ぶっくぶくの部屋

ぶっくぶくの部屋
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「ティファニーで朝食を」という映画をご存知でしょうか?
私はだいぶ以前に名画座で観て、オードリー・ヘップバーンの魅力に
ボーとしてしまった記憶があります。
その原作者が、「アル中でヤク中でホモの天才」と自称する
トルーマン・カポーティ。彼の代表作で、今もってノンフィクション・
ノヴェルの不朽の名作と言われているのがこの『冷血』です。

File No.34
『冷血』トルーマン・カポーティ 佐々田雅子訳
(新潮文庫 895円)
オススメ度 ★★★☆☆

いやあ、なかなかの読み応えです。600頁以上に及ぶ長編なので、
読み切るのに3日ぐらいかかりました。
1959年にアメリカ・カンザス州・ホルカム村で起きた一家4人惨殺事件を
膨大な取材・資料によって、ノンフィクション・ノヴェルという形で
再構成した本です。
今から50年前に起きたこの事件は、動機なき殺人として全米を震撼させ
ました。
幸いにして犯人はひょんなことから割り出され、捕まるのですが、
その殺害理由の薄弱さや軽さ、人の心に宿る狂気の闇に震撼させられる
思いがします。
幼少期に親や周りから受ける愛情の多寡が性格形成に大きな影響を与える
のではないか、という興味深い示唆もしています。
もっとも、今となっては通説になってしまった感はあるのですが。
この本が洋の東西で長く読まれ続けているのは、その犯罪者心理を地道な
取材で炙り出している点にあるのではないでしょうか?
もうひとつのテーマは死刑の是非です。
とくに後半は、犯人たちが死刑執行されるまでの様々な葛藤や、社会的
紆余曲折が精緻に描かれています。
やっぱ、カポーティは「天才」なのかもしれません。
彼自身も悲惨な末期をたどったようですが。
いずれにしても、推理小説ファンや犯罪小説に感心のある人にとっては、
一読に値する一冊ですよ。
あのシュリーマンと言ったって知らない人も多いでしょう。
19世紀のドイツ人で、ロシアで藍の商売をして得た巨万の富で
世界各国を旅したり、トロイア遺跡を発掘したりした人で、
その自伝的著書『古代への情熱』を読むと、まるでインディー・
ジョーンズの原型のようでもあります。
そのシュリーマンが、なんと幕末の日本にも来ていたのです。

File No.33
『シュリーマン旅行記 清国・日本』
H.シュリーマン著 石井和子訳(講談社学術文庫 800円)
オススメ度 ★★★☆☆

これはシュリーマンが1865年に、清国(今の中国)と日本を
旅した時の見聞録です。
当時の日本はまさに幕末。国際化へのトビラが徐々に開かれつつ
あったとは言え、まだ「江戸時代」の風が色濃く残る街や人や
風土・風習などを、作者は実に旺盛な好奇心で観察しています。
何と言ってもウレシイのは、当時の日本を客観的ながらも好意の
目で見ていることです。
「日本が世界でいちばん清潔な国民であることは異論の余地がない」
「日本には平和、行き渡った満足感、豊かさ、完璧な秩序、そして
世界のどの国にもましてよく耕された土地が見られる」
などなど、清潔・潔癖・質実な国民性にちょっと驚いている様子が
うかがえます。
きっと、文明と呼べるものは西洋にしかなく、未開の東洋にこんな
精神文化の高い国があるとは思っていなかったのでしょう。
「日本文明論」の章で作者は、物質文明は高いが、キリスト教的
精神文明は日本にはない、と書いてますが、滞在1カ月では、そこ
までだったのでしょう。
1年ぐらい滞在すれば、日本の精神文化をもう少し深く理解できたかも
知れません。
それにしても、下帯ひとつで全身に入墨をしている「苦力」や、
ごく自然な男女混浴の「公衆浴場」、ソデの下を絶対受け取らない
「役人」(武士)、高潔で慈愛に満ちた僧侶、などなど、幕末の頃の
日本の情景が彷彿としてきて興味が尽きません。
わずか140数年前のことですよ。今、50代以上の世代にとっては、
ひいおじいさん・ひいおばあさんぐらいの頃のことですから近い!
ですよねえ。
それと、もうひとつ興味を引くのは、日本の前に行った清国の印象が
良くないことです。当時の北京・上海は、街も相当汚く、多くの
国民が貧困で疲弊している様が描かれています。
これも、短期滞在ですから的をえているかどうかは良くわかりませんが。
いずれにしても、久々に「面白くて一気読み」した一冊です。
4月に入ったら街に若葉マークの車が目立ちますね。
今春就職したルーキーたちなのでしょうか。
きっと、初々しい気持ちと、将来への期待と不安が入りまざった
ような感じなんでしょうね。
素直に、そして心身ともにタフにがんばってもらいたいものです。

