ぶっくぶくの部屋

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戦後の昭和はまさに日本あげての野球狂の時代。
とくに昭和33年に東京六大学のスター長嶋茂雄が
ジャイアンツに入団してからはさらにヒートアップ。
少年野球ではみんな3番をつけたがった。
昭和40年代には防犯野球が盛んで…。
なぜ防犯野球なのかと言うと、夏休みにヒマ持て余してると、
非行に走りがちということで、その非行防止の一環として
少年たちを野球に没頭させたらしい。
その防犯野球で、小6の時にやっとサードのレギュラーに
なって、ユニフォーム買ってもらって、勝手につけた
「16番」で、いざ市営球場(今の西部球場)へ。
すると、コーチ役の高校生が、
「オマエ〜、なんで16番なんだよっ!」
「だ、だって、星飛雄馬が…」
その直後、栄光の背番号を無理やりはがされ、おろしたての
真っ白なユニフォームにマジックで「5」を書かれた。
ウルウルで出た試合は、トーゼン惨めな結果に…。
あとは、お決まりの「ケツバット」。
かくして、オレの最初で最後の先発試合は終った。

File No.123
『左腕の誇り 江夏豊自伝』波多野勝・構成(新潮文庫 629円)
オススメ度★★★☆☆

ってなワケで、その後の少年期・青年期は、ひたすらジャイアンツ
への強烈な想いを込めて、テレビにかじりついてた。
ジャイアンツの選手はみんな大好きだった。
時おりしもV9時代で、ジャイアンツは強かった。
でも、敵もさるもの、対ジャイアンツ戦は各チームとも絶対的
エースをぶつけてきた。
その一人が、阪神のエース江夏豊である。
この自伝でも書いてるけど、江夏はジャイアンツ戦で燃えた。
とくに、世界のホームラン王・王貞治を終生のライバルとして
意識し、闘志をむき出しにして投げた。
その闘いは、子どもの心をも熱くさせた。
「敵ながら、江夏ってスゴイ!」
日本プロ野球史上、最高の投手は誰?というと、個人的好みは
いろいろあるにせよ、400勝投手の金田正一をあげる人が
多いだろう。
しかし、幸か不幸か、オレは金田の全盛時代を余り良く知らない。
江夏の全盛期なら記憶にある。
高卒でプロ入りして2年目に、25勝をあげ、401の奪三振。
この奪三振記録は未だに破られていない。
たぶん、これからも破られることはないんじゃないだろうか。
さらに驚くべきことは、ほとんど直球しか投げていないこと。
今で言うと、150km/h超の剛速球で、バッタバッタと
三振のヤマを築きあげていく雄姿には、畏怖さえおぼえた。
そして圧巻は、オールスターでの9者連続奪三振という金字塔。
だから、オレの中での最高の投手は、断然江夏豊なのである。
剛速球で押しまくった阪神時代、配球と迫力で優勝請負人と
なった広島時代、いずれも「瞬間最大風速」かもしれないが、
プロ野球選手は、ファンの記憶にどれだけ永く鮮明に残るかが
「真価」なんだと思う。
言い方を変えれば、オーラ(=存在感)がどれだけ強いかが
すべてではないかとさえ思う。
この本を読むと、江夏は天才と呼ばれるだけに、相当なワガママ
だったことがうかがえる。
だから、各監督ともあまりうまくいかなかった。
阪神・南海・広島・日ハム・西武とわたり歩いて、何人もの
監督の下でプレーしたが、その人柄や人格・行動・考えに対する
江夏の評はきわめて辛辣だ。
その中でも、阪神の藤本監督、南海の野村監督、日ハムの大沢監督
(大沢親分)とは、比較的良好な関係だったようだ。
天才江夏と言えども、何回もの挫折に苦しみ喘いだ。
そんな時こそ、指揮官のケアが重要になる。
そういうことに対して、江夏は人一倍ナーバスだったように思う。
この本は、波多野勝による時系列的な江夏の戦歴がベースにあって、
その間に江夏自身の回想をはさむというスタイルをとっているため、
読み物としてのクォリティも高い。
三文ゴーストライターに書かせたような、そんじょそこらのありふれた
自伝とは一線を画している。
ただ、いかんせん、江夏の個性がそのまま出てしまってるような
ところもあって、少しドロドロとした印象も残ってしまう。

数年前のある日曜日に、夏の甲子園地区予選を皆川球場に観に行った。
歓声・白球・陽射し、そして高校生の真剣なプレー、そういった
球場全体の独特の雰囲気に久々に浸って、少しばかりジーンときた。
やっぱ、野球って、特別なスポーツなんだ。
とくに、真ん中のマウンドに立っているピッチャーは、特別な
選ばれし者だ。
「真っ向勝負!エースなんだぞお!」
って、自分も周りもびっくりするような大声で叫んでしまった。

い、いかん、野球となるとついセンチメンタルになっちまう…。



2010.03.06:ycci:count(1,109):[メモ/コンテンツ]
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