ぶっくぶくの部屋

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太宰を読むなんて何年ぶりだろう。
おそらく学生時代以来のことだから、30年ぐらいご無沙汰
していたんじゃあないかと思う。
太宰って、何か若い時代に読むものというへんな意識があって…。
30年前の感覚は取り戻すべくもないが、この歳になっても
それなりの味わいがあるもんだ。

File No.83
『ヴィヨンの妻』太宰 治(新潮文庫 362円)
オススメ度★★☆☆☆

ご存知のとおり、東北芸工大のセンセイでもある根岸吉太郎監督
による『ヴィヨンの妻』がまもなく公開になる。
なんと、モントリオール世界映画祭の監督賞をとったそうな。
『おくりびと』といい、『天地人』といい、まさに「山形現象」だ。
もしかして『山形スクリーム』もそうだったりして。
で、どんな内容だっけ?と思い出そうとしていたら、まだ
読んでいないことに気が付いた(マヌケなはなし)。
で、さっそく。
これ、なかなか面白い。
いろんな解釈ができそうだが、難しく考えるなら、太宰なりの
新たな「家庭」とは、という試みかもしれない。
シンプルに考えるなら、妻の深い寛容の「愛」かもしれない。
なんせこのヴィヨン(大谷という亭主)は、毎日飲んだくれて
飲み代は踏み倒すわ、みさかいなく女に手を出すわ、何日も
家に帰らないで妻子はかえりみないわで、もう笑ってしまう
ぐらい勝手放題。
妻は、夫が愛人とよく行く飲み屋で働き始め、そこで夫と
たまに顔をあわせ、話したり、飲んだりすることに、ちょっとした
幸福を感じている。
でも、こんな寛容の愛をもった女ゆえ、他の男にも抱かれてしまう。
死への強迫感が拭えず破滅的になってさえいる亭主に放つ最後の
妻のセリフが、
「人非人でもいいじゃないの。私たちは、生きてさえすればいいのよ」。
魂が抜けたような感じになっている浅野忠信(大谷)に、妻役の
松たか子がこのセリフをはくシーンは、おそらくこの映画でも
クライマックスのところだろう。
ん〜、想像すると、結構ハマっていて、いい感じなのかもしれない。

この文庫本には、表題作のほかに、太宰の絶筆となった『桜桃』など
いくつかの短編が収録されている。いずれも晩年?の作で、死への
予兆めいたものを感じる。
そうして、この一連の作品を書いて間もなく、太宰は愛人と
玉川上水で入水自殺(心中?)するのである。齢39歳。
それ以前にも、心中未遂(自分だけ助かった)をはかっており、
終生死への強迫感を拭えなかったようだ。
今年は奇しくも太宰生誕100年にあたる。
小説でも、映画でも、たまに太宰の世界に浸るのも悪くないかも…。


2009.10.07:ycci:count(1,005):[メモ/コンテンツ]
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