9.16 ひろりんモーニングセミナーレポート

  • 9.16 ひろりんモーニングセミナーレポート

音声のみ聞くことができます→ http://youtu.be/scrBJQSlCwk

9月16日(火)のモーニングセミナーは、
(株)新陽ランドリー 代表取締役
全国重度障がい者事業所協会 常務理事

加藤幹夫 様

『障がい者雇用のたのしさ』 というテーマでお話をいただきました。

新陽ランドリーさんは、病院の白衣や企業のユニフォーム・作業着のクリーニングを行なっておりますが、約60名の社員中、なんと41名が知的障がいを持っているのだそうです。

また、その一方で、卓球やバスケットなどに卓越したパラリンピックメダリスト、障がい者アスリートも多くいらっしゃるそうです。

 会社が障がい者の雇用を始めたのは、昭和54年からで、現在は勤続30年以上の知的障がい者が5名、20~30年が16名、10~19年が6名、10年以内が16名というのが内訳です。
 障がい者の社員が長く勤める環境があることの一つに、加藤社長ご自身が半数の20名の社員と共に生活している、ということです。グループホームのような公的なものではなく、障がい者の下宿屋のようなことを続けて、自分の家族とともに暮らしてきた、と。

 また、仕事は主に生産業務は障がい者に任せるようにしておりますが、検数・検品の最終段階は、大卒や専門学校卒の健常者のコーチ(指導員)にと分担している。作業が、曜日毎に得意先からの品物は違うが、クリーニングという同じような作業の流れが障がい者雇用を可能にしている。

 家(社)業に就くきっかけは、お父様が大学4年の時に他界したことで、学校の教員になって高校野球の指導者の夢を捨てて入社。(実際は、仕事の傍ら高校野球の監督もやり、先の甲子園初出場に利府高校野球部を導いた穀田監督は、加藤社長が泉館山高で監督をしていた時の教え子だそうです。現在も夏の甲子園宮城県大会の解説(KHB)をやっているそうです。)

 若くして家(社)業に入ったため、パート社員雇用では苦労をされ、派閥を作られたり、人を見誤った解雇などの失敗があったそうです。
 あるとき、同業者のお子さんが重度障がい者で、依頼されてそのお子さんを雇用したら、出来ないことが多いが、大変素直で裏表がないことに気づき、健常者のパート社員の退職補充を障がい者雇用に切り替えて、徐々に障がい者を増やしてきたそうです。

 のちに、労働省から助成金補助を受け、泉区にモデル工場を建設しましたが、平成2年に、大卒社員を募集。一緒にこの仕事をやってくれる仲間が欲しい、と求人をかけたところ、宮城教育大学や東北福祉大学の出身の方々が入社してくれた。普通であれば、クリーニング工場への入社などないのだが、優秀な人財が集まってくれたことが大変ありがたく、会社を大きくしていく原動力になっている、と。

 小さい会社でありながら、素直な障がい者と優秀な指導員の組み合わせが功を奏している。適材適所の配置をしながら、障がい者ができることは障がい者に、障がい者ができないことは指導員で進めてきた。
 
障がい者ができる職域を増やしていくことを考え、工場入庫時にお客様から預かった商品に、全てICタグを付けて、検品・出庫に活用している。個々人のユニフォーム等の個別管理も、ICタグに情報として入力するので、進捗管理もきちんと出来き、個人のものが紛失したりするなどという事故率も減った。社内のインフラ整備を充実させることで、障がい者の職域を増やし、会社を向上させる努力をしてきた。
 
そのヒントは、欧米の多民族国家では、公用語が読めない方がどのように仕事をしているのだろうか?という疑問から、字が読めなくともバーコードで読み込んで処理するICタグに出会った。そして、障がい者を雇用することで会社のスキルアップを図ってきた。障がい者雇用から気づきや学びがあり、今は感謝することが多い。

 社員のほとんどが一緒に暮らしているので、当然家族であり、スポーツ・旅行・イベントもやる。
 
障がい者を雇用している企業の中には、能力向上のために知識学習させたり、自動車免許まで取らせようとする会社があるが、加藤社長は、知的障がい者は精神年齢が低いので、トラブルにならないように、あえてそのような取り組みはしない、と言う。
 
逆に、子供(の環境)に返してあげると、彼らの気持ちのストレスが無くなる。
 
例えば、夏の暑い日に、工場内敷地にビニールプールを並べて、水着を着て水鉄砲遊びをしたり、と。体は大人だけど心は子供なので、時々子供に返してあげるとストレスが解消される。そして、一緒に遊ぶ。

 タオルをたたむことは幼稚園児でもできるが、これを10枚100枚、1時間半日、1日1週間となると、知的障がい者は、そうはいかない。精神年齢が子供なので、責任感がない、自分でモチベーションを上げられない。集中力や持久力をあげるサポートをする。出来ないことを叱るのではなく、できるようにするにはどうしたら良いかを考える。ここに、加藤社長の野球指導者の経験が活かされている。
 
コーチや監督のような指導者は、エラーを選手の責任しがちだが、実際は人に合わせた指導方法ができているかどうかにある。甲子園でエラーをする選手、三振をする選手に気合が入ってない訳がない、気持ちが入ってない訳がない。本番でキチンと力が出せるようにするには、緊張でエラーが出ないようにするには、そうしたことを考えながら指導する方法を会社では取り入れている。
 
プロ野球の選手から教えてもらったことで、プロ野球で必要なのは、エラーしない人ではなくて、エラーをした時にピッチャーに駆け寄り「もう一度打たせろ。次は必ず捕る」と言えるハートが無いとプロではやっていけない、と。
 
指導者はミスをしたことを責めたがるが、そうではなく、本人に「次は挽回するぞという気持ちを持たせること」、次のミスを生まないように伸ばしていく、伸びしろを伸ばしてあげるのが指導者の役目だ、という事を学んだ、と。それらは、障がい者を雇用する上で、一番大切なことだと思っている。

 過去に、ミスやトラブルはもちろんあり、例えば、ボタン補修の針がついたままの商品を、障がい者が気を利かせてたたんでしまい、そのまま納品してしまったとか、他の支援学校への外注品からマチ針が出てきた、とか。結局、確認や代替品を使ってリスクを回避する改善努力を行なってきた。

 今後は、着実に障がい者雇用の雇用率が法制化されていく。労働力不足の時代に向かう中で、企業は「これが出来ないならウチは無理だ」ということではない。進んでいる企業は、しっかりと職務分析を行ない、障がい者雇用のノウハウを蓄積している。
 
また、支援学校が増えてきている。そして支援学校に入学する生徒も増えているので、すぐ定員オーバーになっている。
 
求人募集に対して人財が集まらないからと言って、外国人労働者に目を向けるのではなく、個人差はあるが仕事ができる障がい者もたくさんいるという事に着眼し、経営者は、こうした情報も持っておいた方が良いと思う。

 障がい者雇用を通しての労働環境づくりと楽しさについて、加藤社長が生き生きと話されたことが印象に残りました。

 「障がい者雇用」という、いわゆる経営的にはハンディキャップ(あまり適切な表現ではありませんが)を、全社一丸となってチャレンジへと変え、またノーマライゼーションという一歩進んだ社会貢献を実践しています。

 そして、仕事とは別の面で、知的障がい者スポーツに理解と支援を惜しまず、来る東京五輪のメダルを狙っているそうです。

 万人幸福の栞から「今日は最良の一日、今は無二の好機」、そうした意味では今はチャンスだ、と結ばれました。ありがとうございました。

 

2014.09.16:hirorin:[レポート]