アーキビストのノート

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2022年度アーカイブズカレッジ修了論文報告会の概要をご紹介いたします。


報告会概要
日時:2023年3月26日 14:00〜17:20
会場:オンライン会議ツール「ZOOM」を使用

オンラインでの開催となりましたが、50名近くの方にご参加いただき、活発な議論が行われました。
2本の報告と記念講演について概要をご紹介いたします。

第1報告:小嶋翔氏(吉野作造記念館(NPO法人古川学事指定管理)主任研究員)「自治体文書館における民間アーカイブズの保存と指定管理者制度」
 小嶋翔氏は、指定管理者制度を導入した自治体文書館における民間アーカイブズ資料の受け入れ、保存管理に関する問題を報告した。
 まず自身の勤務先である吉野作造記念館の事例を紹介し、特に寄贈資料・寄託資料の所有権移行について、原所蔵者・指定管理者・自治体の三者間の制度設計に関する課題を指摘した。次にこの課題について、同じく指定管理者制度を導入している沖縄県公文書館の規則類を検討した。
 以上の事例から、指定管理者制度を導入した自治体文書館において、指定管理者が自治体との間で定める必要のある規則・制度を明示した。また寄贈資料・寄託資料の取り扱いについては、制度面にとどまらないコミュニケーションの機会を自治体との間で恒常的に保ち、資料の受け入れや保存に関する認識を共有する必要があると述べた。

コメントカードより
・指定管理者という第三者の史料保存、活用に関する知識の有無や、数年でかわってしまう危険性もあるという継続性の問題など、いろんなところで現在起こりえる問題の一端を拝聴できました。まさしく制度だけでは形骸化する恐れがあるのはおっしゃる通りで、こういう時にこそ、そこに配置されるアーキビストの役割が重要になるのだろうなと感じました。

・たいへん興味深い内容でした。指定管理者制度については、多くの自治体がさまざまな館で導入をしており、今後も増えることが予想されます。寄贈、寄託に関して、どのようなパターンがあるかを、ご自身所属の館と沖縄県立文書館のケースを比較することでとても分かりやすい内容と思いました。


第2報告:大薗佳純氏(國學院大學大学院)「「若松史料」の構造分析と目録編成」
 大薗氏は、現在防衛研究所戦史研究センターに所蔵されている資料群「若松史料」について、構造の分析と目録編成の試みについて報告した。
 元々は陸軍経理学校に所蔵されていた書籍群を中心とする「若松史料」について、蔵書印や分類番号などを手がかりに、現在は一括で扱われている史料群の中から陸軍経理学校時代の秩序を復元した編成を示した。
 また、戦後直後の散逸、占領軍による接収、その後の自衛隊の設立・移管による混乱した「若松史料」の変遷を整理し、史料群の特徴を分析した。
 他機関に所蔵される史料を含めた陸軍経理学校旧蔵図書の全体像の検討を今後の課題として挙げつつ、研究史に薄い旧日本軍の戦闘職種以外の教育機関史料の整理について試みた報告であった。

コメントカードより
・アーカイブズ学の王道といってはざっくり過ぎるかと思いますが、編成については常に自分自身現場で立ち戻る部分ですので、とても参考になりました。若松史料については初めて知りましたが、最初どなたかの名前からとられたのかと思いました。もう少し最初のほうで名前の由来を入れていただけるとありがたかったです。軍事研究については知識がほとんどありませんでしたが、その分野の中でもどのような研究がまだ薄いとされているのか、などの知識も得られてよかったです。

・目録編成という時間のかかるお仕事を、地道に続けられた方の貴重なご報告でした。編成をする際に「非公開」と「その他」のフォンド設定がやはり悩み所だと感じます。「その他」の中に雑多なものが入りすぎている場合、利便性という観点から言うと、別の設定の仕方もあるのだろうと感じました。


記念講演:青木睦先生(国文学研究資料館准教授)「アーカイブズ・レスキューのこれまでとこれから―民間所在・行政管理の垣根を越えて」
 「アーカイブズ・レスキューのこれまでとこれから―民間所在・行政管理の垣根を越えて」と題して、青木睦先生に講演いただいた。
 青木先生は、長年各地でのアーカイブズ・レスキューに携わったご経験から、講演では1990年代から現在に至るまでの各地の対応を紹介された。「ガイドラインは書くけれど、マニュアルはない」と仰っていたことが、とても印象的であった。
 講演の後半では、資料所在情報の重要性や「可視化」・「高度化」の観点からVRを利用することで、新しいレスキュートレーニングについて提案もされていた。本講演は、アーカイブズ・レスキューを通じ、今後の課題が指摘され、聴講者が史料と今後どのように向きあえばよいのかを振り返る機会となった。

コメントカードより
・最後の、アーカイブズ系の論文の書き方と、歴史学的な立脚点のもとで書く論文の書き方の違いはかなり大きな問題ですが、長く保存と修復の現場に携わられた青木先生ならではの葛藤がおありなのだなと感じました。いずれお話など直に伺ってみたいです。

・ご講演どうもありがとうございました。アーカイブズカレッジではお世話になりました。重ねて御礼申し上げます。どの点についても課題として認識することの必要をあらためて感じました。マニュアルを求めてしまう心性とそれに対する先生のお考え(期待される人材像)についてのお話も印象に残りました。

以上となります。
2年連続のオンライン開催となりましたが、来たる2023年度は対面での開催を目指しています。
最後に、ご報告いただいたお二方、記念講演をお引き受けいただいた青木睦先生、そしてご参加くださった皆様に心より御礼を申し上げます。


2023.04.28:archives:count(370):[メモ/コンテンツ]
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