ぶっくぶくの部屋

ぶっくぶくの部屋
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この間テレビで、奈良・唐招提寺の平成大修理がようやく
終わって、落慶法要を行っている様子が報じられていた。
なんと、国宝「鑑真和上像」をみんなでおかつぎして
金堂に入る儀式を行ったんですナ。
ちょっとビックリしつつ、見たかったなあとも…。
とにもかくにも、天平の甍がまた未来へ新たな歴史を
刻んだワケで。
その天平の甍たる「鴟尾」(しび=屋根の両端についている
シッポのようなもの)に、今回銘を入れた方が、この本の
作者なんだって!

File No.96
『鑑真』東野治之(岩波新書 720円)
オススメ度★★☆☆☆

「鑑真」(がんじん)ってどんな人?
8世紀中ごろ(天平時代)に中国から日本にわたってきて、
仏教の基本たる戒律について教えを広めたエライお坊さんデス。
中国からの舟での渡来は何回も失敗し、その苦労がたたって失明して
しまうのだけれど、ついに日本上陸を果たす。
このことを描いた井上靖の『天平の甍』はあまりにも有名で、
映画にもなったほど。
で、この本は、渡来の経緯も書いているが、鑑真は日本に
何をもたらしたのか、ということにより力点を置いている。
それは、一言で言えば「戒律」。
戒律とは、誤解を恐れないで言えば、キリスト教の「洗礼」
みたいなもの。
仏門に入らんとする者は、やってはいけないことがたくさん
あって、それを教え授けることを「授戒」と言うらしい。
「戒律」の中にも、入門的な「菩薩戒」と、本格的な「具足戒」
があって、後者を授戒しないと、正式な僧とは認められない。
日本は、仏教国の中にあって、唯一「戒律」が浸透していない
国なんだそうだ。
そのひとつの現われが、お坊さんの妻帯。
要するに、鑑真の「戒律」の教えと言うのは、日本には根付かな
かったんだろう。
しかし、鑑真の教えは、その後の最澄による天台宗開祖につながり、
ひいては鎌倉仏教に脈々とつながって行ったというから、
その足跡は偉大なものである。

毎年6月上旬の数日間だけ、唐招提寺御影堂に鎮座している
国宝「鑑真和上像」が公開される。
オレもだいぶ以前に行ったことがある。
ちょっとはなれたところからの拝観だったが、確かにそこに和上
がいらっしゃった。そして、東山魁夷画伯の手になる襖絵の青の
鮮やかさに息を呑むような思いだった。
あの時の感動は今も忘れられない。
そして数年前、その「鑑真和上像」が仙台市立美術館にやってきた。
当然見に行って、ガラスケースの前に立ち尽くした。
間近で見ることが出来たが、なんかちょっと違う…。
そう、やっぱ、これは御影堂の中にあってこそ、より神々しいんだと。

机にある鑑真和上の肖像写真がオレに
「唐招提寺も修理終わったから、来年でもいらっしゃい」とやさしく
語りかけてくれているようだ。
ああ、また行ってみたいなあ〜。


少年時代に『ロビンソンクルーソー』や『十五少年漂流記』に
胸躍らせ、夢ふくらませた人も多いのでは。
かく言うオレもそのひとり。
あたかも、作中に自分がいるかのようなカンジ。
もっとも、ウルトラマンを見てもそう思っていたのだから
世話ない話ではあるが…。

File No.95
『江戸時代のロビンソン-七つの漂流譚-』
岩尾龍太郎(新潮文庫 476円)
オススメ度★★☆☆☆

日本には、漂流譚や海洋冒険物はあまりないのではないかと
思っていたのだが、この本を読んで、それはとんでもない
無知で、ロビンソンをしのぐような漂流の史実があったのだ!
ここでは、七つの漂流譚(史実)を、様々な史料を読み解き
ながら紹介している。
その内容たるや、凄まじいというか、悲惨というか、スゴイ
というか…、なんとも形容し難い。
著者は、漂流者の類型を、「ガリバー型」と「ロビンソン型」
にわけて論考している。
「ガリバー型」とは、漂流先の文化圏に溶け込みすぎて社会復帰や
帰着が困難になるタイプ。
一方、「ロビンソン型」とは、自分たちの文化的同一性を保持
しながら、母国に帰ろうとするタイプ。
ここでは後者を主に描いている。もちろん、そうでなければ史料にも
残らないわけだが、中には、前者のタイプも少し出てくる。
漂流先別に七つの漂流を紹介しているのだが、南の沖合いの
無人島(鳥島)漂着組は、島に渡ってくる大鳥(アホウドリ)を
食糧にしながら露命を繋ぐ。
こんなところは、『エンデュアランス号漂流』で、ペンギンを食って
命を繋いでいたことと似ている。
何せ食べ物がないのだから、食べれるものは何でもという生活に
鬼気迫るものがある。
その鳥の羽を縫い合わせて衣服としてまとっていたというから、
第一発見者はさぞかしビックリしたことだろう。
かたや、南洋の島々(バタンやミンダナオなど)に漂着した人々は
殆どが奴隷化したようだ。
奴隷となっても、アノ手・コノ手で帰国を企てて、それを実現した
のだから逞しい。
そういった史実の面白さもさることながら、この本は多くのことを
示唆している。
ひとつは、生きて祖国に帰ろうとする人間の強靭な意志力。
二つ目は、異文化コミュニケーション。
その当時の言語コミュニケーションは想像するだけでもたいへん
そうだ。
でも、漂流者の一人はこう書き残している。
「世の中は、唐も倭も同じ事、外国の浦々も、衣類と顔の様子は
替われども、かわらぬ物は心也」と。
つまり、言葉が通じなくても、気持ちは通じるのである。
そしてもうひとつは、異文化との接触や、無人島での極限状態
の中から、その当時の日本人の意識や習俗・習慣などが投影されて
見えること。
ほら、よくあるじゃん、外国から日本をみると、今まで見えなかった
ことや意識してなかったことが見えるって。
そんな感覚かなあ。
オレ的には三つ★級の内容だけど、書き下し文ながら史料引用が
多く、一般的にはちょいと読みずらいと感じるかも…。



