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今泉稲荷神社の獅子頭の手直し
あっという間に桜が咲き、来月24日開催の「ながい黒獅子まつり」の話も聞こえてきた。 正一位今泉稲荷神社の令和元年に制作した獅子頭が久しぶりに里帰りした。 軸棒の留めのネジが緩み外れていたのだという。 他に気になる部分もありメンテナンス入院をすることになった。 令和元年以降、コロナ禍でお祭りが休止し昨年のデビューだったという。それでも右眉の金箔 に軽い擦過傷、牙も幕に擦れて金箔が擦れていた。下顎の歯に取り付けた衝撃緩和ゲルシート も損傷が見られる。口の中に鼻ひげや頬毛を噛んで切れたヤク毛が落ちていた。新調したての 獅子頭が長めのヤク毛を巻き込んで切れるのだろう。 獅子頭を眺めると現在制作しているフォルムより頭部が高く、現在制作している獅子の頭部を 合わせて比較すると幅は同じだが3.5cmも高い。下顎の唇も曲線で彫られで、めくれている様 に見える様に作られている。五年経過すると見え方も変わってくるものである。 今泉稲荷神社の獅子舞は總宮神社系だが、この辺の警護の衣装では珍しく神社紋入りの腹掛け を着けている。その理由は大頭(役職名)もご存知なかったので調べてみよう。 お隣の川西町西大塚薬師堂の警護も確か腹掛けをしていた。 もともと薬師堂の獅子は白鷹の鮎貝八幡の獅子とよく似た赤獅子で練り歩く追い獅子のスタイ ルで昭和初期まで続いたが、その後、竹田吉四郎作の畔藤(くろふじ)熊野神社型の獅子頭を 黒にした獅子を用いている。今泉稲荷神社から吉四郎作の獅子頭が譲渡されたという説もある が、薬師堂の神殿にはこの獅子頭の奉納札が残されているのを確認している。 昭和九年に西大塚字岡の梅津藤雄氏が獅子頭の原木を奉納している記録があるが、その後 「1943年(昭和18年)大東亜戦争必勝祈願 奉納會」という奉納札があった。 獅子頭木地が奉納され吉四郎に制作の依頼がされたが、改めて戦争の影響で順延され戦時中の 9年後に獅子頭が完成し奉納されたのではないか。その吉四郎作の獅子頭は破損し、昭和39年 に南陽市法師柳の佐藤耕雲が超ヘビー級の獅子頭を制作している。 その他「弘化三年の葉山大権現堂再建 大工 渋谷嘉藏」 寺泉渋谷嘉藏は米沢笹野観 音堂の建設に関わっている。 五所神社の獅子頭も平成元年制作の兄弟獅子。 初めて黒獅子まつりで舞う令和元年生まれの今泉稲荷の獅子の晴れ姿が楽しみである。 警護の腹掛けの謎を調べていると、今泉稲荷の拝殿にあった年代不詳の例祭の記念撮影を撮影し た写真が出てきた。警護は二人いて左手の警護の化粧廻しはずいぶん豪華で、右の警護のそれは 神社紋が入ったシンプルな化粧廻しである。裾の馬連が擦り切れている。どちらも腹掛けをして いる。 今泉稲荷神社 西大塚薬師堂 昭和36年の記念写真 西大塚薬師堂は今泉稲荷神社から獅子舞を習った際、警護の衣装スタイルも導入したのだろう。 兄弟獅子のご対面 左が今泉稲荷と五所神社の獅子2025.04.22 -
一対の小振りの獅子頭
コレクションの豪華な黄金の獅子頭と同じ様式と思われる獅子頭一対が入荷した。 一見黒ずんだ茶色の様だが、銀箔が酸化して渋い色に変化している。 耳や目、歯、宝珠や角は金箔と思われる。 黄金の獅子 造りは、関東に多く見られる神輿と共に行列に加わる、大型の飾り獅子である。 獅子頭本体のサイズは高さ10cm、幅16cm、奥行き13cmと小振りながら精度の高い 獅子である。小振りの獅子ほど仕上げに手間がかかり、彫刻や塗りに緻密な技術が問 われるサイズでもある。タテガミは麻か青苧系の植物繊維である。 幕を取り付けていた竹釘があり、わずかにその繊維が付着しているが、幕についての 情報は得られない。現在の石岡型の獅子は頭部が大きく眉やもみあげの巻毛の装飾が 複雑だが、おそらく明治以前の茨城系の獅子頭は、こういうスタイルだったのだろうと 推測している。 小振りの獅子一対に取り付ける為に早速、青と紺のツートンカラーの生地を発注し届く のを待っている。2025.04.01 -
