ぶっくぶくの部屋
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安定感のある作品
先ごろ、第142回直木賞の受賞発表があった。
佐々木譲の『廃墟に乞う』と、白石一文の『ほかならぬ人へ』。
なんと、二人の作家とも、今まで読んだことがない、たぶん…。
ぶっくぶくも、まだまだやのう。
File No.126
『廃墟に乞う』佐々木 譲(オール読物2010年3月号 960円)
オススメ度★★☆☆☆
『オール読物』(文芸春秋)の3月号は、直木賞受賞2作品が
全文掲載されているのでおトク、と思ってすぐ買ってきた。
佐々木譲はとくに警官シリーズの小説で有名な作家だが、
冒頭書いたように、これまで読む機会がなかった。
少しワクワクしながら読み始めたが、そんなに奇想天外・
荒唐無稽なところはなく、きわめて堅実な作品であるとの
印象を受けた。
表題作の主人公・仙道孝司は、PTSDで休職中の北海道警の刑事。
静養逗留中に、以前の上司だった男から、千葉で事件発生の
連絡を受ける。
それは、二人にとって、13年前の娼婦殺人事件を彷彿と
させた。彷彿とさせただけでなく、いともたやすく一人の
殺人犯が浮かび上がり、一線上に連なっていく。
こうしたところも、他の作家・作品なら、かなり思わせぶりに
頁を割くところなのだが、短編でもあるせいか、かなり
アッサリしている。
最後の部分もアッサリで終ってしまっている。
ところどころに、「なぜ?」と思わせる小さなナゾがちりばめ
られているが、著者はそのナゾ説きをしない、というか
まるで眼中にないかのようだ。
つまり、この小説は、意外な展開やトリック、ドンデン返し、
スリルなどを楽しませるのではなく、かつて炭鉱の町として
栄えた名残をとどめる廃墟、寂れた通り、犯人の家庭環境・境遇
などを、全体を通じたトーンとして感じさせる小説なのだ。
華々しさはないが、とてもシュールで、安定感がある作品だ。
文章もきわめて読みやすい。
集中して読まないと理解できないような文章は、はなから
エンターテイメント失格なのかもしれない。
その点、この作品は言うことなし、直木賞受賞も納得。
しかし、明朝には忘れてしまっているかも…。
2010.03.07:
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老舗の力
このごろ、新書を読む機会が多い。
手軽に「知」に浸ったような気になってしまうところが
いいんだろう。
まあ、それはほんの入口に過ぎないとしても。
新書の種類も数多くなってきたが、やっぱ名作・名著は
岩波新書が圧倒的に他を凌駕しているように思う。
これも「老舗の力」なのか。
File No.125
『特捜検察』魚住 昭(岩波新書 640円)
オススメ度★★★☆☆
先月ぐらいから、あちこちの本屋で探しまくっていたのが
この本。
どこにもなくて、あきらめてネットで買おうとしていたところ、
別の本を探している最中に、ひょんなところから見つかった。
ということは、前に読んだ…!?
まあ、オレにとっちゃあ、よくあることなので、気にしない、
気にしない、と言い聞かせながら読み始めてみたら、これが
すごくアツいドキュメンタリーだった。
出版されたのは1997年だから、今から10年以上も前。
扱っている事件は、やや旧聞に属してしまうかも知れないけど、
1970年代から90年代にかけての疑獄事件を取り上げ、
東京地検特捜部の活躍と挫折・苦悩を描いている。
扱っているケースは、ロッキード事件、リクルート事件、
東京佐川急便事件、ゼネコン汚職などで、その多くが、
当時の政権中枢あるいはその近くまで捜査・司法の手が
及んだ。
その度に、われわれ国民は快哉を叫んだり、弱腰を非難したり
してきたわけだが、特捜検事たちの現場はいつも過酷で
峻烈を極めていた。
検事の章が「秋霜烈日」というのがよくわかる。
文字通り、彼らは、秋の霜のような烈しい日々を送って
いたのだった。
捜査の手が、政権中枢に及ぶとき、特捜検事は進退を賭けている。
もし誤認だったり、無罪だったりしたら、ごうごうたる非難を
あびるばかりか、検察組織の弱体に繋がり、正義が守れなく
なる。
ある検事総長が就任の弁として言った「巨悪は眠らせない」も、
特捜検事たちの昼夜を分かたぬ闘いに裏付けられている。
しかし、検察の正義は常勝とは限らず、一敗地にまみれたことも
何回かあった。
そのひとつが、東京佐川急便事件における金丸信(元副総理)の
略式起訴・罰金20万円というもの。
このときばかりは、検察に世論の非難が集中した。
が、その後間もなく東京地検特捜部は、この時の汚名を自ら
そそぐ機会を得るのである。
ちょっとした小説より格段に面白いこのノンフィクションは、
次のような言葉で締めくくられている。
「彼ら(特捜検事)がなにものにもひるまず、官僚制度の深層に
はびこる腐敗を暴いてはじめて、この国はパンドラの箱に
最後に一つだけ残ったという『希望』を見いだすことができる
のかもしれない」
オレがこの本を(もう一度)読んでみたいと思ったきっかけは、
最近起こった民主党幹事長をめぐる疑惑問題だった。
彼も、確か、田中・金丸の系譜に連なる政治家だったのでは…。
そして今や権力中枢にあり、疑惑は雲散霧消してしまったようだ。
元秘書の国会議員が、自殺の恐れがあるとして早々と拘留された
ことも、リクルート事件のデジャヴを感じる。
きっと、今回も、われわれが知らないところで、特捜部の深い
苦悩があったのではないかと推測させられる。
2010.03.07:
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病める大国アメリカ
昨年確か、この第1作『ルポ貧困大国アメリカ』を読んで
紹介したハズ…?
内容は良く覚えているが、アップしたかどうか、あまり
記憶が定かでない。
今作はそのパートⅡ。
バリエーションは少し狭まったものの、そのリアルな現状は
前作同様にセンセーショナルだ。
File No.124
『ルポ貧困大国アメリカⅡ』堤 未果(岩波新書 720円)
オススメ度★★★☆☆
今作は、オバマ就任以降のアメリカをルポしたもの。
選挙キャンペーンの合言葉にもなった「チェンジ」は、本当に
実現したのだろうか?
