最上義光歴史館 - 山形県山形市

▼館長裏日記 令和6年1月27日付け

■ラーメン消費が日本一の理由の話
 「おすすめの店はどこ」とか「山形ラーメンとはどんなもの」とかの前に、「山形の消費はなぜ多いの」ということについてですが、かつて山形では、自宅に親戚や客人がくると出前のラーメンでもてなすことが一般的でした。あくまでも感覚的なことですが、都会でのラーメンの出前というのは、仕事が忙しく外に行けず昼にとったり、夜食にとったりと仕事の合間にとるものかとは思いますが、山形ではラーメンはごちそうであり、それは、鮨や鰻の出前に相当するようなものであったわけです。
 そのような生活史的な背景があるのですが、現在は出前をしてくれる店も少なくなり、また出前で伸びたラーメンを食べることも当然好まれず、店に出かけて食べるようになっています。それではなぜ今も消費額が多いのか。あくまでも生活感覚的なことなのですが、それほど金もない中で家族で外食しようとすればラーメン屋であり、特に目新しい場所もない地方都市で話題となるのがラーメン屋であり、ローカル放送やフリーペーパーでとりあげられる情報がラーメン店であり、いずれにせよ、若干、恵まれない理由からラーメンに寄っていっている感じではあります。

■「そば」の聖地になれない話
 ラーメンだけじゃなく、そばもいけるのなら、そっちも聖地をめざしては、という話がでてくるかとは思いますが、総務省の統計区分では、「そば」は「うどん」と一緒になっていて、そうなると高松市が断トツで1位になります。かの地では1日3食以上うどんを食べ、喫茶店がわりにうどん屋に入り、また、熄シにはうどんタクシーという、タクシーを貸し切って運転手さんおススメのうどん屋さんのはしごまでできるわけで、さすがにラーメンではこうはいきません。ラーメンのはしごは、なかなかにキツイものです。
 山形ではかつて、そば屋でラーメンを出すのが普通で、単に「そばだけ」とか「ラーメンだけ」の店より、両方出せる店の方が格上的でしたが、これと同じく総務省の統計が「日本そば・中華そば」というくくりになっていれば、山形市は1位になっていたかと。とは言うものの世間様では既に、日本三大そば(わんこそば、戸隠そば、出雲そば)というものがあり、日本三大ラーメン(札幌ラーメン、博多ラーメン、喜多方ラーメン)というものも、やはり衆目の一致するところではないかとは思います。
 また、「聖地」を名乗ることについては、山形大学の副学長(企画・評価・総務・危機管理・内部統制担当)が主宰する「がっさん通信」の「〈折に触れて〉ラーメン消費額、山形市首位奪還」という記事で、至極まっとうなご意見が述べられており、ここにあるとおり山形はやはり「ラーメン天国」と称するべきでしょう。あとは「ラーメン天国、おそば天国」なんていう曲が出てくればいいのでは。つれてゆこうかこれから、ラーメン天国え〜♪、さすがにユーミンに、とは言わないので。
 ところで、世帯当たりの消費額日本一を「聖地」と言うのであれば、「すしの聖地」は金沢市、「焼肉の聖地」は高知市、「ハンバーガーの聖地」は熊本市となります。その金沢市は納得できますが、焼肉とハンバーガーは意外な感じです。そして「まんじゅうの聖地」は福島市、これも理解できるのですが、「ゼリーの聖地」が秋田市、これはどんな事情なのでしょう。ちなみに金沢市は「ケーキの聖地」、「チョコレートの聖地」、「アイスクリームの聖地」というデザート三冠の地でもあります。金沢市は能登半島震災の影響で観光客激減とのことですが、対策キャンペーンもあるそうで、復興支援に「デザート聖地めぐり」はいかがでしょうか。そうそう、お鮨も忘れずに。

■ソバリエの話
 かつて、そばの案内人である「ソバリエ」の実地研修に同行することがありました。その内容は、市内の代表的なそば屋さん10軒を5件ずつ2日間にわけて食べ歩くというもので、はしごして食べることでそれぞれの違いが明確にわかります。その量は基本的に1件あたり半人前ですが、結局1人前くらい食べてしまうので、1日で5人前近くのそばを食べることとなります。
 店では、そば粉の挽き方や水(天然水、井戸水、電解水の店もありました)の種類などを聞き、そば粉と小麦粉の割合やそばつゆの原材料なども聞いて試食します。まずはそばをそのままで一口すすり、次につゆだけをすすり、そしてつゆに入れて食べます。その後、薬味も入れて、そば湯もいただきます。
 ここで何件かの店主から聞いたのが、本当はつゆを辛く(濃く)したいのだが、どっぷりつけて食べるお客さんから苦情がくるので薄くしてある、ということ。どっぷりつけると、そばの香りがわからなくなってしまうので、本当は辛いつゆに少しだけつけて食べるとのことです。有名な小噺に、「そばは、ほんの一寸か二寸、つゆをつけてたぐり込むものだ。」と講釈していた江戸っ子が病気になり、見舞いに来た友人に「たった一度でいいから、そばに、つゆをたっぷりつけて食べたい。」と言った、というのがありますが、まあ、商売としてはどちらに合せるべきか難しいところでしょう。もっとも、店によっては、あらかじめ「そば」に「つゆ」がかけてある「ぶっかけそば」というものもあり、これはこれで美味しいのですが。