File No.32
『就活のバカヤロー-企業・大学・学生が演じる茶番-』
石渡嶺司 大沢 仁(光文社新書 820円)
オススメ度 ★★☆☆☆

じつは、これを書くの2回目でして…。
というのも、かなり自分としては熱く書いて自己満足し切って、「さあ」
と【投稿】をクリックしたら、な、なんとログアウトしてしまいました。
トホホ…。
ただでさえ疲れがたまる週末。何だか萎えてしまいました…。
ちょっと気を取り直して。
いやあ、変わってきているとはわかってたつもりでも、これほどまで
「就活」が様変わりしていたとはオドロきました。
インターンシップという名を借りて、大学1年から「超青田刈り」が
始まっているという事実。就職情報会社の「マッチポンプ型」就活ビジネス。
本来は学問の場であるはずの大学のジレンマ。
などなど、就活にかかわる問題は根深いものがあります。
「自己分析なんかより、まずは自立のために働いてみるという、
シンプルな原点への回帰」という作者のメッセージには、大きな共感を
覚えました。
「就活」の実態を知り、その本質について考えるにはオススメの一冊です。
でも、この本の発行時(昨年秋)と今の就活をとりまく経済環境が大きく
変わってしまっていることや、「バカヤロー」の矛先が少し甘い、という
あくまで個人的見解から、あえて★はふたつ、ですかねえ。
もう年度末ですねえ。
何だか歳を重ねる毎に、時の経つのがはやく感じられます。
これは私だけじゃないようで。
その証拠に、昨年秋に出版されたこの本、けっこう売れている
ようですよ。

File No.31
『大人の時間はなぜ短いのか』一川 誠(集英社新書 735円)
オススメ度 ★★☆☆☆

歳とって痛感している「時がはやい」ことを面白く平易に解説
してくれそうと思って読み始めたら、ちょっと違って、最初は
認知科学的なアプローチからはじまります。
ちょっと難しい部分もありますが、「錯視」なんてスゴく面白い
ですよ。物理的な実態と人間の視覚認識が違う実例をあげていて、
それは知識によっては矯正されない、という指摘なんて、まさに
ナルホド!
前半は、なんでこれが主題に関係あるんだろうと思いつつ、
ガマンしながら読み進めていくと、それらがすべてテーマに
向かったアプローチであることがわかってきます。
それがカッタルいと感じる人は、第5章から読んでもいいと
思います。
「大人の時間はなぜ短いのか」の結論はいくつかあるのですが、
ひとつだけ紹介すると、加齢による注意やメモリーの容量が
減少するせい、とのこと。
だろうなって思ってはいましたが、ちょっとショック。
こうした結論部分に加え、後半では、時間にしばられて働く
私たちにとって、たいへん示唆に富んだ内容になっています。
「やってもやらなくてもいい仕事が増えすぎて、本来の仕事に
費やす時間がなくなってしまっている」とか、
「人間が道具として創作した時計の時間に、逆にしばられて
いる。道具をもっと上手く活用しなければならない」
「ぎりぎりの行動計画は人間に向かない。人間の能力を超えた
過密・厳密スケジュールは時として悲劇を生む」などなど。
最後に、作者が提案していることを私も試してみました。
それは、時計の1分間と自分が感じる1分間の違いを計って
みること。何回かやってみました。
その結果は、私の感じる1分間は、実際の1分間より、やや
長いようです。つまり、自分が思っているより、時間経過が
早いということ。これを1週間、1カ月、1年に換算すると…、
やっぱりそうか…。
いやいや、体調や代謝などによって体内時計の進み方も
ちがってくるそうですから、早トチリしないことにしましょう。
この本(雑誌)買うのに少々勇気が要りました。
だって、表紙の特集タイトルにデカデカと、しかも赤色で
「官能小説フォルテッシモ」って書いてあるんです。
私は、連載されているある作家の(真面目な)作品が読みたくて
ここ数回買っているわけでして、ネライは「特集」ではないん
です…、ホントに。
でも、せっかく買ったんで、あくまでもついでにその特集も少し
読みました、ら、
ナント、感動の小品が載っていたのです。
(言い訳がクドくてスンマセン)