残念ながら、それはかなり疑わしいようだ。
オセロのように、いきなり裏が表に変わるんだったら誰も苦労
しないだろうが。
でも、それにしても、アメリカの病根は深い。
いきなり第1章「公教育が借金地獄に変わる」で驚いた。
アメリカの大学生の多くが、学資ローンを組んで進学する。
卒業後に割賦返済していくわけだが、その金利が恐ろしく高い。
約10%の失業率では、卒業後もまともな就職口がなく、
借金はどんどん膨らんで、債権は転売を重ねられる。
その上、学資ローンは消費者保護法の適用を除外されており、
駆け込む先もない。
かくして学生は、未来の希望に胸膨らませるのではなく、
借金を膨らませて、大きなマイナスから社会人生活をスタート
させることとなる。
その学資ローンで飛躍的な成長を遂げたのがサリーメイ。
政府も学生の窮状を見かねて、政府直接のローンや奨学金を
設けるが、サリーメイによる多額な政治献金と、巧みな議会
ロビー活動によって、拡張を阻まれ骨抜きにされてしまう。
著者が最後に書いているように、
「(アメリカの病根は)キャピタリズム(資本主義)よりも、
むしろコーポラティズム(政府と企業の癒着主義)にある」
というのも、おおいにうなずける。
一昨年、サブプライムローンの問題が一挙に噴出し、世界
同時不況のトリガーになってしまったような観があるが、
この不良債権化して、金融商品に組み込まれていく学資ローン
は、第2の暴発の予感をさせる。
医療保険の問題も深刻だ。
オバマは、国民皆保険を公約に掲げたが、これも、保険会社等の
阻止・利益誘導活動によって、ねじまげられようとしている。
「国内には4200万人の飢餓人口と、4700万人の無保険者が
いる。1500万人が職にあぶれ、1000万人が家を差し押さえ
られそうになっている。財界へ流れた分と戦争のしわ寄せを受けて
拡大する国内の貧困と失業者こそが、大量破壊兵器ではないか」
という下院議員の糾弾は、まさに大国アメリカの悲鳴に近い。
しかし、前にも触れたように、アメリカは建国の理念に立ち返る
基本的な素質を持っており、自らチェンジを起こすポテンシャル
を秘めている。
きっと、それがアメリカを救っていくだろう、と願いたい。
さて、この本は、偉い学者さんが机上で書いたものとは違い、
実際の国民に数多く取材して、問題を浮き彫りにしているので、
読んでいて面白い。
前作同様におススメの好著である。
2010.03.07:
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野球狂の時代
戦後の昭和はまさに日本あげての野球狂の時代。
とくに昭和33年に東京六大学のスター長嶋茂雄が
ジャイアンツに入団してからはさらにヒートアップ。
少年野球ではみんな3番をつけたがった。
昭和40年代には防犯野球が盛んで…。
なぜ防犯野球なのかと言うと、夏休みにヒマ持て余してると、
非行に走りがちということで、その非行防止の一環として
少年たちを野球に没頭させたらしい。
その防犯野球で、小6の時にやっとサードのレギュラーに
なって、ユニフォーム買ってもらって、勝手につけた
「16番」で、いざ市営球場(今の西部球場)へ。
すると、コーチ役の高校生が、
「オマエ~、なんで16番なんだよっ!」
「だ、だって、星飛雄馬が…」
その直後、栄光の背番号を無理やりはがされ、おろしたての
真っ白なユニフォームにマジックで「5」を書かれた。
ウルウルで出た試合は、トーゼン惨めな結果に…。
あとは、お決まりの「ケツバット」。
かくして、オレの最初で最後の先発試合は終った。
File No.123
『左腕の誇り 江夏豊自伝』波多野勝・構成(新潮文庫 629円)
オススメ度★★★☆☆
ってなワケで、その後の少年期・青年期は、ひたすらジャイアンツ
への強烈な想いを込めて、テレビにかじりついてた。
ジャイアンツの選手はみんな大好きだった。
時おりしもV9時代で、ジャイアンツは強かった。
でも、敵もさるもの、対ジャイアンツ戦は各チームとも絶対的
エースをぶつけてきた。
その一人が、阪神のエース江夏豊である。
この自伝でも書いてるけど、江夏はジャイアンツ戦で燃えた。
とくに、世界のホームラン王・王貞治を終生のライバルとして
意識し、闘志をむき出しにして投げた。
その闘いは、子どもの心をも熱くさせた。
「敵ながら、江夏ってスゴイ!」
日本プロ野球史上、最高の投手は誰?というと、個人的好みは
いろいろあるにせよ、400勝投手の金田正一をあげる人が
多いだろう。
しかし、幸か不幸か、オレは金田の全盛時代を余り良く知らない。
江夏の全盛期なら記憶にある。
高卒でプロ入りして2年目に、25勝をあげ、401の奪三振。
この奪三振記録は未だに破られていない。
たぶん、これからも破られることはないんじゃないだろうか。
さらに驚くべきことは、ほとんど直球しか投げていないこと。
今で言うと、150km/h超の剛速球で、バッタバッタと
三振のヤマを築きあげていく雄姿には、畏怖さえおぼえた。
そして圧巻は、オールスターでの9者連続奪三振という金字塔。
だから、オレの中での最高の投手は、断然江夏豊なのである。
剛速球で押しまくった阪神時代、配球と迫力で優勝請負人と
なった広島時代、いずれも「瞬間最大風速」かもしれないが、
プロ野球選手は、ファンの記憶にどれだけ永く鮮明に残るかが
「真価」なんだと思う。
言い方を変えれば、オーラ(=存在感)がどれだけ強いかが
すべてではないかとさえ思う。
この本を読むと、江夏は天才と呼ばれるだけに、相当なワガママ
だったことがうかがえる。
だから、各監督ともあまりうまくいかなかった。
阪神・南海・広島・日ハム・西武とわたり歩いて、何人もの
監督の下でプレーしたが、その人柄や人格・行動・考えに対する
江夏の評はきわめて辛辣だ。
その中でも、阪神の藤本監督、南海の野村監督、日ハムの大沢監督
(大沢親分)とは、比較的良好な関係だったようだ。
天才江夏と言えども、何回もの挫折に苦しみ喘いだ。
そんな時こそ、指揮官のケアが重要になる。
そういうことに対して、江夏は人一倍ナーバスだったように思う。
この本は、波多野勝による時系列的な江夏の戦歴がベースにあって、
その間に江夏自身の回想をはさむというスタイルをとっているため、
読み物としてのクォリティも高い。
三文ゴーストライターに書かせたような、そんじょそこらのありふれた
自伝とは一線を画している。
ただ、いかんせん、江夏の個性がそのまま出てしまってるような
ところもあって、少しドロドロとした印象も残ってしまう。
数年前のある日曜日に、夏の甲子園地区予選を皆川球場に観に行った。
歓声・白球・陽射し、そして高校生の真剣なプレー、そういった
球場全体の独特の雰囲気に久々に浸って、少しばかりジーンときた。
やっぱ、野球って、特別なスポーツなんだ。
とくに、真ん中のマウンドに立っているピッチャーは、特別な
選ばれし者だ。
「真っ向勝負!エースなんだぞお!」
って、自分も周りもびっくりするような大声で叫んでしまった。
い、いかん、野球となるとついセンチメンタルになっちまう…。
2010.03.06:
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どうしてもない!?
