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2017年度アーカイブズカレッジ修了論文報告会概要報告
2017年度アーカイブズカレッジ修了論文報告会の様子をご紹介いたします。
報告会概要
日時:2018年3月17日(土) 13:00~17:00
場所:駒澤大学 駒沢キャンパス 本部棟6階「大会議室」
報告会とその後の懇親会まで、多くの方に御参加いただき、活発な意見の交換が行われました。
4本の報告に関して概要をご紹介いたします。
第1報告:西口正隆(一橋大学大学院)「河岸問屋アーカイブズの編成記述―上新河岸村遠藤家文書を事例に―」
西口氏は、上新河岸村遠藤家文書の編成記述を事例とし、河岸問屋を務めた家に集積される文書群、河岸問屋アーカイブズの特質を検討した。
遠藤家文書はすでに主題分類によって目録が作成されているが、問題点があるとして、肩書・役職、家・店の機能、残された秩序の3点を重視し、9つのサブフォンドに編成した。編成を行った上で分析すると以下の傾向があるとした。①上新河岸村の近世・近代村政文書、②河岸問屋関係、③問屋仲間会所関係文書、④遠藤家。4つの傾向の分析から、それぞれ公私に大別ができ、その上でより関連度の高い組み合わせを中心に、それぞれが相互に、時に不可分に関連しながら、文書群を構成しているとした。そして、上記の分析を通じて、河岸問屋アーカイブズの特質は、河岸問屋文書・家文書を軸として、複数のまとまりが重層的に、時に不可分に関連しながら現存していること、村政文書と問屋仲間文書という2つの組織体の運営に関する文書が存在することであるとした。
第2報告:佐藤大悟(東京大学大学院)「明治太政官期の修史部局における記録管理」
佐藤氏は、明治太政官期における記録管理について、修史部局を中心に報告を行った。
明治太政官期の記録管理を検討した従来の研究では、記録管理部局についての研究が積み重ねられてきたが、修史部局については研究の対象外であった。このような先行研究の課題から、①太政官期の修史事業における政府の記録管理の実態と記録部局との関係性、②太政官期の修史部局における記録管理制度の解明、③修史部局の記録管理の実態という3点の検討を行った。
①の課題について、全国記録文書保存政策などの検討から杉浦譲によって地方記録保存を内務省が主導したことが明らかとなった。②の検討では、修史部局の職制などを丹念に読み解くことで記録管理制度の実態を解明した。さらに、③では、修史部局の記録管理における断片的に残されている簿冊を系統的に確認したことで、「修史局・修史館史料」とそれ以外の画期について、明治21年(帝国大学臨時編年史料編纂掛の設置年)で分けられることが明らかとなった。
第3報告:春木良且(フェリス女学院大学)「高度成長期の地域記録史料としての"政策ニュース映画"の保存と公開 -川崎市政ニュースの分析を例に-」
春木報告では、政策ニュース映画のひとつである川崎市政ニュースを事例として、戦後の地域社会の変化を記録した地域アーカイブズの構築について検討された。
川崎市政ニュースは、主に川崎市内のインフラや社会整備を内容とする政策広報であり、戦後の都市部の経済成長のプロセスが分かる貴重な記録である。その特徴故に、高度経済成長期を中心とした戦後社会の変化を俯瞰する上で非常に有用な資料であり、これら政策ニュース映画を公文書や市民の証言と組み合わせることによって地域や社会の歴史を紡ぎ、結果として戦後社会のパラダイムを明らかにすることができ、そのためにアーカイブズとして編成・活用することが有効であることを指摘された。アーカイブズとして編成するにあたって、①ナレーションをテキストデータに変換 ②コマ割りをキャプチャに変換 ③文書データをメタ情報に変換するなど、一つの映像を三つの項目に分けて編成することが必要であると提案された。
第4報告:加藤はるか(お茶の水女子大学非常勤講師)「イギリスにおける民間アーカイブズの管理と利用に関する一考察 -外国人研究者の視点から-」
加藤氏は中世イングランド史を専門とする外国人研究者の視点から、イギリスにおける民間アーカイブズ管理の歴史と現状、それに由来する課題を報告した。
まず、イギリスの民間アーカイブズの沿革について、大きく次の4点を示した。①教会・修道院や貴族・ジェントリの文字記録に由来する成立過程、②民間アーカイブズの情報収集・提供を行う王立手稿史料委員会Historical Manuscripts Commission(HMC)の設立(1869年)、③民間アーカイブズ散逸の懸念に対応して1945年に設立された、HMCを母体とする全国アーカイブズ登録局National Register of Archives(NRA)の諸活動、④21世紀以降の史料目録のオンラインデータベース化の推進、一元的検索システムDiscoveryの運用開始(2012年)。
加藤氏は、以上の先進的な事例の反面として、個人・小規模の民間アーカイブズにみられるDiscoveryへの登録内容の精粗や、そもそも整理・目録化自体が進んでいない史料の存在といった問題を提示する。こうした民間アーカイブズは、検索システムが整備されるほど利用機会の格差が生じ結果的に存在ごと埋没しかねず、目録作成が競争的資金に頼らざる得ない現状もこうした格差を広げる恐れがあると指摘した。最後にこうしたイギリスの現状と課題を踏まえて、日本の民間アーカイブズを考える必要性を述べた。
コメントカードより
・(西口報告に対して)「河岸問屋アーカイブズ」という概念について、その他の酒屋・金融業など家業と家の文書が混合する文書群との違い、特徴が明瞭になると面白いかと思います。河川流通をとおした文化交流から交友範囲が広がりをみせたのかなど。
・(佐藤報告に対して)明治初年の国による歴史資料の収集は、大々的に大量に書写され集められていたように思われる。写本作成の時期、スタッフ、方式などがわかることで、今後これらの史料がより活用されていくだろうと思う。その前提として興味深かったです。
・(春木報告に対して)門外漢でしたが、史資料利用の観点で興味深くきかせていただきました。春木先生の仰る政策ニュースフィルムのお話はオーラルヒストリーの視点とも重なると共に、オーラルヒストリーの問題点を埋める方法論としても考える余地があると思います。
・(加藤報告に対して)様々な取り組みがなされてきたイギリスの民間アーカイブズの事例を初めて知ることができ興味深かった。イギリスの先進性だけでなく、そうした利用環境の向上や技術の進展ゆえに生じる課題があるという指摘は重要だと思った。
・4名の方々、皆さん、充実した内容の発表でした。
・報告内容はもちろん報告の仕方、方法なども大変参考になりました。初めての参加でしたが、学ぶことが多く、参加することができてよかったと思いました。
・参加させていただきましてありがとうございました。アーカイブズ学について色々な視点から考えさせていただくことができ、とても勉強になりました。
・10周年おめでとうございます。続けていくことがとても大切だと思います。これからも応援します!
・どの報告も大変学ぶところの大きなもので、有意義な機会をいただけましたことに深く感謝申し上げます。
・3年連続参加させていただいておりますが、毎回/\とても勉強になり、自らの研究や日々の業務のはげみになります。本日も本当にありがとうございました。
以上となります。
最後に、ご報告いただいた4名の方々、ご参加くださった皆様、そして会場をご提供いただいた駒澤大学の関係者の方々に心より御礼申し上げます。
2018.12.21:
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