最上義光歴史館 - 山形県山形市

▼館長の写真日記 令和7年6月30日付け

 最上義光歴史館では山寺芭蕉記念館との共同企画で「妖怪博覧会」を開催します。期間は最上義光歴史館が7月2日〜10月13日、山寺芭蕉記念館は7月18日〜9月2日です。山寺芭蕉記念館では近年、毎年夏に「妖怪展」を開催し、実際入館者も企画展では一番多いのですが、今年は当館との共同で開催します。
 さても「博覧会」とは銘打ってはいますが、当館のような零細博物館で展示できるものは相当に限られるわけで、とりあえずは@鬼と武将、A妖怪の表現、B地獄めぐりの3テーマで展示します。論語には「君子怪力乱神を語らず」とありますが、別に君子でもないので、ざっと語ってみたいと思います。
 まず、「日本三大妖怪」をあげるならば「鬼・河童・天狗」であると妖怪研究家の多田克己さんが定義しています。これに狐と狸を加え「日本五大妖怪」とする説もあるそうです。これが「日本三大悪妖怪」となると、鬼の酒呑童子、九尾狐の玉藻前、天狗になった祟徳天皇、となるそうです。
 一方、学術的な資料としては、国際日本文化研究センターの「怪異・妖怪伝承データベース」があります。そこには民俗学や江戸時代の随筆類・各県史類に採録されている「怪異・妖怪」現象の書誌情報が集められています。そのデータはすべて文字資料であり、残念ながら絵画は扱っていません。
 妖怪などを記述している古文書には、「古事記」や「日本書紀」といった歴史書や「今昔物語集」などの説話にあり、中世になると絵巻や御伽草紙の登場により、妖怪たちの姿が描かれるようになりました。室町時代の「百鬼夜行絵巻」以降、時代の絵師により描かれていきます。
 さて、展示テーマに話を戻すと、まずは「鬼」ですが、数年前の鬼ブーム、妹が鬼となるあの話が流行ったときに、そもそも鬼とはなにか、とか、どこが発生の地か、とか様々な鬼特集がマスコミ・ネット等でとりあげられていました。あえて「鬼」をネットで調べると、いきなりオックスフォード大学出版局のOxford Languagesによる説明がでてきます。
・おに【鬼】
1.人の形をし、つの・きばがあり、裸体に虎の皮のふんどしを締めている怪物。怪力・勇猛・無慈悲で、恐ろしい。 2.鬼のような人。
・き〖鬼〗 キ・おに
1.見えないが、人間以上の力を持つおそろしい存在。人にわざわいをもたらすもの。おに。また、そのような人。「疑心暗鬼を生ず」 2.死んだ人のたましい。「鬼神・鬼籍・鬼哭(きこく)・幽鬼・餓鬼」
えっ、「おに」と「き」でこんな使い分けをするとは全く知らず、外国の辞書に教えられました。その他を調べると、鬼の語源は平安時代までさかのぼり、目に見えない存在を表す「隠(オヌ)」が元とのこと。これに中国から伝わった「鬼」という言葉が後からあてられたとのことですが、中国語の「鬼」は、死霊や幽霊、悪霊といった意味合いが強く、また、「鬼」は「神」の対義語であり、偉い人が死んだら神、普通の人や悪人が死んだら鬼になると考えられているそうです。
 日本の鬼で有名なのは、丹波国大江山の酒呑童子でして、日本の鬼の頭領とされます。それを源頼光たちが討伐しようと、「神変奇特酒」という毒酒を振る舞い、酔いつぶれたところを、源頼光の家臣である渡辺綱が首を落とすという物語があります。今回、当館では歌川国芳作「大江山福寿酒盛図」という錦絵を展示します。
 続いて「妖怪」の話ですが、再びOxford Languagesに頼ると、妖怪は「人知では不思議と考えられるような現象。特に、ばけもの。」とあります。「妖怪」という言葉の起源は4世紀に書かれた中国小説の祖と呼ばれる「捜神記」に遡ります。
 さらに遡ること紀元前4世紀の古代中国の書物に「山海経(せんがいきょう)」というものがあり、中国内外の地理、動物、植物、鉱物などの他、神話や伝説などによる鬼神、怪物、人間、動植物などのユニークなキャラが次々と登場します。今回の展示では、江戸時代のものとはなりますが、この「山海経」を展示します。
 妖怪は、江戸期に多くの種類が現れるようになり、実はそのことに松尾芭蕉が多分に関わっているようです。芭蕉は、轆轤首、のっぺらぼう、かまいたちなどの名付け親であるそうです。「奥のほそ道」には、九尾の狐伝説にかかわる「殺生石」や鬼の在住を知らせる「うやむやの関」などがでてきます。江戸期にみられる妖怪・怪異の広がりには、俳諧の流行とそのネットワークの存在が働いていると、昨年刊行された「妖怪を名づける 鬼魅の名は」という兵庫県立歴史博物館の香川雅信さんの著書にあります。
 そして「地獄」の話ですが、当館の展示では、河鍋暁斎の「暁斎画壇」の地獄の図や地元の寺院から借用した三幅対の地獄変相図などを展示します。地獄変相図とは、亡者が裁きの後、地獄で様々の苦しみを受ける光景を描いた図です。同じようなものに「六道絵」というものもあります。この六道とは、地獄、餓鬼、畜生、阿修羅、人間、天のことをいい、この輪廻転生を理解するためのものが六道絵です。一方、地獄変相図は、ただただ地獄の苦痛や恐怖を表したものです。
 地獄というと、現世でも「借金地獄」とか「介護地獄」とか、「通勤地獄」とか、かつては「受験地獄」とかいうのもありましたが、少子化の影響でしょうか、最近はあまり聞かれなくなりました。最近の職場では、鬼のような人は随分減ってはいますが、妖怪のような人はごくたまに見かけます。そして間違いなく地獄のような職場は増え続けている感じではあります。「氷河期」という地獄もしばらくの間、影響し続けるようです。

(→裏館長日誌へ続く)
2025.06.30:最上義光歴史館

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