この本読んでたら、以前読んだ佐野眞一の『渋沢三代』と
比べてみたくなって、部屋のあちこちを探したんだが、
どうしてもない。見つからない。
歳のせいか、あんまり探し続けていると、イライラして
きてアッタマ痛くなる。
そのうち、本屋で探していた別の本が隅っこにあったりして、
あまりの整理力のない自分にブチキレて……
その後はお決まりのフテ寝。
目が覚めたら少しはオトナになるのかしら。
File No.122
『岩崎弥太郎と三菱四代』河合 敦(幻冬舎新書 780円)
オススメ度★★★☆☆
このごろ、新書ばっか多く読んでるような気がする。
それは、近年、新書のラインナップが充実してきたせいも
あるだろう。
たった200頁前後で、一流の専門家だったり第一人者らが
それぞれの世界の面白さを、初学者にもわかる平易な内容で
且つコンパクトにまとめてくれてるのだから、ありがたい。
休日2~3時間の「知」の旅は、なかなか面白い。
で、この本は、三菱の創始者岩崎弥太郎から、その弟弥之助(二代)、
弥太郎の長男久弥(三代)、そして弥之助の長男小弥太(四代)
と続く、三菱・岩崎家の草創期の史話である。
岩崎弥太郎って、「龍馬伝」観てる人はわかるよね。
香川照之が好演している、回想ナレーションもつとめている
あの多情多感な人物。
この男こそが、土佐の一介の地下浪人(藩士の身分を失った武士)の
家に生まれ、刻苦勉励し、毀誉褒貶の中にも常にポジティブな行動で
大三菱を創始した立志伝中の岩崎弥太郎である。
龍馬との関係性は、いつものごとく脚色されすぎている大河ドラマ
ほど劇的でもなかったようだ。
龍馬の「海援隊」に、土佐商会の主任者だった弥太郎は金をやり繰り
し続け、だいぶ煮え湯も飲まされて、かなり厄介者扱いだった
らしい。
ご存知のように、三菱の初期は海運業で名を馳せていく。
大隈重信らとの太いパイプで結ばれながら業績を伸ばしていくことを
快く思ってなかった薩長閥の政府が、共同運輸という海運会社を
つくり、三菱を潰しにかかる。
このあたりのことを、たしか『渋沢三代』にも書いてあったハズと
思って、かの本を探したというワケ。
三菱と共同運輸の死闘が繰り広げられるが、そのさなかに弥太郎は
胃がんを患い、52歳の若さで壮絶な死を遂げてしまう。
その跡を継いだのが、弟の弥之助。
兄とは対照的に温厚沈着な性格で、三菱の第二(真の)創業者と
言われている。
と言うのも、先に書いた三菱と共同運輸の死闘は、弥之助の英断と
根回しによって、合併という結末に落ち着くのである。
つまり、弥太郎の三菱商会は、合併した日本郵船に吸収されたのである。
この後に、改めて弥之助が三菱社を興し、銅山・鉱山・造船・銀行・
不動産など、「陸」中心の事業を多角化し、今の三菱グループの
礎を築いた。
弥之助が第二(真)の創業者と言われるゆえんである。
この二代目弥之助は、42歳という若さで、社長の座を甥の久弥に
禅譲してしまう。
身の振り方が鮮やかで清々しい。
もうひとつ興味深かったことを。
当時のライバルたちを端的に評している箇所がある。
三菱が岩崎家の独裁的経営なのに対して、三井は役員による複数支配、
いわゆる番頭政治、渋沢栄一は合本組織(今の株式会社のようなもの)
を志向したと言う。
三菱四代のことを詳述するとかなりのボリュームになるハズだが、
それをコンパクトに通読できる好著である。
ただ、ところどころに、著者の教訓がましい記述が挿入されていて、
ちょっと邪魔くさいカンジはするが…。
2010.02.28:
ycci
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これが売れれば
またもやちょっとご無沙汰してしまった。
何と言うか、書ける状態じゃなかったというか…。
眩暈を感じるのよ、この頃。
「♪時は、わたしに、めまいだけをのこしてゆく~」
なんて冗談でやり過ごそうかなあ。
File No.121
『日本辺境論』内田 樹(新潮新書 740円)
オススメ度★★★★☆
ベリーグッド!
今のところ、オレの今年の新書ナンバーワンだな、こりゃ。
とは言え、まだ今年になって2カ月しか経ってないけど。
この本は、「日本人とは辺境人である」という前提のもとに
たった日本文化論である。
丸山眞男や司馬遼太郎、本居宣長、養老孟司などの思想家・
小説家の論を引用しながら、独自の辺境論を、語って聞かせる
ような平易な文章で展開している。
面白かったところを少し紹介してみる。
まず、日本人はなぜオバマのような演説ができないのか?
オバマもそうだけど、アメリカの歴代大統領って演説が
上手いよねえ。
それは、アメリカ人の国民性格は、建国の時に「初期設定」
されているからだと言う。
つまり、建国の理念こそが、立ち返るべき原点なのである。
だから、アメリカ国民の琴線に触れるような名演説・名セリフ
が生まれ、支持されていくのである、と。
では、なぜ日本の首相の演説はパッとしない(失礼)のか?