■ラーメン戦国時代の話
 東北のラーメンはまさしく戦国時代で、ラーメンの消費統計でも、東北の全ての県庁所在都市が10位以内に入っているという状況です。山形ラーメンに対しては、いつものように上杉家と伊達家が、いや、「米沢ラーメン」と「仙台ラーメン」が並び立ち、その両雄の手前には、天童の「鳥中華」と赤湯の「辛みそラーメン」がコンビニカップ麺にもなるほどその名を轟かせています。全国区では「家系」と「二郎系」が天下分け目の戦いを繰り広げ、その余波は東北各地にも広がり、山形では「油そば」や「つけ麺」もその頭角を現しつつあります。
 そんな戦国時代の中で、歴史好きであれば、ラーメンの「川中島の戦い」はどこだとか、「関ケ原の戦い」はどうだとかと例えてみたくなるのではないのでしょうか。例えば、山形市内の「川中島の戦い」とも言えそうなのが、どちらも「K」ちゃんラーメンという名の店同士で、幹線道路一本で隔てられている超人気店なのですが、そこで出されるラーメンは全く違い、好みがはっきり分かれます。これが「関ケ原の戦い」となると、まずは山形市内を東西の勢力にわけるようなことは難しく、まあ、「夏の陣」であれば、冷やしラーメンの天下とでもなるのでしょうか。しかしそこには、仙台発祥の「冷やし中華」ファンもいれば、最近は「冷やし担々麺」という強力メニューもあり、気は抜けません。
 一方、上杉家と伊達家、いや、「米沢ラーメン」と「仙台ラーメン」の新勢力としては、米沢の「地獄ラーメン」と仙台の「麻婆焼きそば」というのがあり、うーむ、これは山形でも冬にいける何かを、たとえば「納豆味噌ラーメン」あたりでしょうか。まあ、「納豆」というのは飛び道具のような気もしないではないのですが。

■健康管理の話
 「『山ラー』フェア」ですが、ちなみに「山ラー」というと、かつて、アムラー、シノラー、シャネラーという方々がいましたが、すみません、余計な話でした。そのフェアでのスタンプラリーの参加予定店は、ポータルサイト「#推しメンやまがた」に出ているのですが、あの「ラーメン・つけ麺・僕イケメン」の狩野英孝さんは、実は小麦アレルギーで、ラーメン店のロケでも「全部は食べてない」とのこと。すみません、余計な情報でした。
 ところで、麺類の摂取過多は健康にも影響して、香川県はかつて「うどん県」として売り出していましたが、うどんばかりを食べていたら県民の栄養バランスが悪くなり、特に糖尿病が問題とされました。また、讃岐うどんは粉の3%以上の量の塩を使うことが定められていて、塩分の影響も要注意です。今は野菜も食べてと呼びかけているようです。実は山形県も昨年10月、新たなキャッチフレーズとして「ラーメン県、そば王国」を打ち出したのですが、「うどん県」を他山の石として、などと言える立場にもないので、むにゃむにゃ。
 ただ、健康面からラーメンはどうかというと、少なくてもラーメン食を勧める医者など聞いたことがありません。通常、ラーメンは脂肪や塩分が多く、特に脳循環系の疾患がある方などは要注意です。一方、店によっては糖質制限ができるよう麵抜きのメニューもあり、麺なしのラーメンをラーメンと呼ぶべきか、むずかしいところではあります。もちろんラーメンは、料理としてはすばらしいもので、様々な調理法や具材を駆使した究極の料理として、中にはオマール海老専門のフレンチラーメン店まであるそうですが、健康面からすればやはり気になります。
 これが「そば」であれば、健康食として、また「そば湯」や「そば茶」にも効用があると言います。毎年の健康診断で、健康指導を受けるようにと通知がくる私としては、やはり「そば推し」です。そしてこれを同じ健康食の納豆と組み合わせて「納豆そば」とすれば、タプルパワーの健康食となるはずですが、なぜか「納豆そば推し」というのを聞いたことがありません。「納豆」と「そば」には、なんか見えない壁があるようです。ちなみに山形では、「うどん」は「納豆」とかなりの親和性があります。しかし、これを関西出身の人に言ったら「うどんは喉ごしで食べるもの、納豆と一緒に食うなんて考えられへん。」と一刀両断にされました。

■昼に混む店の話
 同じ店でも、昼と夜とでは、出来上がりが全く違うことがあります。昼にやたら混むラーメン屋は、夕方にはスープが薄味で水っぽくなっていたりします。逆に、お客さんが少ない店は、スープが煮詰まっていたりします。昼に混むそば屋では、昼はそばが伸びてしまったりしているのに、客の少ない夕方は、茹でたてのきりっとしたそばが出てきたりします。
 麵が伸びているかどうかとか、スープの状態がどうかとか、これはワインでいえば、保存状態(瓶の中身や酸化)はとか、提供される温度はとか、と同じようなことかとは思います。ソムリエが開栓してまず確認するのは、カビ臭くないかということです。こうした劣化を「ブショネ」と言いコルク栓の汚染が原因なのだそうです。ワインのホストテイスティングは、まずこれを確認するためのものですが、経験がないともともとそういう風味のワインと受け取られることが少なくないそうです。ソムリエは、コルク栓の具合と香りで見分けて、このようなワインは交換するそうです。これがラーメンであれば、やはり、こんなものかと食べてしまうこともあり、本当にヤバいものは、交換というよりまずは保健所に相談、ということになるとは思います。
 ちなみにブショネとされるワインは、「廃墟のよう」、「ダンボールが湿った匂い」、「雑巾のような」などという表現をすることもあるそうですが、雑巾のような匂いのする「ラーメン」は、やはり遠慮すべきかと。そう言えば過去に、雑巾の匂いがする「ご飯」を上野公園近くの某大学の食堂で出されたことがあります。腹こそ壊しはしませんでしたが、芸術を志す東京の学生さんは、なかなか大変だなぁ、と思いました。

2021.01.27:最上義光歴史館

HOME

yoshiaki

powered by samidare