昨年秋ごろからこの本が話題になりはじめ、
書評を読んですぐ買って読み出した。
が、少し読んで間を空けているうちに行方がわからなく
なってしまった。
どこかに忘れてきたのだろうか?
もう一度買うのもシャクだし…。
と思いつつ1年以上が経った先日、ふだんはあまり目の
行かない場所にこの本があった。
あ〜あ、整理整頓も下手だし、ものを探すのも下手。
しかもご幼少のみぎりからわすれものの王者ときては
打つ手なし…。

File No.94
『悩む力』姜 尚中(集英社新書 680円)
オススメ度★★★☆☆

何を今さら、とっくに読んだわ、という人も多いだろう。
それだけこの本は昨年から今年にかけて話題になった本である。
明治の文豪夏目漱石やドイツの社会学者マックス・ウェーバーの
著作や思想に焦点を当てながら、悩みながら生き抜く強さを
引き出してくれる好著である。
その中味は、「自我」「金」「知性」「青春」「信仰」「労働」
「愛」「死」「老」という9章にわたる。
「知性」の章では、ネットの急速な普及で、表層的で浅薄な知識
らしきものが蔓延し、「知ってるつもり」になってやしないか、
と警鐘を鳴らす。
誰しもが身に覚えのあることかもしれない。
「労働」の章では、何のために働くのかについて明解なアプローチ
をしている。
働くことの意義は、一人の人間が社会的な存在として他者に
認められること。それは、家庭での存在価値とはまた別のもの
であると言っている。
うむ〜、これももっともだなあ。
自殺の抑止になるのも、他者との関係性や社会でのまっとうな評価
であろう。
つまり、信じることのできる人や心の支えになる人の存在が大事であり、
そういう人たちとの信頼できる交流関係を作っていくために、自分の
中に「心の城」を勝手に作らないことだと言っている。
いろんなことに悩み続けてきた著者だからこその卓見でもある。
そう言やあ、オレ(たち)は、いろんなことに悩むことを意識的に
避けてきている気がするよなあ。
あたかも、時間のムダであるかのように…。
これじゃあ、真の自己肯定なんて出来るワケがない。
「いかに生きるべきか」の答えなんて簡単に出ようハズがない。
でも、「まじめに」「前向きに」悩み続けることによって、生き続けて
いく力が養われていく、という論には、多くの読者が勇気付けられた
ことだろう。
加速する文明は、ますます人間を取り残して孤独にさせてしまうが、
とにもかくにも、現実問題としてはそれに遅ればせながらもついて
いくしかないのだから。
こんなに褒めちぎって★3つってどういうこと?
それは「終章」がオレ的にはちょっと…。
「悩んで、悩みぬいて、突き抜けろ!」だって?
ここまで書いて、そんなのアリかよ!(と、オレが思っただけ)

この世に生を受けた限りは、いろいろな国々に旅して
知らない世界を体感したいものですナ。
「金と時間さえあれば…」という言い訳がいつもつきまとって
いるが、それはホントに言い訳に過ぎないのかも知れない。
心の底から沸き起こるような冒険心や探究心を失って
いなければ、なんとかかんとか折り合いをつけるハズ。
それが出来ないのは、やっぱ、人間としてのエネルギー不足
なのかなあ。

File No.93
『危ない世界一周旅行』宮部高明(彩図社 590円)
オススメ度★★★☆☆

この著者、何を思ってか、一流企業を辞めて世界一周の一人旅に出た。
「ふ〜ん」って軽く思うことなかれ。
いくら若いからと言っても、相当の覚悟とエネルギーの要ることである。
まあ、無鉄砲という見方もあるかもしれないが…。
そして、通算320日、24カ国を210万円の費用で旅した、
アブない旅行記である。
210万円の中には盗難にあった70万円も含まれる。
そう、著者は旅行中に2度も盗難(強盗)に遭う。
いずれも人に囲まれ、ボコボコにされてお金を強奪されてしまう。
そのうちの1回は、パスポートやクレジットカードなどの貴重品も
奪われてしまうのだ。
それでも日本に帰らず旅を続けるのだから見上げた根性だ。
世界の中でも、とくに南米とアフリカの治安が非常に悪いことが
わかる。南アフリカのヨハネスブルグなんてもう、とてもじゃないが
話にならない。
あれ、たしかサッカーのワールドカップ、南アでやるんじゃあ
なかったっけ?
大丈夫かいな?
強盗ばかりでなく、危険な目に何回も遭っていながら、なおも知らない
街を歩く好奇心はたいしたもんだけど、読みながら「アブなそうなら、
いくなよっ!」ってついイラついてしまう。
適度の恐怖心は、男の命を守る安全装置だということを知らんのか!
まあ、途中で命を落としても不思議でないことが多々起こっている。
しかし、旅は後半のアジアに入って、著者は大いに癒されるのである。
とくにミャンマーやラオスの人たちの親切心は、これまた逆の意味で
信じられないほどだ。
そう言えば、弊社の某役員さんが、ミャンマーでスゴく親切にされた
同じような体験を話されたことがある。
そういうところだったら、ぜひ行ってみたいなあ。
ところで、こんな危険な目に遭いながらも、なぜ世界を旅するのかに
ついて著者は、アブないことばかり書いたが、それに倍するような
喜びや驚き、発見があり、多くの人々の親切な人情に触れ、旅が
より楽しくなった、というようなことを言っている。
まあ、国情や政情、国民性などを把握し、危険を未然に避ける知恵が
あれば、一人旅ほど楽しいものはない、ということか。同感、同感。