File No.30
『夢のまた夢-道頓堀情歌』団 鬼六
小説新潮2009年4月号(780円)
オススメ度 ★★★☆☆

この作者の名前を見たら、「ええっ、エロ小説?、ぶっくぶくも
ついに本性をあらわしたか」って思う人も多いでしょう。
確かに性的な描写も一場面だけ出てきますが、みだらな期待?を
みごとに裏切るんですよ、この小説は。
舞台は終戦直後の大阪。米兵相手の娼婦だった女が、自分の
父親ほどの歳の中年男と恋をし、荒んでいた心が徐々に矯正され
ていくのを、その中年男の実の息子からの目で語り進んでいく
話です。
こう書いてしまうと、ありふれたストーリーのようですが、
わりと湿っぽいことを、少しばかり乾いた感情で綴っていくことに
妙な魅力を感じ、ワタシ的には好きな部類に入ります。
とくにラストの展開は、お涙ちょうだい的な書き方でもないし、
未熟な恋愛小説のような誇大演出もないのですが、なぜかホロっと
させられます。
自分自身が中年男だからかもしれませんが…。
こういう話が、実際にいくつもあったんでしょうね、きっと。
先日、友人・知人らと山小屋やツリーハウスの話で盛り上がり
まして。子供のころ、ダンボールの家を作って遊んでいたころの
習性とかわっていないんだなあって妙に感心してしまいました。
男子って、なんかそういうサバイバルやアドベンチャーに憧れる
ものなのかもしれません。
そういう子供たちをとりこにしたのが『十五少年漂流記』です。
私も胸躍らせた一人でした。

File No.29
「『十五少年漂流記』への旅」椎名 誠 新潮選書(1000円)
オススメ度 ★★★☆☆

作家椎名誠の原点となったヴェルヌの小説『十五少年漂流記』の
舞台となった島を訪ねる旅行記です。旅行記と言っても、ミニ
アエドベンチャーのような趣があります。
モデルとなった島は、定説では南米パタゴニアのマゼラン海峡に
あるハノーバー島だと言われていました。
作者は機会を得て、永年の念願だった同島に旅立ちます。
旅と言っても、南米の南端の方ですから、もうちょっとした
冒険ですね。行き先々の人や風景、風土、食べ物などが実体験
でリアルに書かれていますから、これがなかなか面白いのです。
話は時々、作者が世界中を探検・探訪した時の見聞に及びますから、
さらに面白さが広がります。
なかでも、作者が世界中で最も好きな街であるというチリのプンタ・
アレーナスには私もほんとうに行ってみたいという気になりました。
(多分ムリでしょうけど…)
さて、物語の本当の舞台は、実はまったく別のところにあったの
です。そのワケや背景が、この本のミソでもあります。
まあ、読んでのお楽しみです。
作者は最後に、この『十五少年漂流記』が世界中の少年たちに熱く
愛読されたのは「視覚の差異と思考の問題」にあると言ってます。
つまり、「知らない世界を目の前にしたとき、価値観は変わり、
それら未知のものに対応していくたびに思考が広がり、深くなって
いく」ということ。
そう、こういう旅や冒険の経験をしないと、男は深く広くなって
いかないのです。また、一人旅や冒険って、すごくパワーのいる
ことなんです。
そんな旅、長いことしてないなあ〜。
今年こそ…。
パクス・アメリカーナって言葉知ってますか?
軍事や経済などにおける超大国アメリカの覇権、というような
意味だそうで…。
そういう意味では、このパクス・アメリカーナの時代も終わり
かなって思わせるような内容の本です。

