ぶっくぶくの部屋

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学生時代、東京の市谷会館で数ヶ月バイトをしたことがある。
たしか、奈良斑鳩に行く費用を稼ぐ目的だったと思う。
なぜか自衛隊関係のお客さんが多いな、ぐらいにしか
感じていなかったが、そこが、あの三島事件の舞台の
ひとつだったとは、この本を読んで始めて知った。

File No.74
『五衰の人 三島由紀夫私記』徳岡孝夫(文芸春秋 1600円)
オススメ度★★★☆☆

三島事件と言っても、若い人はあまり知らないのかも。
もうあの日から早や40年が経とうとしている。
オレはその頃小学生。
三島由紀夫なんて作家がいることさえ知らなかったのに、
自衛隊市谷駐屯地で白昼に割腹自殺し、同志に介錯させた
という衝撃的ニュースに騒然とした覚えがある。
何でなのか、余り考えることなどなかったが、この本を
読んで、「うむ〜、そういうことだったのか」って感じ。
著者は、当時『サンデー毎日』の記者(デスク)で、
三島由紀夫と少なからず交流があった。
ためか、その決行の日に三島の「激」を託されることとなる。
ジャーナリストとしての客観的な視点と、三島への静やかな
想いが節度を持ちながら伝わってくる秀作である。
三島は最後となる作品『豊穣の海』を書き終えてから、
きわめて計画的に決行に至った。
三島を突き動かしたもののひとつが「陽明学」であるとしている。
「陽明学」の理論的な柱は「知行合一」。
つまり、思想を机上や書斎の中だけに終わらせず、自ら行動に
移すこと。かなり危険でもあり、異端の儒学とも見なされる
所以である。
三島は、終戦後、日本の良き伝統と誇りと品格が失われていく
ことを憂いていた。それを作家活動だけで終わらせず、最後は
自らの死をもって警鐘を鳴らした。
その真意は伝わったのか、思想そのものが変ではないか、など
今もって捉え方や考え方は人それぞれに違う。
そして自らが生前予言したように、世間からは忘れ去られて
しまっている。
オレ自身も忘却の彼方にあった40年前のあの衝撃的な事件を
もう一度思い起こす機会となった。


2009.09.12:ycci:count(936):[メモ/コンテンツ]
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