それと、この本11月中旬ころ買ったのに、発行日が21年12月18日
になっている?? 
まあいいけど、ヒヤヒヤ、ドキドキの内容は、そこそこ話題になり
売れるような気がする…。

この日本で、いま最も注目を集めている男と
言えば、やっぱり鳩山サンだろう。
永らく政権与党の座にあった自民党を野に追いやり、
自ら総理・総裁として権力の頂点に立った男。
それがなんと、祖父に続いて同族二人目の総理。
その上、曽祖父から四代続く政治家の家系で
あることも、世間にはすでに良く知られている。

File No.92
『鳩山家四代』梶原英之(祥伝社新書 780円)
オススメ度★★☆☆☆

この間、鳩山由紀夫の宇宙人語録なるものを読んで、
その内容の浅薄さや、構成のオソマツさに少しガッカリ
させられていたのだが、少しマトモなこの本で
溜飲を下げた。
言ってみれば、「口なおし」みたいなもんかナ。
ほら、よくあるじゃん、マズイものを食ったら、その後に
ウマイものを食って口なおしするって。
まあ、そんな感覚に近いかなあ。
この本は、鳩山由紀夫の曽祖父・和夫、祖父・一郎、父・威一郎、
そして由紀夫と続く、鳩山家四代の歴史を、その時々の
政治社会情勢とあわせながらひもといていったもので、
新聞記者(著者の元職)らしい客観性の高い内容になっている。
ノンフィクション作家佐野眞一のような好悪の感情をも込めて
対象を丸裸にし、その人生に匕首をつきつけるような迫力は
残念ながら、あまりない。
ウソもハッタリもないが、ワクから逸脱するような面白味も
余りない、と言ったところか。
でも、その事実だけでも充分面白いかもしれない。
まず、鳩山家四代の男たちは全員東大卒の秀才ときてる。
青少年時の反抗期もとくになく、家庭不和などまったく影も
形もない。
それはひとえに妻(母)たちが賢かったからのようだ。
一郎の妻にして威一郎の母・薫子は、元祖教育ママと言われて
いるぐらいだ。
その薫子にして、姑の春子から教育方針を受け継ぎ、その上、
女子教育機関である共立学園の経営まで引き継いだというから
並みの家系ではない。
巻末には、春子の「我が子の教育」という自叙伝の一部が
長々と収録されているが、「すごいなあ」と思う反面、
「うわあ、もういいや」と辟易して、読み飛ばしてしまった。
何事も先入観を持たずにと心がけてはいるのだが、こういう
キチッとしたオバさんのキチッとした教育論はちょっと苦手。
オレ自身が全然キチッとしてないからと、そういうものに
自然に反抗したくなるそんぴんなところがあるからかも知れない。
もうひとつ、よく鳩山総理が自身の政治信条を「友愛」という
言葉で表しているが、これは昨日今日考えたことではなく、
鳩山家に代々伝わってきたDNAのようなものであることも、
この本を読んでよくわかった。
この「友愛」精神で、わが国をより幸せな方向へと導いて
くれることを、ただただ期待するばかりである…。


「天地人」が最終回を迎えた。
なんだかんだと評価はいろいろあったものの、
TVドラマとしてはまずまずだったのでは。
(地元としては無難なコメント!?)
最終回はとくに良かったねえ。
で、ドラマの中で不敵な役柄となった伊達政宗だが、
今秋、地元作家鈴木由紀子さんが書き下ろし新刊を上梓。
だいぶ以前にご本人からメールいただき、すぐ購入したのだが、
ようやっと今読み終えた。
「おおっ!」ってカンジ。

File No.91
『黄金のロザリオ』鈴木由紀子(幻冬舎 1500円)
オススメ度★★★☆☆

この本の副題は「伊達政宗の見果てぬ夢」。
伊達政宗と言うと、以前に大ヒットした大河ドラマ「独眼流政宗」の
原作となった山岡荘八の『伊達政宗』が超有名。
オレもむさぼるように読んだ記憶がある。
今回の鈴木さんの本も、女性や脇役、世事などを織り込んだ焼き直しか
と思いきや、後半から終章にかけて「おおっ!」と思わず感嘆する
ような展開が待っている。
それをここで書いてしまってはネタばらしになってしまうので、
さわりだけひとつ。
政宗は確か実母に毒を盛られて殺されそうになったり、血を分けた
弟を誅殺したことになっているけど、実は…?
さすが鈴木さん、あくなき史料の渉猟によって、新たな史観を目の前に
見せてくれた。
史料を読み解く目もさることながら、人間に対する深い洞察がなければ、
書けない内容でもある。
そう言えば、伊達騒動をモチーフにした『樅の木は残った』を書いた
山本周五郎にも深い洞察力と独特の人間観があった。
それが読者を惹きつけて止まないのである。
それにしてもこの伊達政宗という男、まさに波乱万丈の人生をおくった
んだなあって改めて思う。
隻眼になって実母から疎まれ?、実父を見殺しにし、弟を誅殺し?、
秀吉や家康とギリギリの駆け引きをしながら、南蛮との交易で新たな
活路(天下とり)を見出そうとし、果ては、愛娘の婿忠輝(家康の息子)
を失脚させてしまうハメになる。
そして有名な「馬上少年過…」の漢詩に見られる潔い諦観と、広遠なる
人間感情。
きっと気宇壮大な男だったんだろう。
よく言われるように、もう少し早く生まれてきたら、もしかすると
天下をとった男だったかもしれない。
「天地人」が終わって、少し寂しげになった夜にでもぜひ一読を
おすすめしたい。
カバーデザインがオレ的にはいただけなかったので三つ★にしたが、
中身は四つ★級だよ〜ん。