File No.28
『強欲資本主義 ウォール街の自爆』
神谷秀樹 文春新書(710円)
オススメ度 ★★☆☆☆

この本が出版されたのは昨年の10月ですから、まだアメリカ
大統領選挙の帰趨が定まっていない頃です。
その時期にすでに作者は、オバマが政権を握るようになれば、
アメリカもまた生まれ変わる可能性があるし、そうなっていく
ことは充分あり得る、と言っています。
事実、オバマ政権になったわけですから、アメリカは再生の
方向に向かうのでしょうか?
しかし、アメリカの病根は深いものがありますねえ。
前回のNo.27で抱いた思いをさらに深くしました。
サブプライムローンの闇の底もまだ見えないのに、モノライン
保険や、次のさらに強力な地雷原と言われている
「商業用不動産ローン」の怖さ。
そうこうしているうちに、米ドルはもはや世界唯一の基軸通貨
ではなくなったとするのは、多くの識者に共通する見解の
ようです。
さらに作者は、「お金より大きな問題は、人と人、人と会社の
『信頼の輪』が切れてしまったこと」という深刻な警鐘を鳴らして
います。
そうです!、そんな今だからこそ「天地人」の「愛」と「義」
なのです。私たちの原初の精神に立ち返るべき時です。
WBCでも、ニッポンのサムライたちが魅せてくれたじゃあ
ないですか「日本力」を。(原監督好きだけど、言語感覚が
ちょっとイマイチでしたかねえ、今回の場合ちょっと…)
同感・共感の本でしたが、作者もウォール街の一員ということで、
私的にはそこんとこだけちょっと説得力に欠けるかなってことで、
★ふたつ!
でも、ナカナカ骨のある内容ですよ。
さて明日は月曜日。また、ネジ巻かなくては、と思い、
戦国時代一色になってしまった頭のモードを切り替えるため
経済の本でも、と思って読み出したら、これはこれは、
「目からウロコ」。
サブプライムだ、リーマンだと、断片的なことしかわから
なかった世界経済の今、がスムーズに理解できました。
まあ、理解と言っても、何となく大体ぐらいですけど…。

