最上義光歴史館 - 山形県山形市

▼館長日誌 令和8年5月30日付け

 最近、米国大統領が中国を訪問した際、米中二極体制(G2)により「西半球は米国のトランプ政権、東半球は中国の習近平政権」になると懸念されたり、一方では中露両国が連携して日本を牽制する動きがあるとされたり、日本のプレゼンスとやらは、なにやら危ういとのことですが、米・中・露に対峙できるだけの外交力とかまして軍事力とかなかなかに難しく、おまけに円の実質実効為替レートが最弱水準つまりは経済力も弱体化していて、一体どうしたらよいものかと。
 もっとも私ごときが天下国家を論じる立場にないことは十分承知してはおりますが、つらつら思うに、そう言えば戦国時代には、加持祈祷やら呪術とやらが盛んであったなと。もしかしたら、今の日本が頼れるのはこれくらいなのではと。たしか日本は神の国ではなかったかと。いざというときには神風も吹く、明日には明日の風が吹くということではなかったかと、あ、なんか違うかしらん。
 そこでまずは、戦国時代の呪術のお話でも。手元に最上義光研究の第一人者のひとりで中世宗教を専門とされる伊藤清郎山形大学名誉教授の「最上義光と宗教」(2002年)という論文がありまして、戦国時代の呪術についても言及されているので、これを引用しながら紹介いたします。
 論文では、戦国時代の呪術について「中世の合戦は呪術戦争といっても過言ではないことは、既に指摘されている。合戦の日時、合戦の開始時間、戦闘方法、方角、吉凶、野営や首実検における作法などほとんどが占いや呪術によって決められた。それを行うのが陣僧・軍師などであった。彼らは軍学・密教・修験・陰陽道・占星術・道教等に精通していなければならなかった。」とあります。
 また軍師については、「軍師の仕事は、吉日・悪日の取り決め、籤、気・雲気、夢占い、祈祷、観天望気、占星術、怪我や病気の治療、それに築城の際の助言(築城法)などであった。」とあり、「戦国大名と修験道との密接な関係は、今川氏・武田氏・上杉氏などの例からも、従来から指摘されていることである。」とあります。
 なにはともあれ有名なのは、武田信玄と上杉謙信との呪術合戦で、川中島の戦いでは、武田信玄と上杉謙信は互いに京都の高僧を招き、自陣の戦勝と相手を調伏する祈祷合戦を繰り広げたという記録が残っているそうです。そのようなときに使われる呪術が、密教の強力な調伏の法と言われる「転法輪法」で、主に戦場で敵を呪い、悪意や執着を打ち砕く目的で用いられました。密教寺院の高僧たちが、護摩木を焚きながら敵を調伏するための秘法を連日のように執り行ったといいますが、秘法ゆえ詳しくは明らかではありません。
 この武田信玄も上杉謙信も信仰していたのが「飯綱権現」で、信濃国の飯縄山に対する山岳信仰と仏教とが融合して生まれた神仏習合の神です。一般に白狐に乗り、剣と索(縄)を持った烏天狗の姿で表され、この飯綱権現が授けるという「飯綱法」は、狐や天狗を使役する強力な呪法と信じられていました。古くから修験道や戦勝の神として信仰を集め、術はのちに俗信と混ざり合い、忍者が用いる「忍術」の源流の一つになったとも言われています。飯綱権現の本地仏(本来の姿)は不動明王ですが、飯綱権現のマントラ(真言)は「オン・チラチラヤ・ソワカ」とのことです。
 ちなみに不動明王のマントラには、3種類の異なる長さのものがあり、小咒(しょうじゅ)の「ノウマク サンマンダ バザラダン カン」、中咒(ちゅうじゅ)の「ノウマク サンマンダ バサラダン センダンマカロシャダ ソハタヤ ウンタラタ カンマン」は本咒ともされ、大咒(だいじゅ)の「ノウマク サラバタタギャテイビャク サラバボッケイビャク サラバタタラタ センダマカロシャダ ケンギャキギャキ サラバビギナン ウンタラタ カンマン」となると、すべての魔を焼き払い降伏させるだけでなく、あらゆる願いを叶える、と言われているそうです。
 さて、伊藤清郎先生の論文に戻ると「義光は中世人でもあり、顕密仏教・神祇信仰など、本地垂迹の宗教大系の中に暮らしていたことも事実である。」とあり、「義光が生まれる際に、真言宗の僧侶が百日の軍荼利夜叉の秘法を行ったところ、百日目の暁に城中の山王権現社の上空に羽黒山神が現れ、生まれくる子を加護すると告げた。」とのことです。
 また、「最上家の軍師として知られるのは、山名一吽軒とその弟子といわれる堀喜吽の二人である。」とあり、山名一吽軒については「今般軍士 (師)随一と相聞ゆ」と「上杉御年譜」に記録があり、堀喜吽については、最上義光の御伽衆の一人として千石の知行を与えられていたそうです。一方、「戦国大名のそばには、他に、陣僧・遊女・傀儡子などの呪術者もいたようであるが、最上家についてはよくわからない。」とあります。


(→裏館長日誌に続く)

2026.05.30:最上義光歴史館

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