最上義光歴史館 - 山形県山形市

▼山形地方の山城の植生について

山形地方の山城の植生について


 県域は日本の植物区系上、日本海地区の中央部にあって、山地帯はブナ・ミズナラなどの落葉広葉樹を主とする冷温帯林が発達するところである。林床には裏日本型気候とくに多雪地に適応した比較的新しく分布したと考えられるマルバマンサク・タムシバ・タニウツギやオオバキスミレ・スミレサイシンなど、多くの日本海要素の植物が分布している。また多雪に圧伏し伏条性を身につけたヒメアオキ・チャボガヤ・エゾユズリハなどの常緑小低木の小群落も見られ、キバナイカリソウ・キクザキイチリンソウなどの日本海地区の植物と共存している。
 しかし内陸の中南部、特に山形市を中心とする山形地方の山地帯脚部は日本海要素の植物を伴う、クリ・コナラを主とする暖温帯系の落葉広葉樹林に覆われているが、局地的にはアベマキ・クヌギなどの暖帯落葉樹を混交する林分が見られる得意な地域である。アベマキは台湾・中国などの暖帯を自生の本拠地としている樹林であるが、その林分は市街地東方の丘陵地に、かなり広く分布しており、植栽起源と思われる大木が薬師公園や鈴川の印鑰神名宮などで見られる。また周辺の山地帯や山城の脚部にはコナラ林にクヌギの混交する残存林(木)が点在している。クヌギは本州の岩手・山形以南から沖縄、九州、中国大陸にかけて分布するが、その発生起源は中国雲南省の暖帯であるという。
 ちなみに、アベマキ・クヌギは褐色の枯葉を枝につけたまま越冬するので、他の木とは容易に識別できる。この現象は日本列島の温暖化に伴って、暖地系の樹木が寒地(山形地方が北限地)まで分布域を広げてすみついたが、その後の寒気に襲われたときに、離層を完全に形成する性質を身につけていなかったからだろうと説明されている。
 山形地方の山城は、山地帯脚部から標高200メートル前後の独立峠上にあって、山腹や頂上からの眺望は郡を抜く、天険の地に立地している。本丸(頂上)を中心に、曲輪が整然と階段状に造成されており、山腹を取り巻く自然の地形は急峻な断崖をなしている。また山麓は交通の要衝であって、深い峡谷や河川に挟まれ、人為的な空掘などが巡らされていたという。山城はまさに自然の要害を巧みに利用して構築されており、本丸には人知を尽くしても容易に踏み込めない構造である。
 現在、本丸跡などは公園や広場などに利用されており、曲輪の平坦部はスギ・クヌギ・クリ・カキなどの植栽地となっている。曲輪の法面や登攀路の周辺ではヤダケ・チャボガヤ・ケヤキなどの、山城特有の植生が残存しており、山麓の河辺にはケヤキ・オニグルミ・ミズキなどの二次林や植林されたスギ林が見られる。
 また広大な山腹はクヌギを伴うクリ・コナラの高木をはじめ、ケンポナシ・ネムノキ・ウワミズザクラ・アズキナシ・マルバマンサクなどの、萌芽力の強い落葉広葉樹林によって占められており、林床には角ハシバミ・ヤマウルシ・チャボガヤなどの低木や、それにシャガ・チゴユリ・オシダなどの草本からなる林分である。特に山城の水源地となりうる、やや湿り気の多い土地や沢筋、湧水地にはオニグルミ・ケヤキ・ミズキなどの高木林が見られ、林下にはシダ類が群生している。
 このように特筆すべき植生が見られる、山形地方の中南部、特に山形市は気候的には暖温帯(又は暖帯)に属する地域である。古くから政治・経済、教育・文化の集積地として発展しているが、さらなる枢要な役割を果たせる快適環境である。山形地方の山城は歴史的にも、また植物分布上からも市民共有の貴重な財産であって、その保全・保護には万全を期したいものである。

■執筆:吉野智雄(県文化財保護指導員・フロラ山形会長)「館だより10」より


2007.05.15:最上義光歴史館

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