File No.27
『金融大崩壊-「アメリカ金融帝国」の終焉』
水野和夫 NHK出版生活人新書(700円)
オススメ度 ★★★☆☆

いやあ〜、この本で完全にモードが今に切り替わりました。
アメリカの金融システム崩壊に伴う世界不況は、資本主義経済の
限界と言う根本的な問題をはらんでいて、思っている以上に
深刻です。
前半部分では、不況の発端となったサブプライムローンや
リーマン破綻などについて解説しています。
とくに、サブプライムローンの証券化商品と、そのリスクを
ヘッジするCDS(一種の保険?)の仕組みは、よっぽど
頭のいい人が考えたんでしょうね。
しかし、その結果は惨憺たる状況になっているわけで、頭の
いい人が導く方向や切り拓く道が正しいとは限らないのです。
それにしても、私が知りたいことに、この本は明確に答えて
くれています。
Q.金融危機はいつまで続く?
A.08年秋が激震で、あと3年は余震が続く
Q.実体経済の不況はいつまで続く?
A.アメリカの過剰消費の調整には5年ぐらいかかる
Q.日本の雇用の冷え込みは?
A.バブル崩壊時よりは軽微
Q.これからの日本の活路は?
A.BRICsなどの新興国に市場活路を求める
簡単に書いてますが、それぞれに「ナルホド!」と思わせる
根拠やデータが示されているのです。
これ以上書くと、読まなくてもよくなるので止めますが…。
この本は、昨年11月に出されたもので、状況も少し変わって
きていますが、依然として多くのビジネスマンに読まれて
いるようです。
そのワケは読めばわかります。
本一冊読んだぐらいでは理解できないし、何も状況は変わらない
のですが、金融経済に隷属するのではなく、生身の実体経済に
堅実に取り組むことの意義を感じられただけでも「大収穫」
でした。
実は歴史小説好きでして…。
でも、ツボにハマっちゃうと夜も昼もその世界が頭から
離れなくなってしまうんで、ちょっとためらってました。
先日、火坂雅志が「沢彦」のことを書いていたくだり
を読んでいたら、急に読みたくなって手に取ったら、やっぱ、
ここ2、3日、頭の中は一時的にマイブームの嵐。

File No.26
『沢彦』上・下 火坂雅志(各690円)小学館文庫 
オススメ度 ★★☆☆☆

沢彦宗恩(たくげん・そうおん)ってだれ?と思われる人が
ほとんどでしょうが、かく言う私もその一人。
それもそのはず、ごく一部の史料にしかその足跡は残って
おらず、大部分がナゾに包まれた人物なのです。
残っている足跡とは、
・織田信長の少年期における学問の師をつとめた禅僧
・稲葉山城のあった美濃を「岐阜」と命名
・信長に「天下布武」のスローガンを授けた
など、ごくわずかですが、筆者は、それらをヒントにして、
沢彦を信長の影のプロデューサーであったと見立てて
ストーリーを展開しています。
戦国時代、それも最も光彩を放った信長を柱に展開します
から、面白くないはずがありません。
それにしても信長って猜疑心の強い男だったんですねえ。
その猜疑心からくる非情な仕打ちに対する恐怖だけが、
部下の忠誠をつなげていたんではないでしょうか。
作中にも出てきますが、信長は、天の時、地の利は得たが、
人の和は得られなかった、と。
「天地人」の愛と義、とは対極の世界を見るような感じです。
さらに興味深いことは、作者がこの真逆の世界をほぼ同時期に
書いていたということ。火坂雅志は複眼的な洞察と奥深い精神
を宿していますねえ。これからますます目が離せなくなりそう
です。
さて、物語の結末はやはり本能寺。「う〜む」とうなるような
エンディングが待っていますよ。
さらに蛇足ながら。
火坂雅志の小説って、どこかに司馬遼太郎のニオイがかすかに
しますねえ。でも明らかに違うのは、司馬がほとんど書かな
かった男と女の「濡れ場」を火坂は書いていること。
同作でも2人の女との逢瀬を描いていますが、そのうちの一人
は「えっ〜、まさか?」と思いますよ、ホント。



...もっと詳しく
日本人ぐらい展覧会好きの国民はいないんですって。
確かにそうかも知れません。
私も10代の最後の頃に観た「ロシア美術展」の感動が
忘れられず、それを引きずりながら今に至っているわけで。