オレが学生のころ、インベーダーゲームがものすごく
流行ってて…。
友人何人かとアパートで安酒を痛飲して気炎上げて、
「じゃあ、インベーダーやり行くか」とふらり外に出て
まだ地理カンのない街をフラフラ歩ってたら、
「スナック喫茶」なる看板が目にとまり、怖いもの
知らずで中へ。
するとそこはちょっと場末っぽいスナックで、
ちょいハデな顔立ちの中年ママさんと、怖そうなマスターが
オレたちをジロリ。
「あ、あの〜、インベーダーゲームやらしてもらっていいですかあ」
「どうぞ、どうぞ」
その1時間後には、ゲームそっちのけで角瓶空けて大盛り上がり。
で、会計は1人1000円。
それが忘れられない出会いになろうとは…。

File No.90
『冬の蛍』秋元千恵子歌集(ながらみ書房 2300円)
オススメ度★★☆☆☆

この怪しげなスナックのママさんが秋元千恵子、つまり歌人なの
だった。そして怖そうなマスターは出版社を主宰している編集マン。
もっとも、ずいぶん後になって知ったのだが…。
学生時代は随分世話になった。
いつ行っても、いくら飲んでも、会計は1000円。
足りない分は、他のお客さんから納得ずくでとっていたのだろう。
常連客にもかなりオゴってもらった。
写譜屋さん、大蔵省の役人サン、映画パンフ会社の営業マン、
工務店のオヤジ、公設市場の商店主たち、大蔵映画の社員兼俳優等々、
今思うと、まるで「つむじ風食堂」みたい。
もう今は店もないし、ママやマスターに会うこともないが、風の噂に
ママが第四歌集を出したことを聞いたので、さっそく取り寄せてみた。
ん〜、さすが上田三四二(アララギ派の大歌人)の弟子だけあるなあ。
感情とか情念とかが、短い言葉の中にしっかりとトランスされている。
たまに短歌とか俳句とかを読むと、その濃縮された世界に圧倒されて
しまう。
とくにこの第四歌集は「環境詠」と言って、環境を題材にした作品が
多い。上梓されたのが今から7年前だから、環境ホルモンとかが話題
になり、みんなの環境に対する意識も高まっていた頃ではないだろうか。
しかし、個人的な好みを言うと、社会的な題材はあまりオレは得手では
ないのよ。
だから、この歌集の中でも、「花散華」や「散華なるべし」がどちら
かと言えば好みだ。
 地に触るる刹那を惜しむ花ごころひるがえりたり風の間にまに
 身ごもれる女うるわし花の下わが欠落の落花燦燦
そう言えば、ママも子供のいない人だったなあ。
 折々のさびしき夢に通過する列車の窓にあなたをさがす
マスターは独身時代、毎週のように東京から電車で山梨に通って
ママに求愛したとか。その情愛にママも応えたんだからすごい。
もうマスターは亡くなったんだろうか?

オレがもう少しマトモな学生だったら、秋元師に短歌を習っていた
のになあ。もっとも才能ないからダメだったろうけど。
いずれにしても今は昔、時すでにおそし…。
それより、あの頃世話になったオトナたちへの「恩」を、オレは
今の若者たちにどれだけ返してるんだろう。
まだまだほんとうのオトナになりきってないよなあ、ふう〜。






先日何気にテレビを観ていたら、八嶋智人主演映画の
宣伝をやっていた。
と、ロケ地の映像が出たら目が釘付けに!
なんと、函館ではないか。
それもあの十字街。
実は、今年の初夏に、弾丸トラベラーのような超強行
スケジュールで函館に行ったんだ。
目的は、十字街の「来々軒」の塩ラーメンと「五島軒」の
オニオンスープ、そして「函太郎」の寿司。
食べ物ばっかで函館まで何万円もかけて、しかも現地0泊で
行くか、ふつう。

File No.89
『つむじ風食堂の夜』吉田篤弘(ちくま文庫 580円)
オススメ度★★☆☆☆

その映画の原作がこの本。
主人公の雨降りを研究している「先生」をはじめ、個性的な
面々が十字路にある「つむじ風食堂」に夜な夜な集い、
平凡だけど、妙になつかしいセピア色の情景のような
物語をたんたんと紡ぐ。
大人になっても捨てきれぬ少年の頃の父への想いと、それに
ふんぎりをつけて未来へ歩もうとする淡々とした意思のようにも
思える。
映画のメイキングフィルムを少しばかり見てしまったせいで、
函館の夜の十字街の情景と、八嶋のキャラが常にイメージから
拭えなかった。
でも、この小説の雰囲気にはピッタリ合っているような気がする。
映画もぜひ観てみたいもんだ。
もうひとつ去来したのは、宮沢賢治の世界とどこか共通したような
雰囲気をもっていること。
宮沢賢治を最後に読んだのは、もう何十年も前のことになるので、
細部は忘れてしまったが、物語が醸す雰囲気は確かに似てる。
なんとこの本は、隠れたロングセラーになっているらしい。
1〜2時間でも読めるので、飲み会のない夜のひと時には
もってこいかもよ。

