朝日町エコミュージアム|大朝日岳山麓 朝日町見学地情報

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乞食がくれたかんざし

 昔、白倉村という所に吉三という貧しい百姓の夫婦がおったそうな。
 ある年の初冬、町に買い出しに行った吉三は、帰りが遅くなり、立木村を過ぎ、乞食穴(朝日川の吊り橋のたもとに、地元では、方言で「ほえど穴」という岩穴があった)の所に来た頃には、すっかり暗くなってしまった。
 しかも、みぞれまじりの吹雪となり、大荒れになって来た。仕方なく一休みして行こうと思い、乞食穴に入って行くと、穴の奥にはぼろをまとった薄汚い女乞食が一人、焚き火をして暖を取っていた。
 吉三は、「わしにも当たらしてくれや」と言って、火の側に寄っていった。「どうぞ遠慮なく、当たらっしゃれ」と言って、女は快く迎えてくれた。吉三は、あまりにもみすぼらしい女乞食が可哀想に思えて来て、町から買い出して来た背中の荷物の中から、妻への土産と思って買って来た饅頭の半分を、女乞食に与えてやった。
 「今日はひとつ善いことをした」と思いながら吉三は家に戻った。ところがその夜、不思議な夢を見た。夢の中で綺麗な着物を着たお姫様のような女が現れ、吉三に向かって何度も何度も頭を下げるのだった。ところがその女の顔は、先程乞食穴で見た女乞食に見えた。
 その翌朝、吉三はまた町に行く用事があって出掛けたが、昨夜の女乞食が心配になり、昨夜の乞食穴に立ち寄って見た。ところが、女乞食の姿はなく、焚き火の跡だけが残っていた。そして、その傍らに「大切な饅頭を恵んで下さり有難うございます。訳あって他に行かねばなりませんが、私のお礼の気持ちです。受け取って下さい。饅頭を下さった方へ」という書き置きがあり、一本の銀のかんざしが置いてあった。
 吉三は「これは有り難くいただこう。妻に上げたら喜ぶに違いない」と思い、かんざしを戴くことにした。ところが、このかんざしは見たこともない細工がしてある高価な物だと分かった。しかも、そのかんざしは、江戸でも有名な飾り師(かんざし職人)の作らしいという事が分かり「女乞食から貰ったかんざし」の噂話は近郷に広まって行った。
 そんなある日、山形の殿様の家来だという男たちが吉三の家を訪れ「殿様のたっての願いである。そのかんざしを譲ってほしい。金に糸目は付けないから」と言ってきた。
 吉三にとっては、勿論家の宝と思って来た銀のかんざしである。簡単に譲る気持ちは無かったが、殿様のたっての願いとあれば仕方ない。涙を呑んで譲ることに承知した。その代わり、小判をどっさり持ちきれない程戴き、あっという間に大金持ちになってしまった。
 吉三は、「これは神様からの恵みに違いない。困った人たちに分けて上げるべきだ」と思い、恵まれない人、困った人たちに施しを行った。そして多くの人から感謝され、貧しかった百姓の吉三もさらに裕福になり、後には村の庄屋を務めるまでになったという。
※阿部美喜男氏が祖母から聞いた話

『物言わぬ偉大なる教師 郷土学習辞典』編著 阿部美喜男 より抜粋


※乞食穴は、立木の白倉橋を渡った右側10m位の所にありました。道路拡張でなくなりました。