File No.25
『現代アートビジネス』小山登美夫(アスキー新書 743円) 
オススメ度 ★☆☆☆☆

これも昨年旋風を巻き起こした新書のひとつです。
これまで良くわからなかったアートビジネスの世界を平易に
解きほぐしてくれます。
画商とギャラリストの違い、はじめて知りました。
わが国における世界的な現代アーティストである村上隆や
奈良美智がデビューしたいきさつなどは、かなり興味深いものが
あります。
あと、アートとその値段の仕組み。プライマリー・プライスと
セカンダリー・プライスの妙。
さらには、アート・ファンドまで存在するというオドロキの事実。
筆者は、日本のアートマーケットがこれからも成長していく上で
必要なのは「経済界との連携」だと言ってます。
要するに、経済界の成功者がアーティストをパトロネージュして
いく責務があるのではないか、そうして行かなければ、日本の
アーティストやアート・ビジネスがいつまでも国際基準にならない、
ということなのでしょう。
良くわかる話です。
でも、現下の状況はどうなのでしょう。
何億、何十億というアートへの投資ができる一部富裕層だけで
あって、ほとんどの企業人はそんな状況にはないのでは…。
まあ、きっと、昨年の秋以前にこの本を読んだら、感想もまた
違ったものになっていたでしょうが…。
気に入った絵画を所有したいという欲求は私にも強くありますが、
現実はそれをなかなか容易にしてくれないのです。
所有できないから、せめて美術展にでも行って、ひとときの至福
を味わおうといういじましさを、私は全面的に肯定します!
近年は「新書」ばやりで…。
立ち読みした「新書大賞」なる本に、最近(今年度?)のランキング
が載っていました。うわあ〜、ベスト50にランクインしている新書
でも読んでないものがけっこうあるんです、これが。
ぶっくぶくとしてはちょっとばかりショックだったりして…。
さっそく5、6冊買ってきて読み始めました。
まずは、栄えある第1位に輝いた新書から。

File No.24
『ルポ貧困大国アメリカ』堤 未果(岩波新書 700円) 
オススメ度 ★★☆☆☆

昨年読んだ『アフリカ・レポート』と同種の面白さでしたね。
つまり、外国を飛び歩く才覚も金も時間も度胸もなく、外人と話す
ツテも機会も語学力もない私にとって、諸外国の事情通やジャーナ
リストらが書くこの種の本には、すごく興味と感心がわくのです。
何せ、自ら体験できないことなのですから。
読むほどにオドロキですね、アメリカの現状は。
貧困が生む「肥満」、「難民」、医療で瓦解する家計、学資ローンで
未来を閉ざされる学生、過度に進んだ民営化を象徴するビジネスと
しての戦争など、アメリカが抱える貧困の深刻さをみごとにルポル
タージュしていて、最後まで興味が途切れることなく読み通せます。
例えば、なぜ貧困が肥満を生むのか?
それは、お金が無くてジャンクフードばかり食べるしかないから。
なぜ、妊婦は日帰り出産なのか?
それは、医療費が高すぎてとても入院なんてできないから。
さらにオドロクべきことは、貧困から抜け出す方法は、もはや兵士と
なって、あるいは戦争専門の派遣会社の派遣社員になって戦場に
赴くしかないという事実。そこには、イデオロギーもポリシーも
愛国心もなく、ただ食わんがための命がけ。
かつては、「アメリカンドリーム」に象徴される自由と希望と夢が
あふれるようなイメージの国だったのに…。
まあ、これもひとつの面であり、一方では、天文学的なギャラを
とっている大企業のCEOやプロスポーツ選手なども存在するわけで、
ごく少数の人にアメリカンドリームはまだ生きているのでしょう。
でも、彼我の格差はとてつもなく広がっていることを感じさせます。
今もってアメリカは日本の5〜10年先を行っている(社会現象も
含めて)と良く言われていますから、日本も明日は我が身なのかも
しれません。
久々の★3つ、と思ったのですが、最後の方で、ちょっとイデオロギー
っぽい内容が気になりダウン。

先日、映画「おくりびと」がアカデミー賞を受賞して、
日本もわが山形県も沸きましたねえ。
映画も連日満員、葬祭業の志望者急増という、ちょっとした
社会現象も引き起こしているようです。
が、そのルーツになったものは、きわめて精神性の高い一人の
人間のドキュメント?です。

