ぶっくぶくの部屋

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昨年仕込んだ「あんず酒」が飲みごろになった。
仕込んで数ヶ月のもフレッシュでいいが、
1年以上熟成したものがオレは好きだ。
風呂上りに氷を入れてキュッーとやるるのがいい。
ただ、口当たりが良いので、ついつい飲み過ぎるのが
タマにキズ。

File No.153
『開国前夜 田沼時代の輝き』鈴木由紀子(新潮新書 720円)
オススメ度★★★☆☆

地元作家鈴木由紀子サンの作品を取り上げるのは、たしかこれで
3回目。
今回の作品は6月20日に上梓したばかりの最新刊。
日本の近代化へのターニングポイントである明治維新。
その胎動は、およそ100年前の田沼時代からあったという
趣旨で、田沼意次や平賀源内、杉田玄白、池大雅、最上徳内などの
人となりやその行状、功績などを、史料を丹念に渉猟しながら
追っていく。
いつもながら、彼女の史料の読み込みには感心させられる。
歴史小説家にとって、史料の読み込みは基本中の基本なのだろうが、
そこには、インスピレーション(センスとも言い換えられる)、
コンセプト、構成、ストーリー、情緒、そして何よりも情熱が
要る。
実は、そこがオレのような凡人では、なかなかはかり知れない
ところなのである。
本書は、コンセプトが明確に立っていて、登場人物それぞれの
人生や「仕事」の足跡が、みごとにそこに収斂されている。
取り上げられた人物の人生もなかなか面白く、興趣が尽きない。
とくに、平賀源内の人生なんて、毀誉褒貶、波乱万丈というような
形容詞がピッタリくるほど面白い。
田沼意次という人物の観方にも共感をおぼえる。
田沼意次というと、「賄賂」「金権」というようなダーティな
イメージを抱く人が多いかも知れない。
オレたちが学生の頃もそういう教え方をされたので、仕方の
ないことかも知れない。
オレ自身も、ずうっとそういうレッテルを貼ってきたような気が
する。
でも、10年ぐらい前に、山本周五郎の『栄花物語』を読んでから
観方が変わった。
『栄花物語』は、身に沁むような孤独や、息子を誅殺されるという
絶望の淵に立たされながらも、頑なまでに己の意志を貫き通し、
幕政改革に身命を賭していく田沼意次の姿が描かれている。
『樅の木は残った』と同様に、独特の山本周五郎史観ではあるが、
そこには、作家のほとばしるような熱を感じる。
鈴木由紀子サンも、田沼意次を決して悪意では見ておらず、
重商主義へ転換しようとした近代的政治・行政のさきがけ的存在
というような見方をしている。
不肖ながらオレもまったく同感。

ところで、地元で創作活動をしておられる鈴木由紀子サンは、
オレん家からさほど遠くないところに居を構えておられる。
散歩や自転車で通る度に、この家で、膨大な史料と格闘し、
思考に沈潜し、言葉を紡ぎだすというクリエイティブな仕事を
されているのだなあ、と思うと、自然と畏敬の念に打たれて
しまう。
彼女の出世作『闇はわれを阻まず 山本覚馬伝』の感動の余韻が
まだ覚めやらずではあるが、それを凌ぐような壮大で情熱的な
歴史ドラマを紡ぎだしていただきたいものだと願っている。

余談ながら…。
この本がちゃんと地元の書店に並んでいるかどうか2、3店
チェックしてみたら、感心なことに全部複数冊置いてあったので
ひと安心。
でも、ある本屋では逆さに積んでいたりして…。
オレは自分のズグダレは棚に上げて、こういう無神経さが気に
障ってしまうタチで…。
そりゃもう、読ませていただいたお礼に、ちゃんと積み直して
おいた。
並べるだけでなく、ちょっと気の利いたPOPでも付けてくれれば
もっといいんだけどなあ…。

2010.07.02:ycci:count(785):[メモ/コンテンツ]
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