米田ノート
▼第十話「墓を想う時代」
今年の夏は天候が不順で雨も多く、工事関係の外仕事は大変だったと想います。私たち石屋も、石(お墓)という重量物を、トラッククレーンや移動式の小型クレーンを使用して設置作業しますので、作業当日に雨が降ったりすると予定を変更して、出来るだけ晴天の日に作業をするように心掛けています。
それでも、お客様の命日や、法事の日程が決まっている場合は、雨が降っても作業しなければならない事も有り、雨中にぴかぴかに研磨してある墓石を吊り上げたりする場合は、かなり緊張する作業と成ります。
しかし、天気が良くて建墓作業に持って来い、の天候でも「友引や仏滅は縁起が悪いから作業をしないでほしい」と、施主やお寺様から指示されることが有ります。でも「友引」という言葉は陰陽道が起源のようですし、同様に「仏滅」は室町時代に中国から伝えられた「諸葛孔明六壬時課」という時刻の吉凶占いが始まりのようで、仏滅ではなく「物滅」だったとの事です。どちらにしてもお釈迦様は六曜の様な占いを禁じておられた様なので、天気の良い日は何よりの好日と思って、「友引・仏滅」に惑わされること無く作業をさせて頂ければ幸いです。
「この頃のお墓は・・」と石屋が言うのも変ですが、一昔前とは違い、かなり自由な発想でデザインされたお墓が、最近は増えてきました。「○○家之墓」と彫刻された縦長のお墓が主流だった頃とは違い、横長の「棹石」に「心」「絆」「愛」等と言う漢字一文字を彫り込むものや、「ありがとう」「また逢いましょう」「みんなに感謝しています」等のセンテンスを刻んだ物まで色々と有ります。
以前ある寺で「石屋さん、私の寺の墓石には、御題目だけを棹石に刻むように。」と言われた事が有りますが、それを言った御住職も今では、「何でもいいよ。」と少しあきらめ顔です。
私もお墓のデザインは自由でよいと考えています。昔ながらの縦型墓石でも、今風の横型墓石でも、それぞれの想いを、家族の思い出や祈りと共に、墓石に刻み込んで行けば良いのではないでしょうか。(しかし、我々石材店も良いお墓を造ろうと思うなら、石材個別の性格をもっと理解して、上手に使ってほしいと、新しい墓石を見ていて、時として感じてしまいます。)
また、一時期テレビで有名になった占い師が、実は裏で石材店と組んで高価な墓石を売りつけていると言う噂を聞いたことが有ります。テレビ番組で「お墓はこうでなくてはいけないとか、あれをしてはいけない」と人々に言い、人間の従順さを利用して、べらぼうに高い墓石を売りつけるという話です。
我々人間は思った以上に弱い生き物で、ちょっとした事でも「あっ」と思った事を指摘されると、闇雲に信じ切ってしまう事が有ります。
二十数年以上前、石材専門商社に勤めていた頃に私は、ある石材店の社長と、お墓を建てる施主さんの運転手として神戸市内の、我々墓石業者が言うところの『拝み屋さん』に逢いに行ったことが有ります。お墓を建てるのに際し、アドバイスをして頂くのと、どの様な墓石にすれば良いのかを訊きに行ったのです。昔の事ですので、はっきりとは覚えていませんが、色々とお話された後、建墓の日程の打ち合わせをして、我々はその場から辞したと思います。初めから終わりまで彼女の(拝み屋さんは女性でした)云うがままでした。施主も石屋も一言も反論しませんでしたし、終始「はい、はい。」と答えておしまいでした。後日、その石材店に営業に行ったとき、社長に「拝み屋さんに、あれで幾ら位払うのですか?」と尋ねたところ「まあ、それなりに。」との返事でした。
実際に施工したお墓の形式は、いわゆる『墓相墓(ぼそうばか)』と言われる物で、普通の人では出せない様な金額のお墓だったようです。
今の様に機械設備や工具の無かった時代、河原に落ちて居る玉石に戒名を刻み、簡単に加工が出来る凝灰岩のお墓が、時代と共に進化して立派な花崗岩(御影石)の墓石となり、立てる人の想いを自由に表すことの出来るモニュメントに進化してきました。ですから、お墓にはこうで無くては成らないという物は無いと、私は思います。(*墓地において、景観上や宗派による規制等がある場合も有りますので、実際に建墓される場合は、詳細を管理者に確認をしてください)
文末ですが、九月十二日「りらく」で行われた「お話会」に来て頂いた皆さんにお礼を申し上げます。短い時間ではありましたが、私が話したこと以上に、皆様から多くのお話を聞かせていただき本当に有り難うございました。そのことについては、次回にはお話させて頂きたいと思っています。
2009.09.15:yoneda
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