お呼ばれ戴いた。
西高玉稲荷神社の獅子頭一対は、依頼を受け平成19年(西暦2007年)に完成し納めさせてもらった。
どちらも大型の迫力ある巻毛眉の獅子頭で、彫り甲斐のある獅子頭だった。難易度の高い仕事は挑戦
する気持ちが湧き出てきて身体の細胞が活性化する様な気がする。前回の仕事は模倣だったが、また
依頼があればさらに凌駕する域まで達したい。
あれから16年も経過したのかと思うと月日の経つ早さを感じる。改めて巨大な獅子頭が神社から
現れると、その迫力に本当にこの手で彫ったのか疑ってしまう驚きを感じる。前夜祭の夜祭のこの獅
子は、重量9kgも有り前もって稽古をしないと持つに持てないらしい。やがて境内を出て地区を巡る
が、この時期は日が落ちてからストンと気温が下がってくる。お呼ばれした家に向かうと、この家の
当主が温かく出迎えてくれた。既に家には大勢の獅子を見にきた友人知人が溢れていて公民館状態で
ある。テーブルには奥さん心の籠もった山海の珍味が所狭しと並んで、お酒を戴きながら獅子を待つ
・・なんて贅沢な時間。獅子頭制作の際、こちらの御当主にお世話になったが、御当主は獅子を迎え
る為の準備で家中を奔走されている。昼の長谷部吉之助の作を寄付された方と当時の獅子頭制作の話
に花が咲く。すると鳴り物の音が近づくと、一転して一斉に料理や酒類を片付けが始まった。
獅子振りの方々を迎える為だ。20畳ほどの部屋にブルーシートが敷かれているので、ここで獅子振り
達がお休みするのだろう。庭で獅子舞が始まり休憩に入ると、獅子頭は奥の間に鎮座した。
晴天のためか草鞋を脱ぐ必要も無い様で庭でのお休みだった。お休みが終わると獅子頭が動き出す・・
人が獅子を持った瞬間に、正気を取り戻し動き出す様子は何度見ても不思議な感覚だ。
座敷には獅子の御信心を待つ家人や客人が正座をして待っている。これから獅子が膝を着いて部屋に入り
一人一人に歯打ちをしてくれるという、なんとも神々しいお祓いの歯打ちなのだ。この所作はについて、
以前、角力役をしていたというご年配の方からお話を聞いた・・「この所作は私が始めた振り方で、ある
時この膝歩きの御信心で御信心したら皆、大変喜んでくれた」のだという。3・40年前に生まれた、いわ
ば突発的に機転を効かして生まれた舞だったのだ。一同、獅子頭の姿に神を感じ、歯打ちは心身に響いて
熱い喜びが湧き上がる。いまこの場で獅子を舞うのは、御当主の息子さんで現在県外で仕事をしているが、
一週間前に戻り稽古も重ね、このお祭りに臨んでいる。その覚悟と困難を乗り越えての舞なのだ。獅子の
重みに耐える息遣いを感じる。9kgの獅子を持ち、伸し上げての歯打ちは膝だけで上体を支え為、相当な
体力を要する。
そして再び庭に出ると、大きな拍手と共に獅子舞が次の目的地に移動していった。皆、興奮と安堵が入り
混じった、清々しい顔で酒宴が再開した。獅子舞の話を肴に酒を戴く・・また自らが制作した獅子に御信
心を受けとは、誰もが味わえない醍醐味だろう。
帰宅の途の為車を待つ。
10月半ばの夜の冷気は吐く息を白くしている、火照った身体に刺さるが快い。