File No.23
『納棺夫日記 増補改訂版』青木新門(文春文庫 467円) 
オススメ度 ★★☆☆☆

私も少しミーハーなもんですから、オスカーをとった話題作を
観てみたいと思っているのですが、なかなか上映時間に行けなくて、
まだ観ていないのです。
それじゃあ、せめて本でも、と思い本屋さんに行ったら、この本と
そのものズバリ『おくりびと』(映画の原作?)のふたつがあり
ました。映画主演の本木雅弘が15年前に読んで感動したことが
「おくりびと」の誕生につながったという同書の方を迷わず買った
のですが…。
予想とはウラハラに、きわめて精神性の高い内容でした。
筆者は、大学を中退し、事業にも失敗、子どものミルク代にも
事欠く有様だった時、ふと目についた葬祭業の社員募集に
応募します。そこで直面したのは生身の死体と接する毎日。
否が応にも「生と死」を見つめ考えることとなります。
宗教的思索、詩的純化を重ねながら、筆者はある境地に達します。
「末期患者には、激励は酷で、慈悲は悲しい、説法も言葉も
いらない。きれいな青空のような瞳をした、すきとおった風のような
人が、側にいるだけでいい」
きっと納棺夫としてのエピソードを中心に構成されているんだろう
という予想は、みごとハズレました。
でも、映画を観た人も、まだ観ない人も、この本を読むことに
よって、「生と死」を改めて考える機会になり、結果、映画そのもの
もより深い「光」を放つのではないでしょうか。
(「光」が同書のキーワードのひとつでもあります)
この本が最初に出版されたのは1993年。15、6年後にこうして
日本のみならず世界の注目を浴びることになるとは思いもよらなかった
ことでしょう。


3月10日は何の日?と問われたら「公立高校の入試。
あとは…?」とこたえる人が多いのではないでしょうか。
私もその一人、でした。
それが、以前にも書いた、東京都慰霊堂に行ってから
考えが少し変わりました。
その帰り道で買ったのがこの本で、3月10日に読もうと
決めていました。

File No.22
『空爆の歴史-終わらない大量虐殺』荒井信一(岩波新書 780円) 
オススメ度 ★☆☆☆☆

空爆、いわゆる飛行機からの爆弾攻撃の最初は、1911年の
イタリア・トルコ戦争におけるイタリア機からの手榴弾投下だった
とのことですから、およそ100年の歴史ということになります。
その間、むごたらしいまでの大量殺戮を繰り返してきたことを
つぶさに検証し、その不法性・非道性を、きわめて客観的に主張
しているのが同書の内容です。
空爆といえば、とくに、第二次世界大戦におけるドイツ、日本、
朝鮮戦争における北朝鮮、ベトナム戦争における北ベトナムなど
が甚大な被害を蒙りました。もちろん、日本も加害者側の時も
あったわけで…。
さて3月10日。ご存知の方もいると思いますが、1945年の
同月同日は「東京大空襲」に見舞われ、史上まれにみる10万人
という死者を出しました。
東京都慰霊堂には、B29が投下した大量の焼夷弾によって紅蓮の
炎に包まれる下町や、一面焼け野原になった東京の街などを彷彿
とさせるような資料・絵画・写真などが展示されています。
同年8月には、広島・長崎に人類史上初の原爆が投下されました。
これについて筆者は、
「投下決定の重み-数十万の人々を殺すことに対する畏怖を
アメリカの最高指導者たちが、どれだけ身にしみて感じていたか、
大きな疑問を感じざるをえない。広島・長崎への原爆投下の結果、
1945年が終わるまでに死んだ被爆者は22万人前後と推定
されている。世界の軍事史上でもまれな大殺戮である」
と、同書中唯一と言っていいほど、筆を熱くして糾弾しています。
戦争体験者の多くが鬼籍に入ろうとしている今、こうした本を
通じてその悲惨さ・愚かさを次世代である私たちが自身に刷り
込んでいかなければならない、と再認識しました。
決して気軽に読める内容ではないので、オススメ度は★ひとつ
ですが、読む意味は大きいと思います。
私としてはもうひとつ収穫がありました。
それは、東京都慰霊堂に行ったとき、「何で関東大震災と
東京大空襲が一緒になっているんだろう?」「このモニュメント
は何を意味しているんだろう?}という疑問が解けたことです。
それはまた別の機会にでも。
何年前になるでしょうか、TVドラマ「高校教師」が
一世を風靡したのは。なつかしいですよね、アノ切ない
感覚。あのドラマの脚本家が野島伸司。
TVドラマなんてほとんど観なくなって久しいので、
彼のその後の活躍はあまり知らないのですが、今日
はじめて本を読んで、脚本もいいけど、ストーリー
テラーとしてもさえてるなあって思いました。