日本は理念に基づいて作られた国ではなく、立ち返るべき
「初期設定」がそもそもないからだと喝破している。
もうひとつ。
辺境人は「学び」の効率が良いということ。
辺境であるがゆえ、どうしてもはじめから本源的な遅れという
ものがあり、それが、学びの効率の良さにつながっているという
指摘も、まさに卓見。
上手く説明できないけど、この本を読めば、「ナルホド、そういう
ことかあ」と思えるよ、きっと。
日本が辺境であることは、国旗にも象徴されている。
日本の国旗は言うまでもなく日の丸、日出ずる国の象徴。
日出ずるとはどこから見た場合のことか?とかんがえれば、これも
アハッ体験。
中華思想と良く言うけど、中国こそが世界の中央に咲く華である、
という地政学的な、根源的な原初が厳然とある。
もうひとつ。
辺境人は「空気」を大事にする。
本居宣長の有名な和歌
「敷島の大和心を人問わば 朝日に匂う山桜花」は、
われわれが「匂い」とか「空気」をいかに大事にする性格で
あるかを象徴している。
心あたりない?
会議なんかで、人の顔色を少し窺いながら、その場の空気になんとなく
合わせながら発言することって。
そういうことに鈍感なヤツをKYと揶揄することも。
現代では、他人のことや場の空気なんか一切われ関せず、反対は反対
と堂々と表明することが良とされているような傾向があるが、
周りをキョロキョロしながら、空気の流れを壊さないで、概ねが
無難とする(ちょっと曖昧な)落としどころに落ち着かせるというのは、
われわれ日本人のDNAでもあるのだ。
確かに、合理的でなく、効率的でもないが、まんざら悪いことでもない
とオレは思っている。
(そういうのばっかりでもダメだろうけど)
過度な自己表現を慎み、他者を慮るという精神性は、「武士道」の
残存であり、オレ的に修飾すれば、「日本人に遺された数少ない美質
のひとつ」だと思う。
こういう日本文化論が売れれば、まだまだ日本は捨てたもんじゃない。
(実際売れてるらしい)
バンクーバーでの日本選手の苦戦にヤキモキしている人には、格好の
タイミングかもよ。
久々に、もう一度読み返してみたい本に出会ったということで、
文句なし、今年初の四つ★評価。
訂正 「今年2回目の四つ★」だった。
2010.02.23:
ycci
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またもログアウトの悲劇
決してサボってたわけじゃないけど…。
実は2回も書こうとしたんだけど、突然のログアウト
に見舞われてしまった。
アッタマきてフテた。
オレって、やっぱ、ちょっとガキ?
File No.120
『ひとを動かす言葉の力』(文芸春秋2010年3月号 800円)
オススメ度★★★☆☆
以前、出張帰りの新幹線の中で読もうと思って買ったこの
月刊誌。実は、芥川賞候補作品を読むのが狙いだったのだが、
こっちの特集の方がオレは面白かった。
各界の超有名指導者が肉声で放った金言至言を、それぞれ
最も近くにいたと思われる人々が回想しながら書いているもの。
自慢話や、後付話オンパレードの人生大成功的自伝は読まなくても
いいが、これは、なかなかに興味深かった。
トップバッターは、知らない人はまずいない松下幸之助。
元松下電器社長の谷井昭雄は、同社の開発担当時代、新製品を
松下に見せた時に言われた言葉が、
「君は商品を抱いて寝たか」。
それほど仕事に愛情と熱情を注いでいるかとオーナーに問われれば、
背筋にピーンと固い針金が通るような気持ちがするだろう。
「品質管理より人質管理が大事」と言い続けた松下を彷彿と
させるような言葉でもある。
(お会いしたことはないが)
ソニー創業者井深大の「仕事の報酬は仕事」という言葉も至言
である。
良い仕事をして認められれば、次にまたデカイ面白い仕事が回って
きて、それこそ人生冥利に尽きるというもの。
仕事の報酬は金だけではないのである。
(オレはお金も欲しい~)
そして、尊敬すべき経営者である土光敏夫。
石川島播磨重工や東芝の経営を立て直し、中曽根内閣のもとで、
第二次臨時行政調査会の会長として国鉄民営化や省庁改編などに
大ナタをふるった通称「荒法師」。
土光の魅力はその経営手腕だけではない。
公人・経営者としての志は高いが、私生活はあくまで質素。
「思想は高く、暮らしは低く」という言葉(信条)は、並みの
人間が実践できることではない。
(オレは生活は質素だけど、思想もちょっと質素だなあ)
土光のもうひとつの魅力は、その熱情。
あまりにも情熱家であるために、その涙も熱い。
(この方にもお会いしたことないが)
心を打ち震わせるような涙を流せる男はホンモノだ。
「しょせんコトバなんて儚いかざりもの」とうそぶく人もいるが、
今のところ、オレら人類が気持ちを伝える最大のツールはコトバ
なのだ。「目は口ほどにものを言い」という諺もあるが、身体から
にじみ出る、生き様がにじみ出るような言葉と言うのは、
やはり重く響いてくる。
経験や知恵、情熱、志に裏打ちされた思考・思想がちゃんと整理
されている人は、面構えにも雰囲気や迫力があり、その言葉にも
説得力がある。
「人格」「品格」と「言葉」「面構え」は比例する、と思う。
(これ以上書くと、自己嫌悪に陥ってしまいそうなので、
このへんで…)
2010.02.19:
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おもしろコワくてたいへん
先日、ある研修会で、講師の先生が、
「人材にもいろいろありまして…」
(ナニ、それ?)
「会社のために役立っている人は『人財』」
(ふむふむ)
「ほどほどに役立っている人は『人材』、いるだけで
毒にも薬にもならない人は『人在』」
(ふ~む、おもろいこと言うじゃん)
「そして、『人罪』というべき人もいるんですな」
(ギャー、それってキツくね?)