(後日追記)
そう言えば、この映画の「つむじ風食堂」は、たぶん、「来々軒」
ではないだろうか。
初夏に函館行った時初めて入ったんだけど、何とも言えんレトロ。
一瞬、昭和30〜40年代ぐらいのスナック?ってカンジ。
これで絶品の塩ラーメンが出てくるんだから、またぜひ行かねば
なるまいなあ。
自分勝手なことを言うと、これで客が少なければ言うことなし
なんだがなあ。

少しご無沙汰してしまって…。
公私ともに昼夜いろいろあって、バタバタしてるうちに
秋が終わっちゃった…ってカンジ?
そう言えば、先週のツール・ド・ラフランス、良かったあ!
たかが30kmとタカをくくってたら、いきなり登坂の連続で
心臓破裂するかと思ったョォ。
でも、シーズンラストランにふさわしい爽快な一日だった。
で、昨日は都内某所で上杉家ご当主邦憲様のご講演を拝聴
する機会に恵まれた。
これまた良かった!
さすが上杉宗家直系の方のお話だけあって、すごくリアルに
迫ってくる。
さらに、先ごろ読んだ本の中味と重なって、近年久々に
時間が短く感じられた講演会だった。
まあ、その後の飲み会は延々と続いたのだが…。

File No.88
『戊辰雪冤』-米沢藩士・宮島誠一郎の「明治」-
友田昌宏(講談社新書 760円)
オススメ度★★☆☆☆

「雪冤」って「せつえん」と読む。
つまり、戊辰戦争の御辱を雪(すす)ぐという意味の題名。
江戸から明治に代わるとき、わが国では、旧幕府軍と新政府軍との
間で戊辰戦争と言う内乱が繰り広げられた。
その時、旧幕府側として奥羽越列藩同盟が組織され、薩長を中心
とする新政府軍に抗戦した。
その奥羽越列藩同盟の中心的存在のひとつが、わが米沢藩なので
あるが、早々と離脱し、降伏してしまうのである。
当然のことながら、米沢藩は同盟他藩から非難され、新政府からも
冷遇されることとなる。
これを御辱(はずかしいこと・くやしいこと)として、藩士宮島
誠一郎は周旋探索方として、上杉の復権に身命を賭すという内容の
本である。
周旋探索方というのは、他藩の情報収集や政情把握、下折衝、裏工作
などをもっぱらにする、いわば裏方中の裏方。
実はオレも、この本を読むまでは、宮島誠一郎の人となりやその
功績をあまりよく知らなかった。
ところが、読んでみて、この宮島誠一郎は、幕末から明治初期に
かけての上杉家・米沢藩を陰から必死で支え続けてきた一人であった
ことがよくわかった。
でも、その言動が、同僚藩士から余り快く思われていなかったことが
少しばかり悲しい気もするのだが…。
圧巻は、米沢藩重臣だった千坂高雅の政府出仕や、上杉齊憲公の位階
昇進にかける鬼気迫る猛活動ぶり。
このふたつが、誠一郎にとっての「戊辰雪冤」の象徴であり、それを
見事に成し遂げるのである。まさに男子の本懐!
この本を読んだ直後だった昨晩の集まりに、千坂高雅と宮島誠一郎の
子孫の方が出席されると言うので、オレはもうドキドキ、ワクワク
していた。
千坂サンは出席されていたが、あまりにも取り巻きの方々が多すぎて
近寄れない。近寄ったとしても、何て話せばいいのかわからん。
宮島サンはついに来られなかった。
お越しになったとしても、近寄れなかったろうし、挨拶できたとしても
その後の言葉がつむげない。
ちょっと情けなかったが、直系の子孫の方々と会うということは、
多分、リアルな歴史に会うということと限りなく近いのではない
だろうか…、少なくともオレ的にはそうだ。
言葉や文字や写真じゃなく、実際に血を引く存在がそこにいらっしゃる
のだから。
そう考えると、戊辰戦争と言っても、そんなに大昔のことではない
ようなあ。だって、オレのひいじいちゃん・ばあちゃん、もしくは
ひいひいじいちゃん・ばあちゃんの頃だもの。

それにしても、この著者は、米沢とは縁もゆかりもない(たぶん)のに、
宮島誠一郎を研究テーマに選ぶなんて、これもまた奇特だよなあ。
一度講演でも聴いてみたいものだ。

大河ドラマ「天地人」もいよいよ最終盤。
妻夫木クンの兼続役も板に付いてきたかんじ。
セリフも一発で覚え、NGがほとんどないらしいから、
俳優としての才能があるのかもしれない。
でも、きわめて不謹慎ながら、オレの心はすでに
「坂の上の雲」に傾きかけている…。