File No.21
『スコットランドヤード・ゲーム』野島伸司(小学館文庫 600円) 
オススメ度 ★★☆☆☆

この本の題名になったスコットランドヤードっていうのは、たしか
イギリスの警察のことだったのでは、とウロ覚えの記憶がありましたが、
警察が怪盗を追い詰めるボードゲームだったとは知りませんでした。
バックギャモンは良く知ってましたが。
このゲームのルールにならって、24のターンで男と女が寄り添う
ようになる趣向になっています。
最初のうちは、「なんか女子中学生向けってカンジ」でしたが、
中盤からやや後半にかけて、「エッ〜、ウッソ〜」っていうような
予想もつかなかった急展開が待っていて、物語はメインテーマに
向けて、まっすぐと、そして急速に進んでいくのです。
それは、「別れても、離れても、死が引き裂いでも、相手の幸福を
祈る。そこには嫉妬も執着も束縛も、苦しみも悲しみも、ましてや
憎しみなど、微塵もない」というクッキーこと夏彦のセリフに
集約されています。心の呪縛を解き放ってくれる物語なのです。
でも、この急展開を最初から予感していた読者がいるとすれば、
そのセンスやカンに自身持っていいと思いますよ。
セリフのテンポもいいですねえ。さすが脚本家。
私なんか、少しカッタルく感じてしまうところもあるんですが、
それは歳のせいでしょう、たぶん。
「若い」ことだけに羨望する気持ちはさらさらないのですが、
私とそう大差ない年齢の作者が、これだけのみずみずしい
ストーリーを描けることには、素直に脱帽!

刺激と欲望ばかりがトゲトゲしく渦巻く世の中に
あっても、純粋なものに感動する心がある限りは
救いがあるんでしょうね。
「心はピュアに、言葉は夢を、そして行動はリアルに」
ありたいものです。

File No.20
『海を抱いたビー玉』森沢明夫(小学館文庫 580円) 
オススメ度 ★★☆☆☆

これだから、物語読みは止められないんです。時々、
まったく忘れてしまったような感覚を呼び覚まして
くれるようなことがあるんですねえ。
この本もそうです。
全編を通じて流れる「スタンドバイミー」のような雰囲気と
少年のころに誰しもが持っていたみずみずしい感性…。
「モノには<魂>が宿っている」ことを、実話にもとづいて
構成したこの物語の世界にどっぷりと浸かるには、私たち
自身の心をピュアにしていかなければなりません。
そう出来なくなった人は、きっと退屈してしまうでしょう。
そして、その人の心は、かなり赤に近い黄色信号かもしれ
ません。
かく言う私も、なかなか心に馴染まなかったのですが、
最後の「山古志(二)」では、胸にグッとくるものがあり
ました。
この物語の主人公?であるボンネットバスが、
「だれかに愛されて幸福だったからこそ、<魂>が生じた
のだった。そう、ボクはみんなに愛されている。生きている
ことそのものが、その証拠じゃないか」
と言うあたりがひとつの佳境でもあります。
蛇足ながら、この本のジャケットもオビもいいですよ。
でも、「題名にある『ビー玉』って?」と疑問に思うで
しょうが、これが、ひとつのキーなんですよ。
読んでみればわかります、ビー玉の意味が。
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