡辺 そもそも、なぜ男が女性に対して一生懸命セックスしたり、愛情をかけたり、お金を使ったりするかというと、自分というものを受け入れ、愛するようにさせるため。それが男の快感だから。
高樹 なついてくれる人がいい。
渡辺 なつくというか、優しく受け入れてくれる人、自分の意見に賛成してくれる人。
「背中掻いて」といったら、すぐ掻いてくれる人。男は、そういうことで受け入れられ、
認められて強くなる生き物だから。
高樹 だから、男性が年齢を積み重ねて弱くなってきたら、女性もそのぶん優しくならないと成立しない。
渡辺 いや、違う。
高樹 えっ?違うの?
渡辺 無理して合わせるというのでなく、愛で満たされていたら、女性は自然に優しくしてくれますよ。
高樹 なるほどね。でも、いぬにちゃんとえさをやれば、なついてくれる、みたいな感じもするけれど。
渡辺 つまり僕がいいたいのは、射精する能力が衰えても、カバーする方法は十分にあるということ。広い意味でのスローラブかな。それを実行していけば、それなりの存在感を持つことができる。自分がここまで尽くして、その結果、女性はこれだけ自分につくしてくれるんだ、と。
高樹 じゃあ、単純に射精だけが男女の関わりだと思っている男性は、年をとったとたんにコミュニケーション能力がガクンと落ちますね。
渡辺 定年になって奥さんに突然冷たくされる男は、そのタイプかも。
いい男の陰に年上女性あり
高樹 今のお話、ぜひ男性に聞かせたい。すごく勇気づけられると思うな。「オレはもう勃たないから、女性とはかかわれない、恋愛できない」とあきらめる必要はないってことですよね。いっぽう、私たち女性にとっても、自分がいつまで性的な対象でいられるのかはとても気になるところ。私、酔っぱらうとついリサーチかけちゃうもの。「ね、私を抱ける?『うん』っていっても、『ではひとつよろしく』とはいわないから、心配しないで正直に答えて」って(笑)。この年になると、男性が40歳だったりすると、この人にとって私は女か女でないかを考えてしまうわけですよ。
渡辺 僕は40代のときに60歳になったばかりの女性と関係したことがありますよ。
高樹 ほんとに?それ、私の夢なんですけど。ぴちぴちギャルがいっぱいいるのに、60歳の彼女のなにがよかったの?
渡辺 セックスが素敵だった。それからそこまでの過程も素敵で。その人のご主人とも僕は知り合いだったんだけど…。
高樹 じゃあ、そのご夫婦の間にはセックスがなかったのね。
渡辺 ところがね、あるパーティーでご夫婦といっしょだったとき、奥さんに「渡辺さん踊りましょうよ」と誘われたんです。そして踊っているうちに奥さんが吸いつくようにぽったり体をつけてくる。それで僕があって、「ご主人、見てますよ」とささやくと「いいのよ。あの人、こうすると興奮して今夜私を抱くの。だから、もっとくっついて」って。
高樹 かなりの女性ですね、それは。
渡辺 そんなことをしているうちに、関係ができるのは当然でしょ。
高樹 当たり前です。その人がベッドで若い男をどれだけ狂わせるか、想像がつくなあ。
渡辺 そのころ、僕にはほかにも女性がいたのに、奥さんの方にひかれちゃった。セックスもいいけど、とにかく雰囲気がいい。なんともいえない柔らかな。
高樹 ああ、包んでもらえるような大きさがあったんですね。いいお話。
渡辺 年齢を重ねた女性の方が素敵ですよ。そう思う男は少なくないと思うな。
高樹 私のリサーチによると、何歳の女性までならOKかという線引きは、その男性の年齢には関係なく、女性へのキャパシティ次第。これまで私が恋したいい男たちや、たいてい若いころにうんと年上の女性とつきあった経験がある。そういう経験を持つ人は、女性のキャパも広いんですよ。年齢じゃなくて、その女性の持っている何かに感応する力が磨かれているっていうのかな。それって、いい男の必須条件ですよね。
渡辺 僕の初体験は18歳だったけど、全然うまくできなかった。でも、その後長くつきあった7歳年上の洋裁学校の先生とは、素晴らしい体験をしたな。
高樹 ね、だから、渡辺さんもキャパが広い。男の人にも、もう少し豊かになってほしいと思うな。シワの数にごまかされないで、女性の中のセクシーさに反応する感性を持ってほしい。そうすれば、お互いにときめくことができるのに。つまらない男ほど「女は若い方がいい」といいますよね。
渡辺 うん、なにもわかっていない男はいっぱいいるね。妻がヨン様に夢中になり、韓国まで追っかける姿を見て「バカなことをしてる」と冷笑する夫がいるじゃないですか。でもバカなことをさせているのは自分だ、ってことに気がつかないんだな。自分がつまらない夫だから、妻はヨン様にときめくことで満たしているのに。僕は日本中の中高年の女性に、もっともっとときめいてほしいと思う。ときめく相手は、ヨン様でもだれでもいいから。
本命か遊びかを見抜く試薬とは
高樹 日本の男性は女性に対して言葉が足りないと思います。渡辺さんには、決めゼリフはありますか。
渡辺 素敵な部分をほめることかな。
高樹 でも、ほめるって案外難しい。相手が自信を持っていて、かつ客観的に見てもいい、という美点をまず見つけ出さないことには、的はずれになっちゃう。
渡辺 いいの、的はずれでも。とにかく言葉が大事。「今日はキレイだね」「肌が輝いている」など、顔をほめるのが難しかったら「ヘアスタイルが決まってるよ」とか。日本の男はそんなことをいうと軽く見られると思うのか、あんまり女性をほめないよねえ。でもある意味、心を入れなければほめるのは簡単なんだけど。
高樹 心を入れないと、相手に見破られてしまうのでは?
