米田ノート
▼第十二話「環境を思う時代」
冬が近付いて来ました。「今年の冬も寒いのかな?」などと考えていると、何処からか「寒いから冬なの!」と聞こえてきそうです。
でも『東北の冬は長く厳しい』とは、ずいぶん昔のお話になった様に思います。私たち家族が宮城県に仲間入りをさせて頂いてから二十数年、厳しい冬の寒さを感じたのも初めの数年で、近年は、自宅前の道路の雪掻きをする回数も激減し、「まさに地球は温暖化しているのだ。」と思ってしまう、今日この頃です。
環境問題を云々しようと言うわけでは有りませんが、その実、我々石屋も自然破壊者の一人かなと思うと、後ろめたい気がします。
何故かと申し上げますと、現在日本で建てられている『お墓』のほとんどは『石』で造られています。石材は八割から九割(多分)が、原石や石製品として海外から輸入されます。その総数の六割前後が中国産の石材や、または中国で加工された世界各国の石材です。
原材料としての素材の原石は、中国の他にインド・南アフリカ・フィンランド・ポルトガル・フランス・アメリカ・ブラジル・・・世界中から、日本や中国に送られて来るのです。(そう言えば、以前は北朝鮮からの輸入石材も有りました。)
中国では、原石を採掘している現場(丁場)は限りなく横に広がり、良い原石が採れなくなったり、深く掘り過ぎたりした丁場は、掘りっ放しで放置されます。自然が破壊されたままの状態で・・・
インドでは、数世紀にわたる焼畑農耕で荒地になった山々が、雨季の激しいスコールで洗い流され、土が流れ去った後に露出した大きな岩石を割ることから石材の産出が始まり、現在に至っています。
日本でも数年前までは、盛んに石材の採掘が成されました。東日本では茨城県から宮城県にかけての阿武隈山系を中心に、西日本でも香川・岡山・広島・兵庫県などの瀬戸内海沿岸の各地から、多数の石種が産出されました。今も採掘されている丁場もあります。大阪城の、あの巨大な石垣の石が、オリーブで有名な小豆島から運ばれてきたのは良く知られている話です。
そう言えば、よく耳にする「御影石」と言う言葉は、実は学術的には花崗岩を代表とする火成岩の事を指します。その花崗岩を「御影石」と呼ぶのは、兵庫県神戸市の御影町で人肌色の花崗岩が採掘された事に由来します。これは石屋でも知らない人が居るので、墓石屋や霊園業者の営業に、「墓石は何故『御影石』なのですか?」などと質問してみるのも面白いかもしれません。
話を戻しますが、日本の場合は、いくら山を切り刻んでも、石材の採掘が出来なくなった丁場や、採算が合わず採掘をやめた現場は、掘り込んだ穴や、切り取った山肌を、土砂等で埋めて、出来るだけ元のような地形に戻し、その上に植樹をして山の自然を回復させるようにしなければなりません。しかしその分の経費が石材の金額に加算されることになるので、高価な石になってしまいます。それでも売れる高級石材は、今でも一部で採掘されていますが、日本のほとんどの丁場は、需要が無くなり閉鎖されてしまいました。
その、閉鎖された丁場の多くは、採掘途中で放棄された場所が多く、そのため山の保水作用が無くなり、これが原因で土砂崩れを起こす事に繋がって、大きな災害にならなくとも、その地域の環境問題になっている訳です。
私たち石屋はこう云った意味で、地球規模で小さな環境破壊をしているのかもしれません。
石は、木材の様な植物とは違い、育てることが出来ません。一度掘ってしまったらもう二度と同じ物は採掘出来ません。地球が生まれて今の状態になるうちに形成された、それこそ何億年もかかって出来上がった素材なのです。
世界的に石材は、あらゆるものに使用され、受け継がれています。お墓に限らず、石で出来た建築物は世界中に数多くあります。石は人類にとって、大切な文化の一つなのです
石屋は、そう言った事を考えながら『石』と言う素材を大切に考え、感謝しながら施工しなくてはならない、そう私は考えます。
ありがたい事に、今年も幾つかの墓石のご注文を頂きました。どのお墓も、建てさせて頂く場所(寺墓地・霊園)と、お客様の希望を踏まえ、私なりに考えて建立させて頂きました。
もうすぐ年の暮れ、年末には、ぜひお墓の掃除をして、心清らかに新しい年を迎えてください。
今年一年、誠にありがとうございました。
2009.11.15:yoneda
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