ぶっくぶくの部屋

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先週、東京から来た客人と待ち合わせた。
ちょっと遅れて待ち合わせの場所に行ったら、
かの氏はオレに気付かずに一心不乱に本を読んでいた。
数分後ようやく顔を上げて、オレに開口一番、
「おっもしろいな、この本。読んだ?」
と表紙を見せたのが『天地明察』。
実は、その数日前にオレも買ったばかりで、まだ読んでなかった。
「…ま、まだですけど…」
「なあんだ、そうなの。もうすぐ終るからちょっと待ってて。
いま佳境なんだよ。そうそう、この次読む本がコレ」
ってカバンから出した本が、これまたオレもその次に読もうと
同時に買った本。
世の中は広いといわれているけど、意外と狭い。

File No.114
『天地明察』冲方 丁(角川書店 1800円)
オススメ度★★★☆☆

「ネオ時代小説」と世間の耳目を集めているのがこの本。
先日のNHKニュースにも作者が出ていた。
かなり若い。たぶんオレよりひとまわり以上年下では。
まあ、少々才気走った作品かなと読み始めたら、
なるほど、これはベストセラーになるわなっていう納得の
内容だった。
単行本で500頁にも及ぶかというほどの長編だが、終始
飽くことがなかった。
これは、江戸時代前期にわが国初の「暦」を作った渋川春海
を主人公とした物語である。
渋川春海は実在の人物だが、オレもこの本を読むまでは
よく知らなかった。
「暦」と一口で言っても、それは、陰陽道や神道、天文学、
算術などを駆使するもので、当時の科学や知識の粋を集めて、
その上、政治的な戦略も総合して作られたことがわかる。
春海は囲碁でもって幕府・将軍に仕える御用碁師の家に
生まれるが、囲碁には飽き足らず、様々な学問、とくに
算術にのめり込んでいた。
ある日、時の老中酒井忠清に召され、碁を指導していた折、
酒井から
「退屈でない勝負が望みか」とナゾをかけられる。
そしてほどなく、「北極出地」と言われる全国各地での
星の観測の旅に出される。
それが、春海の20年余にもわたる苦しい闘いのスタート
となる。
まさに挫折に次ぐ挫折。
でも、その時どきにいろんな人たちが春海の支えとなる。
もうこれまでか、と思われた最後の大挫折の時は、「和算」
の創始者として有名なかの関孝和が大きな力を与えてくれる。
はじめは、一介の碁師が武士たちの間で翻弄され恫喝され
オロオロ、オドオドしっぱなしだったが、幾たびの挫折から
這い上がることによって、春海は「士気凛然、勇気百倍」の
逞しいリアリストになっていき、そしてついに…。
時代小説・歴史小説というと、どうしても「剣」とか「戦」
とかいわゆる「武」の部分が華やかに強調されがちだが、
これはあくまで「文」で世の中を変えたことにスポットを
あてた出色の作品である。
やはり、男子たるもの、かくあらねばならぬ。
せめて気持ちだけでも…。
そして、自分の仕事に全身全霊を傾けている人は、決して
周りが見放さない、ということなのだろう。


2010.01.24:ycci:count(1,006):[メモ/コンテンツ]
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