渡辺 そんなことはない。ほめられればだれだってうれしい。
高樹 いわれ慣れしている人も?
渡辺 それでもほめる。「高樹さん、最近、とってもいい小説を書いていらっしゃいますね」っていわれたら悪い気しないでしょ。
高樹 当たり前です。もっといって、もっといって、と思う。(笑)
渡辺 それと同じですよ。
高樹 じゃあ、この女を口説いてベッドに誘いたい、というときは?「素敵だよ」「キレイだよ」だけじゃなく、「君と寝たい」とか「君の体に触れたい」という決定的な言葉がやっぱり必要じゃないの?
渡辺 もちろん。最近の男はそれをいわない?
高樹 その一言がないために、いっしょに食事に行ったり、飲みに行ったりはするけれど、その先へ進めず、相手の気持ちを測りかねてうじうずする女性が多いんですよ。渡辺さんのようなアグレッシブな男性は近頃とても少なくて、恋愛も結婚も女性が主体にならないと動かない時代です。それを見ていると、男に使う「試薬」脈ありかどうかを判断するものとは何なのかを、女性たちに提示してあげたいの。
渡辺 なるほどね。ただ、男から口説くときに、相手の行為の度合いをテストする方法はあるよ。僕は愛のテスティングって、いってるんだけど。
高樹 試薬とはまさにそう、テスティングなんですよ。
渡辺 たとえば、いっしょに飲んでいて、だいぶいい感じかな?もう一歩近づきたいなと思ったら、「これ、うまいよ」といって、口をつけたグラスを差し出す。受け取って飲んでくれたら有力。
高樹 ええっ、私も飲みますけど、有力かどうかわからないですよ。
渡辺 でも、嫌いな人のなら絶対飲まない。それから、バーのカウンターで並んで座っているとき、軽く膝を触れあう、パッと引かれたら可能性なし。触れたまま黙っていたら、可能性あり。また、「ねえ」と軽く肩に触れ、さらに紙に触れても避けない。そこまでいったら、かなり有力。
高樹 今おっしゃったことを女性が男性にした場合、嫌がる人はいませんよね。男は女に触れられてイヤだとは思わない生き物ですし。でも、女は好きな男ならうれしいけど、好きでもない男だと嫌悪感を覚える。そこが根本的に違うところで…。
渡辺 たしかに、女が男の気持ちを測るテストとしては、少し違うかも。
高樹 いよいよもって、女性が主体的に関係をつくっていこうとするときの困難が見えてきましたねえ。
渡辺 あと、女性は何でもハッキリさせたがるじゃないですか。でも男は、あんまり本当のことをいわない。今抱き合っていて幸せなのに、明日はどうするの?昨日は何をしていたの?と、問い詰められるのはうっとうしい。昨日は他の子とデートしてた、なんていえないでしょう。
高樹 女にとっては問いかけること自体が愛なんですよ。大切だからこそ、自分は本命なのか遊びなのか、試薬を振りかけながらリサーチする。男は真実に対して受け身で、女は真実の追究者だから、そのせめぎあいがおもしろくもあるんだけど、女としてはいらだちが出てくる。
渡辺 僕のことが好きなら、僕の好きなようにさせてほしい。そんな気持ちになることもあるね。
高樹 それって、究極の男のわがまま。そういう男女の決定的な違いによって、恋愛のあらゆる懊悩が出てくるんです。でも、幸せですね、渡辺さん。そんなことをぬけぬけといえる男性はめったにいませんよ。
渡辺 高樹さんのいいたいことはよくわかりました。これまで女性は受け身で積極的に自分から動くことがなかった。それを変えたいという、それは大切なことだよね。
高樹 私は女性たちに、記憶のどこかにこびりついている、人を恋うるやるせなさを思い出してほしいの。人を好きになって損はありません。若くなろうとするし、キレイにもなるれ。満たされない結果に終わっても、恋はしないよりしたほうがいい。
渡辺 もう何歳だから恋はできない、ときめつける必要はない。年をとればとるほど個人差が大きくなる。「最近の若者」とか「最近の30代」とひとくくりにできても、60代、70代になると共通項がない。老けこんでいるいる人もいるし、活発な人もいて、ひとつにくくれない。60歳の女はダメ、なんていっている男は、最初から相手にしないことですよ。もっともっと柔軟な男がこの世にはいるから。
高樹 なんだか私、欲が出てきちゃった。40代の男を探して、悪魔的なかわいい女になる。よし、がんばるぞ、という気持ちになりました。