黒獅子の木地制作
制作途中だった總宮型の獅子木地制作を再開した。 木地が乾燥の際に変形する場合があり、放置し乾燥を促す。案の定、歯の輪郭ラ インが5mmずれ、きつくなった軸棒穴を修正し輪郭ラインを彫り直して整えた。 同時に同じ柳から彫り出した四頭の獅子木地だが、ほとんど変形しない木地もあ り材の部位の性格も様々だ。この木地はとある神社の二作目の獅子に仕上がる予 定で、一作目より軽量化なるように依頼されている。大抵は神社総代の御大が関 わり獅子の重さについてのリクエストは無い事が多いが、実際に獅子を振る若い 衆が関わると細部まで検討の余地が入る。總宮型の黒獅子のデザインといっても 様々有る。獅子の作者によってこだわりや癖があり「高橋小兵衛風の裏の彫り込 み」とか「竹田吉四郎風の耳」、「梅津弥兵衛風の目」とかのオーダーが話に出 ると「おっ!この方は獅子頭をかなり勉強してる御仁だ」となる。最近、年配の方 よりネット情報に長けた比較的若い年代に多い。こちらのブログのレアな獅子の 情報源にもなっているのだろう。 獅子木地は一昨年末に清水町から出た柳で良い状態で、かなり乾燥が進んでいる。 軽量化の為、横に計量秤を置いて制作するが「獅子の内部の彫り込み」が重さを 左右するので重要だ。軸棒は重いが堅牢な樫材を使用し、耳や舌は軽い桐材で作り FRP(強化プラスチック)で補強する。FRP補強は獅子の内外部の鼻や歯、破損し やすい部分に施工し、さらにそのガラス繊維の上に薄い麻布を貼り付け覆う。FRP 補強工法のない時代は、せいぜい漆で麻布を着せる補強が主流だった。獅子頭に FRP補強をすると200gから300gの加重で済み効果的と考えている。 これから仕上げる獅子頭にFRP補強の工程に入る。 かなりハードでタフな使用が予想される神社の獅子舞なので気を抜けない。一作目 の獅子は大雨の中でデビューし軸棒が水を吸って膨張し口の開閉に支障を来たした。 また、上の軸棒が折れ応急処置し取り替えた軸棒が再度折れるというトラブルもあり 自作の木工旋盤加工したイタヤカエデ材の使用を廃止し、樫材に変更した経験もある。 上下の歯を強烈に打ち合わせる「歯打ち」は總宮型の獅子舞にとって無くてはならない 所作だが大抵、破損箇所は上下の前歯である。やはりこの神社の獅子も上の前歯の下地 が破損し、FRP修理で初めて「カーボンファイバー」を使用した。 一晩に何回歯打ちをするかのデーターを一度でも調査する価値がある。 例えば歯打ちセンサーの装置を開発し獅子頭に取り付ける方法もあるだろう。 漆の下地の骨材にガラス繊維を混ぜて強度を増すような工夫も検討している。 また珍しいオーダーも依頼されている。本来は破損した舌の根元周辺を補強するための 棒状の補強で、總宮神社の明治江戸期の獅子の修復に使われている工法だ。注がれたお神 酒を流すドレイン穴を開けている。舌自体は後付けしたものでFRPで固定し念には念をい れボルトでしっかり固定する。2025.02.20 -
三獅子と三面と天狗の仕上がり
