ぶっくぶくの部屋

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ある方からの年賀状に、
「『坂の上の雲』を20代・40代・60代と3回読んだ。
3回目となった今回、米沢が生んだ海軍軍人山下源太郎の
項をはじめて意識して見つけた。貴君の言う通りだった」
と書いてこられて、ちょっとうれしくなった。
でも、オレはあの長編をもう一度読むパワーと時間に
自信がない。
NHKのスペシャルドラマを観て、2回読んだことにすっかなあ。

File No.105
『ひとびとの跫音』司馬遼太郎
(文芸春秋 司馬遼太郎全集50 3398円)
オススメ度★★★☆☆

この本は、正岡子規の死後、彼をとりまく人間の後日譚であり、
言うならば、『坂の上の雲』のメイキングフィルムのようなもの。
正岡子規は、肺結核に脊椎カリエスを併発し、壮絶な苦しみの
中で、34歳で夭折した。
その看病に一身を捧げたのが、妹の律。
ドラマでは菅野美穂が演じていた役。
彼女は、子規の死後、どんな人生を歩んだのか。
なんと、学校に入り直し、学問と技能を修め、母校に残り、
事務員から教員となり、女子教育に後半生を捧げたらしい。
勝気で気丈な女性だったから、その教育もきわめて厳格だった
ようだ。
二度の離婚を経た後は、生涯独身を貫く。
正岡家を遺すために、律は養子を迎える。
それが、この本の中心人物である忠三郎。
この人は、不思議な魅力をたたえており、司馬もかなり好意を
込めて書いている。
今で言う高学歴にもかかわらず、ほぼ一生を百貨店の一店員で
終えた。しかも、婦人服売場や陶器売場の店員だったらしい。
正岡家の継子でありながら、決しておごらず、むしろ、世の中に
逼塞しているような感じで、名声や金銭など世俗的な欲からは
距離を置きながら、清々しい生き様だった。
この忠三郎の親友ともいうべき人間がタカジこと西沢隆二で、
この作品のもう一人の中心人物。
タカジは、日本共産党幹部として迫害を受け、長い獄中生活を
余儀なくされた詩人にして党人、晩年は自由人というべきか。
この二人に共通しているのは「透明感」。
生き方にケレン味がなく、気負いがなく、欲がない。
司馬自身、この二人と浅からぬ交流があり、黄泉の国に送る
役も果たしている。

英雄豪傑の話も確かに面白い。
が、それはほんのひとにぎりの人で、ほとんどの人々は
世間にそう名も知られずにひっそりと生きている。
ひっそりとではあるが、自身の信念を持ち、秘めた闘志と
夢を持ち続け、些事にこだわらず、ハッタリをかまさず、
等身大を常に意識して生きている人々。
こういう人の生き様を見るのもいいもんだ。
オレにはとうてい出来ないことだからだろうが…。
やっぱ、明治の日本人は、男も女も気骨があるなあ。


2010.01.02:ycci:count(966):[メモ/コンテンツ]
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