File No.87
『文芸春秋12月臨時増刊号』-『坂の上の雲』と司馬遼太郎-
(文芸春秋 1000円)
オススメ度★★☆☆☆

今まで読んだすべての本の中でベスト5をあげろ、と言われたら、
間違いなく『坂の上の雲』はランクインする。
司馬遼太郎が40歳代の殆どをこの本の調査と創作に費やしたという
だけあって、坂の上にぽっかりと浮かぶ雲のようになろうという
青雲の志をもって、明治の国家を象徴するような人生を駆け抜けた
3人の群像は、オレの胸をかつてないほど熱くさせた。
しかも、これは小説でありながら、ほとんどノンフィクションでもある。
それが今年末から3年かけてドラマになるというのだから、
今からワクワク、ドキドキしている。
この臨時増刊号は、放送に先立って出されたもので、各界著名人の
『坂の上の雲』に関するエッセイ寄稿や、歴史家の対談、登場人物の
末裔たちの随筆などで構成されている。
その中で真っ先に読んだのは、司馬遼太郎の講演録2編。
「薩摩人の日露戦争」と「『坂の上の雲』秘話」。
日露戦争でロシアのバルチック艦隊を撃破した秋山真之の戦法は、
外国仕込ではなく、実は瀬戸内海の水軍兵法書がヒントになった
などという話は、オレ的にはスゴく興味深い。
陸軍では、乃木希典率いる第三軍の屍累々たる苦戦の惨状に胸が痛み、
窮地を救った児玉源太郎の男気にも感動を覚える。
もし、秋山真之が正岡子規とともに文学の道に進んでいたら、
今ごろ日本はロシアの属国になっていたかもしれない、というくだりは、
ちょっとゾッとする。
それだけ天才的な戦術家だったのだろう。
もうひとつ。
少し前に書いた記憶のある広瀬武夫。
旅順口閉塞作戦で激烈な戦死を遂げた軍神。
その広瀬がロシア駐在中に想いを寄せられたアリアズナの写真が
本邦初公開で掲載されている。
さらにおどろくべきことは、広瀬の遺体を甲板に引き上げた写真も
載っていること。広瀬は、五体バラバラになって死んだのではなく、
敵のロシア軍に引き上げられ、尊厳をもって葬られたのである。
その頃は、日本人も武士道精神が色濃く残っていたが、ロシアの
方も騎士道精神が浸透していたのだろう。

これを読んでいる最中に、何気にテレビをつけていたのだが、
ナント偶然にも、ありし日の司馬遼太郎がNHK教育テレビに
映った!
司馬遼太郎の作品や講演録はいくつも読んできたが、テレビとは言え、
その動く顔と声を聞いたのは初めてだったので、しばし没頭して
見入ってしまった。
画面の中で司馬は、「日本人は日露戦争後、不思議の森に入って
しまった」と話し、国家・国民を不幸のどん底に落とした太平洋戦争
をきわめて痛烈に非難し、作家として出来ることを搾り出すように
語っていた。
そう、『坂の上の雲』も、決して日露戦争がどうしたというだけの
本ではないのだ!
ちなみに、『坂の上の雲』には、わが郷土の偉人山下源太郎も出て
くるんだよ。それもさらっとではなく、そこそこに2回ほど…。

でも、この本は長編で読むのタイヘン。オレは7、8年前に読んだが、
年末年始の休み1週間をまるまる費やした。
どこにも一歩も出かけずに、テレビも見ないで、電話も出ず…。
まあ、司馬が創作に費やした10年にくらべれば、何と言うことも
ないけどね…。

こんなにベタ褒めして★2つはなんでか?
それは、何百もの評論・随筆よりも、作品そのものがすべてだから。
もちろん『坂の上の雲』そのものは5つ★!

先日、政治評論家の有馬晴海サンの講演を聞く機会があった。
その中で紹介されたのが有馬サンが解説を書いているこの本。
有馬サンの話もまあまあ面白かったので、この本もオモロイ
かなあって思ったんだけど…???
まあ、オレ基本的に政治に関心はあるけど、興味はないから
なあ。
「関心」と「興味」ってどう違う?

File No.86
『鳩山由紀夫の宇宙人語録』鳩山由紀夫研究会(双葉社 700円)
オススメ度★☆☆☆☆

うむ〜、ぶっくぶく開設以来の危機か?
評するに評せないってカンジ。
どうしても、政権奪取した民主党ブームや、「時の人」鳩山由紀夫
にあやかって、急仕立てで作った本としか思えない。
一時期、そのブッとんだ言動で、「宇宙人」のあだ名を付けられた
鳩山サンの問題発言とその簡単な解説という内容なんだが、
オレに言わせると、そんなに奇想天外でもないし、まあ常識の
範囲内、もっと言えば、政治家としてはごく平凡かなあ〜。
何かひとつでも笑えるものはって期待しながら結局最後まで
読んでしまったけど、なにひとつ笑ったり驚いたりするものは
なかった。
ちょっとガッカリ、そして時間とお金を損した気分。
でも、人はそれぞれだから、面白いって感じる人もいるんだろう
なあ。
まあ、オレの感覚には合わなかったということにしておこう。
じゃあ、だれの言動が面白いかって言えば、ジャンルを問わなければ
何と言っても長嶋茂雄サンの右に出る者はいないでしょう。
この人、話の筋道なんてハナから眼中にないかのよう。
野球センス同様に、その言動も天性の動物的カンなのだ。
こういう人間こそ天才!
でも病気されてしまってねえ〜。
懸命のリハビリで復帰されてきたとは言え、もう往事の面影は
影をひそめてしまった…。残念無念。
ん?長嶋サンの話だっけ?


本の広告見てると、「○○の人必読!」とか、「現代人の必読書!」
とか多いねえ。まさに「必読」の大氾濫。
そんなに必読、必読と言われても読めねえよお。
だいいち、ホントに必読なのかい?