三頭の獅子と三人の面(三天王)と鳥兜(とりかぶと)を被った天狗面(禰宜)の制作がようやく 完成した。 三獅子と三天王はそれぞれ親と子の関係、獅子も三天王も親がいて三天王の赤い面のうち赤い髪が 親だという。禰宜は動画をみると、こちらの獅子舞同様の先導役の神だろう。 艶のある藍色のタテガミ 試着 獅子は木型を作り和紙を貼り重ね張子にし、竹で踊り子の頭部が収まる籠を作り、FRPで補強し漆 を塗って金箔を施した。顔隠しの麻布を染め獅子に取り付けし、頭部には七光する鶏の黒羽を付け、 青苧の繊維を藍色に染めて布地に取り付けタテガミに整えた。 三天王の脳天には銀の円盤・・月天?と金の角?を取り付け 朱色の長髪 角が勇ましさをアップする 三天王は桐で彫刻し漆を塗り、青苧の髪を取り付けるザルを竹で作り、獅子と同様に青苧を藍と朱 に染め長い髪を作り、顎紐など取り付け踊り子の頭部に固定できる様にした。 鳥兜はメタリックな生地を使用 面の眉やひげは白ヤク毛 頭部が安定する様に笠の五徳を取り付ける 禰宜の面も桐材で彫刻し、加熱すると固まる樹脂の布製の芯を縫製し、金銀の布地を圧着し鳥兜を 作り禰宜の面を取り付けた。 これらの制作は多くの伝統的手工芸の方々の分業による手技の集大成なるものである。 振り返ってみると竹工芸、木工芸、染工芸、張子工芸、漆工芸、和洋裁の技術者を探し出し、取り纏 めることは今後ますます難しいだろう。初見の手本の獅子や面の素材を分析し、どうやって制作した のかを推測し、制作のノウハウを試行錯誤して組み立てていく制作は黒獅子の獅子頭制作とは違う面 白さを体験した。もし獅子幕のミシン縫製の技術や、獅子頭を幕に取り付けるノウハウ等がなかったら 制作はさらに困難を極めただろう。手業は身を助く・・またノウハウやマニュアルの引き出しがグンと 増えてグレードアップした様な気分になっている。2025.02.14 -
歌丸の獅子 豪雪の最中に産声
長井市歌丸地区金鐘寺に伝わる獅子をモデルに制作した獅子頭がようやく仕上がった。 塗りは江口漆工房の作。 タテガミ取り付け前の獅子の写真は貴重 漆の硬化は一定の温度と湿度が必要で、今の様な厳冬期にはその調整が難しいと聞く。 漆は完全に硬化するまで時間がかかる事が分かるのは、私の両手に現れる肘にかけての漆マケ が物語る。命に関わるアレルギーでは無さそうなので2週間の我慢である。 これは歌丸の獅子の漆マケではなく長野の三獅子の加工の際のものだろう。 漆が塗り上がり金箔を押し、少し養生してから塗師から彫師へ引き渡される。 白馬毛のタテガミを植える前に、獅子の金箔部にウレタンの保護剤を塗布しなければならない。 硬化間も無い塗面や金箔は、ちょっとした摩擦で傷が現れるのだ。 透明な保護剤は気をつけないと垂れたり塗り残しがで台無しになるので照明を増やすが、黒と金 の強いコントラストで判別が難しい。 保護剤が硬化すると獅子の毛穴に束にし整えた白馬毛を植える。 60本ほどの毛穴は黒獅子系としては少ない方で、成田や五十川型の黒獅子はその倍の束を必要とする。 毛量は植え過ぎも節約するのも良くなく、やはり程々が最適。それも経験で会得するしかない。 またモデルにした獅子頭の毛穴を見れば分かる事である。 最近、ヘアーアイロンを使って白馬毛の癖を調整する事を覚えた。前後するが毛穴の植え方、固定の仕 方にもコツがあり、毛量の見栄えを左右する。 歌丸の獅子の軸棒は、成田五十川型や白鷹鮎貝系の様に横ずれ防止になるコブがなく棒状で、栓で固定 しないと口の開閉などで横ズレし、頭部と顎が外れてしまう事態となる。 軸棒に穴を開け、細い竹で栓になるピンを挿し横ずれ防止とするが時に栓は抜け落ちるトラブルが多く、 今回は穴を開け細いが丈夫な紐を堅く巻いて横ズレ止めとした。 完成した獅子頭を机に乗せ眺める。 角度や高さを変えたり、違った位置から照明を当てて凝視する。 すると獅子が、ポツリポツリと批評を語りはじめる。2025.02.11 - ...続きを見る