オレも、できれば「材」ぐらいになるよう、
がんばらんとなあ~。
File No.119
『できる社員を潰す「タコ社長」』北村庄吾
(日経プレミアシリーズ 850円)
オススメ度★★★☆☆
ハズミに買った本だけど、コレなかなか面白かった。
各職場で発生した(発生しがちな)人事労務に関する事例
をあげて、きわめて簡潔明瞭に労働基準法などを説明している。
例えば、近年浸透してきたセクハラやパワハラ。
男性から女性へのセクハラだけと思いきや、女性上司から部下の
若い男性に対するセクハラが増えてるんだって。
男性が女性を「ちゃん」付けで呼ぶのもセクハラだとか!
おいおい、ちょっと行き過ぎなんじゃあないの、って思うけど。
職場には適度な「潤い」と「和やかさ」が必要だってことに
異論ある人は少ないんじゃないかな。
だからと言って、セクハラまがいのことを容認しているワケでは
なく、あくまでも適度に、許容範囲で、ということなので、
誤解なきよう。
この本の中で、一番ページを割いてるのがやっぱ「給料」の
問題。
「いやあ~、こんなことあんの」ってことから、「これって、
たぶん、多くの会社であるかもな」ってことまで、いろいろな
事例が紹介されていて興味深い。
もっともムゴイなと思ったのは、第7章人事制度で紹介されて
いる事例。女性営業社員ががんばってトップの営業成績を上げ
続けているのに給料が一向に上がらず、かたや社長はベンツを
買い替え、身内の社員を優遇。ついに彼女は会社を見限り、
そして誰も(有能な人財)はいなくなった。
そして、そして、会社もなくなってしまった。
人・もの・金の三大経営資源の中で、「人」がもっとも大事
だということを象徴するような事例でもある。
この本を読んでいると、身近な具体性があって面白い。
でも、「他人事」と完全には割り切れないコワさがある。
そして、こういう労務・人事対策をしっかりやらなくてはならない
企業経営者というのは、やっぱたいへんだなあ、と思う。
直接・間接に人事や労務に関係のある人や関心のある人には
オススメの一冊だ。
2010.02.11:
ycci
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眠れる獅子が目覚めはじめた
先週、東京ビックサイトの展示会に行った時のこと。
展示準備のため前日から会場入りし、ホテルに宿泊。
超満員だとはわかっていたけど、翌朝の朝食会場での
人の多さにはちょっと閉口させられた。
オレの後ろにいた若い中国人のオネエチャン、オレの
トレイの前に手を突き出してオカズをとりはじめた。
(オイオイ、そんなにガツガツしなさんな)
ってな目で制したつもりだったが、一向に止めない
どころか、今度はオレの先に行ってトレイを払いのける
ように逆走。
普段のガマンが限界に来てたのも手伝ってか、ついに…。
File No.118
『不思議な経済大国 中国』室井秀太郎(日経プレミアシリーズ 850円)
オススメ度★★★☆☆
中国はかつて「眠れる獅子」と形容された時代があった。
広大な国土に膨大な人口というはかり知れない潜在力を秘めながら
それが生かされてない、ということだったのだろう。
でも今は違う。
その経済力は、日本を抜いて世界第二位になろうとしている。
(なった、のかな?)
眠れる獅子は、目を覚ましたのである。
しかも、まだ目を覚ましたばかりだ。
なぜなら、今の中国の発展は、主に長江デルタ地帯を中心とした
東部沿海部が原動力となっており、農村が多い中西部の開発は
まだまだ途上にある。
中国の人口は約13億人(と言われている)。
そのうち、沿海都市部の人口が約3億人ということだから、
その潜在力の大きさは、ゾッとするほどだ。
この本は、「社会主義市場経済」という一見矛盾したような
体制のもとで急成長を遂げている中国の力の源泉や、不思議さ、
課題などについて10章にわけて論じている。
ナルホド、そういうことか、と思わせるようなことが随所に
出てくる。
中国の産業の問題点のひとつは、研究開発費が少なく、とくに
基礎研究が少ないという指摘。
それが、コピー製品やパクリ製品の多さに象徴されている。
農村部に売り出した「芋も洗える洗濯機」には笑ってしまった。
あまり売れなかったらしいが…。
もうひとつ、近年よく言われている格差社会。
沿海都市部には、私営企業の経営などで巨万の富を有する
富豪が多く存在する反面、日本円にして年収1万4千円以下で
暮らす貧困人口も4000万人に上るという。
ある人が言ってた「日本と中国の物価の差は6~8倍」という
のを適用してみると、年収8万4千円~11万2千円となる。
10倍に見積もっても14万円。
富裕度もスゴいが、貧困度もけたはずれ。
さらにもうひとつ。
近年の中国を脅かしている環境問題。
とくに農村の飲み水の問題は深刻で、現在、約3億人もの農民が
何らかの問題ある水を口にしているという。
これは農村部ばかりでなく、急速な工業化に伴う負の遺産として
都市部にも広がっているらしい。
そう言えば、昨秋、中国に行った時、川の汚さやニオイがちょっと
気になったっけ。
それで、行政の幹部の人たちも、河川の浄化に本腰を入れ始めて
いるとか。
経済の急成長に伴う課題や歪みがあちこちに現れているものの、
いずれ近いうちに、チャイナパワーが世界を凌駕する日がやって
くるように思えてならない。
眠れる獅子は、まだ沿海都市部という「頭」が目覚め始めただけで、
農村部という「胴体」が本格的に躍動するようになれば、ホンモノ
の獅子として世界に冠たる国になる。
血を分けた民族とも言える日本も、中国との良好な関係性のもとで、
永年培った特質と美質で、確たる存在感を示していきたいものだ。
2010.02.07:
ycci
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魂の救い
ほぼ1週間ぶりのアップ。
風邪気味で体調悪いし、慌しいし、夜は夜で…、
いやはや。
それはそうと、朝青龍辞めちゃったんだってねえ。
相撲道を極めた横綱らしい品性という面ではいろいろ
問題もあったようだけど、彼の相撲に、かつて世界を
席巻したモンゴルのチンギス・ハーンやフビライ・ハーン
を重ね合わせた人も多かったのでは。
