ぶっくぶくの部屋

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もうすっかり春へまっしぐらと思っていたところに
雪が降った。今夜から明日にかけて、ところによって
大雪になるらしい。
オレの「輪春」は、ふたたび遠くなりそうだ。
輪春って、球春にならったオレの造語。
つまり、自転車に乗れるシーズンインの意味。
ああ、キャンディブルーの新車がオレを待ってる。

File No.127
『ほかならぬ人へ』白石一文(オール読物2010年3月号 960円)
オススメ度★★★★☆

これも、前回取り上げた佐々木譲の『廃墟に乞う』とともに
第142回直木賞受賞作品。
今まで白石一文の作品を読んだことがない、と書いたが、
正確に言えば、最後まで読んだことがない、ということ。
本を買うには買ったが、数頁読んでほっぽってしまった。
その理由は、簡単に言うと、言い回しが小難しいこと。
いくら高尚なことを書いても、多くの人に伝わらなければ
ダメじゃないの、というのがオレの持論でもあるので、
このテはちょっと苦手かなって…。
そんな先入観が少しあって、読もうか読むまいか、
迷いながら読み始めたら、こ、これは表現も筆致もスムーズ
で読みやすい。しかも、ストーリーも自然でわかりやすく、
且つ、すごく面白かった。
読んで良かった。
主人公の宇津木明生は、名家の三男に生まれるが、小さいときから
生まれそこなったのではないかと、家族の中で疎外感を感じて
いた。
ふとしたことでキャバ嬢と出会い、両親から絶縁して結婚して
しまう…、とストーリーはごくフツー。
でも、この小説の趣向は、主人公の明生をはじめ、次兄の靖生、
明生の結婚相手のなずな、明生の幼馴染の渚と、自分が想ってる
以外の人では絶対ダメという人間が多く登場し、愚かしくも
あり、滑稽でもあり、悲惨でもある生き方を繰り広げていく。
そして、いずれもが、相思相愛とはいかなくて、哀しい道を
ひたすら歩み続けてしまう。
付き合ってる相手、結婚相手に対して、「ホントにこの人な
のか?」という自問は、多くの人の深層に絶えずあるのでは
ないだろうか。
そして明生も、そういう無限地獄の中に吸い込まれていくの
だろうか…。いや、明生は…。ここが、この小説の大きな
ヤマ場となる(だから書けない)。

著者の白石一文自身も、パニック症候群に罹り、最初の
結婚に失敗し、元妻と長男と別離し、永らく会っていない
という。そんな、自身の経験・苦悩・煩悶が、今作のベース
になっているのではないだろうか。
そして、この著者、オレと同時代の男でもある。
むろん、キャラクターはまるっきり違う(と思う)が、
同時代の雰囲気を感じさせるものがある。
そうした、ある種の共感めいたものと、読まず嫌いだった
お詫びも込めて、直木賞受賞ご祝儀相場の四つ★!


2010.03.09:ycci:count(964):[メモ/コンテンツ]
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