File No.85
『アダム・スミス』-『道徳感情論』と『国富論』の世界-
堂目卓生(中公新書 880円)
オススメ度★★★★☆

もしかして、この本、経済分野で今年のオススメNo.1かも。
まあ、もっとも出版されたのは昨年3月のことだが…。
それもそのはず、各書評で激賞されるわ、サントリー学芸賞は
受賞するわで、一躍ベストセラーになった。
読むのが遅すぎたぐらいだ。
ちなみに、サントリー学芸賞を受賞した本に、あまりハズレはない、
と個人的には思っている。
ところで、アダム・スミスって?
18世紀のイギリスの人で、その著書『国富論』はつとに有名で、
近代経済学の父とも呼ばれている偉い人だ。
この本は、アダム・スミスが遺した『道徳感情論』と『国富論』を
読み解きながら、社会の秩序と繁栄とはどうあるべきか、という
ことを論じている。
一見ムズカシそうだが、文章も平明で、中味もわかりやすい。
余り良く知らなかったオレは、アダム・スミスとは「見えざる手」
に象徴される市場主義経済の主唱者だと単純に思っていた。
しかし、さにあらず。
「市場は本来、互恵の場であって、競争の場ではない」
「重商主義政策は、貨幣を富と錯覚することの上に築かれた政策
であり、…弱い人の経済政策である」
などなど、引用すればきりがないほど、すごく人間的な、熱い心を
もった言葉に溢れている。
不朽の名著たるゆえんであろう。
さらに、スミスは、経済発展の順序は、農業→製造業→外国貿易と
し、拙速な社会改革は民衆の反発を買うだけで成功しない、とも
喝破している。
現代にも通じる一般原理だ。
最もオレを感動させたくだりは、
「経済成長の真の目的は、最低水準の富すら持たない人々や世間から
無視される人々に仕事と所得を得させ、心の平静、すなわち幸せを
得させること」というもの。
この論の流れの終章は圧巻。
「人間が真の幸福を得るためには、それほど多くのものを必要と
しない、…たとえ人生の中で何か大きな不運に見舞われたとしても、
私たちには、やがて心の平静を取り戻し、再び普通に生活していく
だけの強さが与えられている」
これ以上のエールがあるだろうか。
こういう本を「必読書」と言うのではないだろうか。
オレも『国富論』そのものを読んでみたいもんだ。
ん〜、でもいつになるのやら…。

余談ながら…
先週、生まれて始めて中国に行った。
広東省のある都市で、急速に近代化する製造業や社会インフラの
現場を見てきて、改めてチャイニーズ・パワーを実感した。
その都市の行政トップの方の愛読書がなんと『国富論』。
往復の移動で読んだこの本と、行政トップの情熱と、沸騰する
中国の社会経済と、そしてその歪を考え合わせると、
何だかいろんな想念が浮かんできて、疲れているのに一睡も
出来なかった。
ううっ、ね、ねむい、でもねたら多分忘れてしまう、嗚呼。

食欲の秋だなあ〜。
秋は美味しいものがたくさんある。
でも、ひところより格段に食えなくなった自分に一抹の
寂しさが…。
「うそばっか!」とお思いの人に見せてやりたや、
あのころの超・大食漢ぶりを。
まあ、でもわかるよね、今のオレの体型を見れば。

File No.84
『日本一の手みやげ』一個人特別編集(KKベストセラーズ 500円)
オススメ度★☆☆☆☆

よく揃いも揃ったもんだ、日本列島津々浦々の美味。
ページをめくるたび生唾ゴックン。
深夜見るもんじゃないね、この本。
思わずネズミのように冷蔵庫をあさっちまう。
この本の一番の企画は、料理研究家やフードコーディネーターの
オバハン(失礼!)たちが選ぶ、各部門の手土産第1位。
オレ、実は30歳前後まで甘いもの全然ダメで。
ムリしてケーキや饅頭なんか食うと、たちまち胃液があがってきて
かなり閉口したもんだ。
でも、歳を重ねる毎に、甘いものも大丈夫になってきた、という
より、一部の甘味物は好きになってきた。
で、この企画のトップに挙がっている菊屋の「水ようかん」、
た、たまんねえ。決して羊羹が好きなわけじゃあないけど、
この「水ようかん」はジュルジュル食ってみたあ〜い。
それとオレ、ゴハンにかけて食べるもの、例えば佃煮とか海苔とか
明太子とか塩辛とか玉子とかふりかけとかお茶漬けとか梅干とか…、
大好物なんで、こんなん写真見ると、「ああっ、メシ食いてえ!」
ってたまらなくなる。
ん、まてよ。
この本には何十種類もの日本の美味しいものが載ってるけど、
食べたことあんの3種類だけじゃん!
しかも、そのうちのひとつは地元の米沢牛。
あ〜あ、しょせんオレはB級、いやC級の食生活者。
質より量。
男子たるもの衣食住を語るべからず。
食べれるだけ幸せ。
だからこの本、★ひとつっ!