関取としては好きじゃなかったけど、あのフテブテしさが
見れなくなると思うと、何だかさびしいなあ。
File No.117
『悼む人』天童荒太(文芸春秋 1619円)
オススメ度★★★☆☆
天童荒太というと、2000年にベストセラーになった『永遠の仔』
がまだ記憶に新しい。
なんという結末。
子どもの心の深遠をセンセーショナルに描いた話題作だった。
そして、今回の『悼む人』で天童は第140回直木賞を受賞。
有名書店の2009年売上ベスト10にもランクインしている。
近ごろ、奇想天外にしてセンセーショナルばかりを追求する
余り、肝心な「魂の救い」を与えてくれない小説が多くなって
きているような気がする。
その点、この本は、主人公の坂築静人が、あらゆる人の死を
「悼み」ながら全国を歩くということをテーマにしている。
なぜ、静人がそうなったのかは、物語の中で追々と明らかに
なっていく。
明らかに、と言っても、完全に納得できるものではないかも
知れない。
なぜなら、「去るもの日々に疎し」で、人の死、さらには
人の生きた証を、わりあい簡単に忘れてしまっている人が
殆どだから。
「いや、そうじゃない」と思う人もいるだろう。
でも、それは、特別な関係(親子とか夫婦とか恋人とか師弟とか)
にあった人の死と生を、時折フト想い出すだけなのでは
ないだろうか。また、そうでないと現実の日々を生きてなんか
いけない、ということもある。
しかし静人は、人それぞれが生きてきた証を、いとも簡単に忘れて
しまうことに魂が納得せず、死んだ人の周りを訪ね歩き、
「彼(女)は、誰に愛されていたでしょうか。誰を愛して
いたでしょうか。どんなことをして、人に感謝されたことが
あったでしょうか」と聞き出し、その人の生と死をしっかりと
心に刻んで「悼む」のである。
つらく、終わりのない行脚に身を投じることしか、自分の
魂をも鎮められないのだ。
静人を取り巻く人々も、この物語を重層的で奥深いものに
している。
末期ガンに冒されている母は、息子の奇怪な行動にとまどい
心を痛めながらも、その生き方を肯定していく。
静人とは対極的な生き方をしていた週刊誌記者の蒔野も、
静人の「悼み」に知らず知らず感化されていく。
死というものがあまりにも日常的になりすぎて、そして
小説などにいとも軽々しく扱われすぎて、車窓を流れる
風景のように次から次へと忘れ去られてしまうことへの、
作者なりの疑問符でもあり、警鐘でもある。
天童は、『永遠の仔』から格段の成長を見せた、とオレ
は思う(エラそうに!)。
2010.02.04:
ycci
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メタボじゃない!?
1年で最もイヤな日のひとつ、健康診断結果通知の日。
同僚某氏がオレに「ちょっと厚いっスね」と一言添えた
だけで、もうオレの心はダークブルー一色。
すぐに開封。
案の定、備考欄一杯の注意記載プラス精密検査の通知。
ふあ~あ。
で、でもよ、オレは「メタボ」じゃないのよ、ホントに。
血圧チョー正常、血糖値チョー正常だし…。
信じられない?
ホントに「メタボ」じゃなくて、まだ「メタボ予備群」ですからっ!
File No.116
『向日葵の咲かない夏』道尾秀介(新潮文庫 629円)
オススメ度★★☆☆☆
2009年度の「このミス(テリーがすごい!)」の作家別投票で第1位に
なった道尾秀介の話題作。
主人公の小学生ミチオのクラスメートであるS君が、1学期終業式の日、
自宅で首吊り自殺をするところから物語は始まる。
死んだハズのS君は、あるものに生まれ変わり、ミチオとともに、自分を
殺した犯人探しをする(S君は自殺じゃなくて殺されたとミチオに言う)。
ミステリーらしく、ハラハラ、ドキドキの展開が続き、後半になって
急展開が加速する。
そして、物語は何もかもが意外な結末を迎える。
さすが話題作だけあって、秀逸なストーリー展開を見せてくれる。
しかし…。
ちょっとムリスジのような気がするし、ツジツマが合わないような気も
するし、そして何よりも、感覚的なものがオレにはシックリこない。
ミステリーだから、ここであれこれとあまり書けないが、ひとつだけ
あげると、ミチオの妹ミカが実は○○○だったなんて、そりゃあない
だろうって思ったなあ。
そういうところが面白いって人もいるんだろうけど、それはオレの
感覚には合わなかった。ちょっとオチョくってるんじゃあないの。
さらに言うと、最近、こうした子どもの心の異常な歪みをテーマ
にする作品が多いけど、それってどうなのかなあって思うのよ。
確かにセンセーショナルだし、ミステリー作品として優れているのは
オレも認める。
そして、メッセージ性も充分に持っている。
ミチオが最後に放った言葉、
「…失敗をぜんぶ後悔したり、取り返しのつかないことをぜんぶ取り
返そうとしたり、そんなことをやってたら生きていけっこない。
だからみんな物語を作るんだ。…見たくないところは見ないように
して、見たいところはしっかりと憶え込んで。みんなそうなんだ。…」
は心にグサリとくる作者の強烈なメッセージでもあるだろう。
でもなあ、後味悪すぎだし、ハッキリ言って気分良いもんじゃあない。
作品としては○、好みとしては×、というところかな。
あくまで個人的感想だが、ほかの人はどんな感想を持つんだろう?
2010.01.29:
ycci
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素晴らしきMERRY
デザインって大事だよなあ。
前から感じていたけど、最近はとくに思う。
表面的なものでも、何だかカッコイイという
雰囲気的なものでもなくて、ちゃんと「思い」が
「カタチ」になっているものって、オレたちの周りには
実は、そんなに多くはないんじゃあないかって…。
File No.115
『デザインが奇跡を起こす』水谷孝次(PHP研究所 1400円)
オススメ度★★☆☆☆
つい最近出版された本で、前回、知人が「次に読む本」って
言ってたもの。
オレだって、ちゃんといち早く買ってはいるのよ。
ただ、読むのが追いつかないだけで。
オレの部屋には、買ったはいいけど、まだ読んでない本が
ぎょうさん積まれている。
いわゆる「積ん読」ってやつ?
そいつらが、夜な夜な「おいっ、いつ読んでくれんだよっ!」
ってオレをにらんでいるようで、ちょっとコワイ…。
まあ、ヨタ話はこれぐらいにして。
「水谷孝次」と聞いてピンと来る人は、デザインに関心が
高い部類に入る人じゃないかな。
そう、彼は国内外の数々のデザイン賞を受賞している、わが国を
代表するグラフィックデザイナーにしてアートディレクターの
一人。
モデルの甲田美也子が中国・北京の天安門広場にカメラを持って
立っている、ANAの「冬の中国キャンペーン」ポスター。
同じANAのニューヨーク線の開設に伴って、大御所フランク・
シナトラを起用したポスター。
いずれも、彼の代表作のひとつだ。
もっと彼を有名にしたのは、「愛知万博」で披露された、世界23
カ国、2万人以上の笑顔とメッセージ、いわゆるMERRY EXPOの
核をなすイベントのプロデューサーをつとめたこと。
そして、一昨年の北京オリンピック開会式で見た、世界中の
子どもたちの笑顔がプリントされた傘の花が開くイベント、
あれも水谷孝次のプロデュースだった。
それも1円の対価ももらわなかったらしい。
そのくだりは、この本に詳しく書かれている。
世界の人々に、幸せと平和に満ちた未来を伝える「MERRY PROJECT」
が彼のライフワークなのだ。
いろんなケースで、いろんな障害をブレイクスルーし、心からの
メッセージをカタチにして発信していく姿は、感動的ですらある。
でも、オレがもっとも興味を持ったのは、この本の前半部。
彼がデザイナーを志すに至った経緯、下積み生活、いろんな人から
薫陶を受け、世間から認められるデザイナーに成長していく過程は
たいへん興味深い。
当時(1970年代)を代表するグラフィックデザイナー田中一光
の事務所にもぐりこんだはいいが、ほどなくして彼はクビになる。
クビを宣告された時に、田中から受けた教えが、その後の水谷に
とって大きなカテとなる。
「とにかく、いいものをたくさん見なさい。いい人に会いなさい。
いい本を読みなさい。いいものを食べなさい。…
いいものを自分の中に取り込む…
そういう感性や、物を引いて見る力=デッサン力が、作品のクォリティ
を高める。そしてそれは、すべての仕事に通じることだ」と。
さすが田中一光。
そして、それをしっかり受け止めて実践していった水谷もさすが。
しかし…
後半のMERRY PROJECTは確かにスバラしいんだけど、オレには少し
クドイかなって…。
北京オリンピック開会式総監督チャン・イーモウとの心の通い合い
はすごく感動的だ。だから、それで充分MERRY PROJECTに生涯をかけた
「思い」は伝わっている、とオレは思うんだけど。
最後にもうひとつ。
デザイナー(物事の企画プロデュースということも含めて)を志す人、
そういう世界で発展途上にいると思う人は、ぜひ、この本を読むことを
おすすめする。
まあ、オレみたいに成長が右肩下がりになったような人(いちおう謙遜
のつもり)でも、遅くはない…、と思う、たぶん…。
2010.01.26:
ycci
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世の中は広くて狭い!?
先週、東京から来た客人と待ち合わせた。
ちょっと遅れて待ち合わせの場所に行ったら、
かの氏はオレに気付かずに一心不乱に本を読んでいた。
数分後ようやく顔を上げて、オレに開口一番、
「おっもしろいな、この本。読んだ?」
と表紙を見せたのが『天地明察』。
実は、その数日前にオレも買ったばかりで、まだ読んでなかった。
「…ま、まだですけど…」
「なあんだ、そうなの。もうすぐ終るからちょっと待ってて。
いま佳境なんだよ。そうそう、この次読む本がコレ」
ってカバンから出した本が、これまたオレもその次に読もうと
同時に買った本。
世の中は広いといわれているけど、意外と狭い。
File No.114
『天地明察』冲方 丁(角川書店 1800円)
オススメ度★★★☆☆
「ネオ時代小説」と世間の耳目を集めているのがこの本。
先日のNHKニュースにも作者が出ていた。
かなり若い。たぶんオレよりひとまわり以上年下では。
まあ、少々才気走った作品かなと読み始めたら、
なるほど、これはベストセラーになるわなっていう納得の
内容だった。
単行本で500頁にも及ぶかというほどの長編だが、終始
飽くことがなかった。
これは、江戸時代前期にわが国初の「暦」を作った渋川春海
を主人公とした物語である。
渋川春海は実在の人物だが、オレもこの本を読むまでは
よく知らなかった。
「暦」と一口で言っても、それは、陰陽道や神道、天文学、
算術などを駆使するもので、当時の科学や知識の粋を集めて、
その上、政治的な戦略も総合して作られたことがわかる。
春海は囲碁でもって幕府・将軍に仕える御用碁師の家に
生まれるが、囲碁には飽き足らず、様々な学問、とくに
算術にのめり込んでいた。
ある日、時の老中酒井忠清に召され、碁を指導していた折、
酒井から
「退屈でない勝負が望みか」とナゾをかけられる。
そしてほどなく、「北極出地」と言われる全国各地での
星の観測の旅に出される。
それが、春海の20年余にもわたる苦しい闘いのスタート
となる。
まさに挫折に次ぐ挫折。
でも、その時どきにいろんな人たちが春海の支えとなる。
もうこれまでか、と思われた最後の大挫折の時は、「和算」
の創始者として有名なかの関孝和が大きな力を与えてくれる。
はじめは、一介の碁師が武士たちの間で翻弄され恫喝され
オロオロ、オドオドしっぱなしだったが、幾たびの挫折から
這い上がることによって、春海は「士気凛然、勇気百倍」の
逞しいリアリストになっていき、そしてついに…。
時代小説・歴史小説というと、どうしても「剣」とか「戦」
とかいわゆる「武」の部分が華やかに強調されがちだが、
これはあくまで「文」で世の中を変えたことにスポットを
あてた出色の作品である。
やはり、男子たるもの、かくあらねばならぬ。
せめて気持ちだけでも…。
そして、自分の仕事に全身全霊を傾けている人は、決して
周りが見放さない、ということなのだろう。
2010.01.24:
ycci
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今世紀最大のイノベーション!?
本って、読んだ後時間が経つにつれて感動が薄れる
よね。
えっ?、それは老化現象だって?