太宰を読むなんて何年ぶりだろう。
おそらく学生時代以来のことだから、30年ぐらいご無沙汰
していたんじゃあないかと思う。
太宰って、何か若い時代に読むものというへんな意識があって…。
30年前の感覚は取り戻すべくもないが、この歳になっても
それなりの味わいがあるもんだ。

File No.83
『ヴィヨンの妻』太宰 治(新潮文庫 362円)
オススメ度★★☆☆☆

ご存知のとおり、東北芸工大のセンセイでもある根岸吉太郎監督
による『ヴィヨンの妻』がまもなく公開になる。
なんと、モントリオール世界映画祭の監督賞をとったそうな。
『おくりびと』といい、『天地人』といい、まさに「山形現象」だ。
もしかして『山形スクリーム』もそうだったりして。
で、どんな内容だっけ?と思い出そうとしていたら、まだ
読んでいないことに気が付いた(マヌケなはなし)。
で、さっそく。
これ、なかなか面白い。
いろんな解釈ができそうだが、難しく考えるなら、太宰なりの
新たな「家庭」とは、という試みかもしれない。
シンプルに考えるなら、妻の深い寛容の「愛」かもしれない。
なんせこのヴィヨン(大谷という亭主)は、毎日飲んだくれて
飲み代は踏み倒すわ、みさかいなく女に手を出すわ、何日も
家に帰らないで妻子はかえりみないわで、もう笑ってしまう
ぐらい勝手放題。
妻は、夫が愛人とよく行く飲み屋で働き始め、そこで夫と
たまに顔をあわせ、話したり、飲んだりすることに、ちょっとした
幸福を感じている。
でも、こんな寛容の愛をもった女ゆえ、他の男にも抱かれてしまう。
死への強迫感が拭えず破滅的になってさえいる亭主に放つ最後の
妻のセリフが、
「人非人でもいいじゃないの。私たちは、生きてさえすればいいのよ」。
魂が抜けたような感じになっている浅野忠信(大谷)に、妻役の
松たか子がこのセリフをはくシーンは、おそらくこの映画でも
クライマックスのところだろう。
ん〜、想像すると、結構ハマっていて、いい感じなのかもしれない。

この文庫本には、表題作のほかに、太宰の絶筆となった『桜桃』など
いくつかの短編が収録されている。いずれも晩年?の作で、死への
予兆めいたものを感じる。
そうして、この一連の作品を書いて間もなく、太宰は愛人と
玉川上水で入水自殺(心中?)するのである。齢39歳。
それ以前にも、心中未遂(自分だけ助かった)をはかっており、
終生死への強迫感を拭えなかったようだ。
今年は奇しくも太宰生誕100年にあたる。
小説でも、映画でも、たまに太宰の世界に浸るのも悪くないかも…。



何年か前に職場の旅行で別府・湯布院へ行った。
中日に自由行動があったので、かねてから行ってみたかった
豊後竹田へ。
お目当ては岡城址と滝廉太郎。
岡城址は噂に違わぬ山城の大遺構。
大汗かいてのぼってみると、滝廉太郎はたしかにここをイメージ
して「荒城の月」を作曲したのではないだろうか、と思った。
土井晩翠は青葉城をイメージしたのだろうけど…。
その豊後竹田にあったのが軍神広瀬武夫を祀る「広瀬神社」。

File No.82
『軍神広瀬武夫の生涯』高橋安美(新人物文庫 667円)
オススメ度★★☆☆☆

そんな豊後竹田の思い出もあったせいか、この本を本屋で見つけて
即座に買ってしまった。
もうひとつの理由は、帝国海軍士官広瀬武夫が当時の敵国ロシアに
駐在していた時、ロシア人たちからも愛された人柄だったことや、
あの「坂の上の雲」の主役の一人である天才参謀秋山真之と親友だった
ことなどから、この人物にひとかたならぬ興味があったこと。
読んでみると、広瀬武夫の祖父の時代から丹念に個人史をたどって
いる。まさに実直な郷土史家が書いたような趣きだ。
実直すぎるせいか、第2部なんかは史料引用が多く、関心薄い人は
ここらで放り出すかも知れない。
第2部のクライマックスは、武骨な武夫がロシア人女性のアリアズナ
とマリアから思いを寄せられながらもこたえることが出来ず、
帰朝命令により、はかなくも永久の別れをしてしまうところ。
切ないかぎりの話なのだが、ちょっと書き方が素っ気ない。
でも、よくぞ2人の女性を振り切ったものだ。
その理由たるや、「敵国ロシアの嫁さんを連れて帰ったら、まわり
から白眼視されて不幸にしてしまう」というもの。
男らしい!
真の男の愛情とはかくあるべし!
その言葉通り、日本は間もなく大国ロシアを相手に日露戦争に
突入し、武夫は最前線に駆り出される。
歴史にも有名な旅順口閉塞作戦に志願し、敵の砲弾が頭に直撃し、
肉片となって飛び散るという凄惨な戦死を遂げてしまう。
その壮絶な死と、勇猛果敢な「もののふ」の魂が伝説のように
語り継がれ、「軍神」と崇められるようになったのだろう。
その死後というエピローグも語り足りないような感じ。
くしくも、巻末の「解説」で評者がその食い足りなさを指摘している。
中世史の泰斗故林屋辰三郎は「歴史はエモーショナルでなきゃいかん」
と常々弟子たちに言ってたとか。
そう、やっぱり読み手をワクワクさせたり、アツくさせたりしなきゃね。
もちろん、誇張やハッタリ、捏造はいかんけど…。
この本も、オレ的には貴重な一冊だったんだけど、おススメするには
ちょっとなあ。
最後に、
この本の巻末に、
「本書の著者高橋安美氏の著作権継承者を探しております。
ご存知の方は編集部までお知らせ下さい。」
とあった。
へえ〜、こんなのはじめて見た。
この著者は大正元年生まれだそうだから、もうお亡くなりになって
いるんだろうか?跡目を継ぐような身寄りはいなかったのだろうか?
と本題とはあまり関係のないことに少しばかり思いをめぐらした。


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