ん~、そうかもしれんなあ。
この本も面白くて一気呵成に読んだんだけど、
2日連続午前様では「何だっけがあ?」って感じだよなあ。
File No.113
『スマートグリッド入門』-次世代エネルギービジネス-
福井エドワード(アスキー新書 743円)
オススメ度★★☆☆☆
オバマが米大統領になってから、「グリーン・ニューディール」
とか「スマートグリッド」とか良く聞くようになったけど、
それってナニ?
そう思ってたら、たまたまテレビで、グーグルによるスマート
グリッド構想を取り上げていた。
よくわかんないけど、これはスゴイなってことぐらいはわかった。
そして、グーグルぐらいの会社になると、頭いい奴がいっぱい
集まってんだろうなあとも。
で、オレも少しはわかっとらんと話にもなんないなという
ちょっとした強迫観念でこの本を買ってきたってワケ。
最初にスマートグリッドの定義があるから紹介しよう。
直訳すると「賢い(洗練された)送電網」。
狭義では、エネルギー・テレコミュニケーション・ITの3つの
産業が融合した新たなビジネス。
広義では、需要側における住宅・自動車・家電を中心とした
省エネの取り組み、供給側における太陽光・風力・スマート
エネルギー端末などの新エネルギーの取り組みと解される。
オレがこの本を読んでイメージするスマートグリッドな生活とは…。
家には太陽光パネルと風力発電システムが設備されていて、
電力会社からの送電線には、電力のほかに情報も流れてくる。
車はもちろん電気自動車。
生活のパターンによって、使う電力エネルギーを最適にコント
ロールしていく。
それを一住宅だけでなく、ある地域一帯でやる。
例えば、オレん家がこれから3日間留守になり、電力を使わない
としたら、留守中に得られ続けるエネルギーを、地域内で
必要とする住宅や会社などに供給する。
もちろんその逆もある。
これは、オレが考えるあくまでも一局面に過ぎない。
こういうふうに書くと、そんなにたいしたことないと思うかも
知れないが、実はたいへんな経済効果を生む今世紀最大の
産業イノベーションになりつつあるらしい。
モルガンスタンレー社は、米国でのスマートグリッド関連市場
規模を、2010年2兆円、2030年10兆円と試算しており、
米国政府もこれから毎年1兆円規模の予算を投じていくとのこと。
かたや日本。
低炭素社会の実現を目指した政策が萌芽し始めているが、その
投資規模はまだまだ米国の比ではない。
それどころか、産業特性からスマートグリッド不要論まで一部には
あるようだ。
また、米国に引っ張られるように、5年後10年後に追随する
ようなことになるのだろうか。
いずれにしても夢が膨らむ話である。
大規模な実証実験をしてるという米国ニューメキシコ州に行って
この目で見てみたいなあ。でもムリかなあ。
グダグダと書いたわりには★2つとはいかに?
それは、第一に誤植と思われる部分があったこと。
(売り物である限りユルサレナイこと!)
第2に、急速にアドバンスしている世界なために、著者自身が
その全体像を充分に把握しているのかどうか、疑問に感じたこと。
あくまで個人的感想だが…。
2010.01.20:
ycci
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期待を裏切らない内容
「2009ツールドフランス」のDVDを観た。
スゲェ~の一言に尽きる。
世界のトップアスリートたちが綿密なチーム戦略のもと
体力・気力の限界まで疾走する姿は感動もんだ。
なんか、オレも力わいてきた。
しかし、外は雪…。
やおら「室内ペダル漕ぎマシン」に跨り疾走、のつもり。
目の前は南仏の風景、沿道からは金髪ネエちゃんたちの黄色い
声援、ん?オレが着てるのはチャンピオンの証「イエロージャージ」
かあ…。
ふとわれにかえると、完全にリバウンドして、弛緩し切った
身体と精神というカコクな現実。
「そんなことしてんだったら、ちょっとは雪払いぐらいしてよっ!」
という家人の叱咤が追い討ちをかけてくる。
でるのはため息と「腹」ばかり…。
File No.112
『世界はわけてもわからない』
福岡伸一(講談社現代新書 780円)
オススメ度★★★☆☆
福岡の出世作とも言うべき『生物と無生物のあいだ』は面白かった。
サントリー学芸賞や新書大賞などを受賞し、ベストセラーになった。
次作『できそこないの男たち』は、オレとしてはさらに面白かった。
福岡はレッキとした分子生物学者であり、著作はほとんど専門分野
のもの。
消極的(消去的)文系(つまり数学や理科がダメなので文系に進んだ
というだけのこと)のオレにとって、トーゼンわからない化学用語
や理解できないことも沢山出てくる。
それでも面白いのはなぜか?
それは、作者の文学(文章)センスが抜群だからである。
自分が愛してやまない、そして興味が尽きることのない分子生物学の
世界に、まるで物語のようにいざなってくれる。
だから、ところどころわからないことがあっても、さして気にならない。
いわゆる「流れ」を作れる才能があるんだろうな。
この本は、後半からがさらに面白い。
アメリカ・ニューヨーク州コーネル大学生化学研究室のエフレイム・
ラッカーとマーク・スペクターが、発ガンのメカニズムとも言うべき
リン酸化酵素とその働きを解明する!?という世紀の大仕事を進めて
いく過程を彼らの実験を主に追っていく。
そして、これはノーベル賞間違いなし、と思いきや…、
その実験結果にスペクターの捏造が入っていたことが露見してしまう。
スペクターは行方をくらまし、ラッカーも研究者として痛手を受けて
しまう。
(これはフィクションではない)
そして作者の思いは最後に凝縮されている。
「この世界のあらゆる要素は、互いに連関し、すべてが一対多の関係で
つながりあっている。つまり世界に部分はない。部分と呼び、
部分として切り出せるものもない。そこには輪郭線もボーダーも
存在しない。…
世界は分けないことにはわからない。しかし、世界は分けても
わからないのである。…
分けてもわからないと知りつつ、今日もなお私は世界を分けようと
している。それは世界を認識することの契機がその往還にしかない
からである。」
なんと示唆深い言葉だろう。
これは、分子生物学の世界に限らず、人間社会・森羅万象に言える
ことなのではないだろうか。
やはり福岡伸一は期待を裏切らなかった。
2010.01.17:
ycci
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