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身につまされる
徳岡孝夫の書く文章が昔から好きだ。
文春のオピニオン誌『諸君!』の名物コラム「紳士と淑女」は
いつもオレの溜飲を下げてくれた。
『新潮45』への寄稿文も痛快なものだった。
まさに硬派の論客にして文章家。
そんな彼が、亡き妻へのレクイエムを書いた。
File No.71
『妻の肖像』徳岡孝夫(文春文庫 552円)
オススメ度★★★☆☆
『漱石とその時代』や『海は甦る』を読んで感銘を受けて以来、
尊敬する日本の知性の一人となった江藤淳。
かれも何年か前に妻を亡くし、『妻と私』を書いた。
哀切に満ちた内容だったが、知性の人が何でこんなにも
ボロボロになるのか、とちょっと不可思議でもあった。
その後、江藤淳は妻の後を追うかのように自殺を遂げた。
オレには、言いようのない違和感のようなものが残った。
徳岡もそうなのか、と思いきや、妻を想う気持ちは
江藤に負けず劣らずだが、切々たるセンチメンタリズム
だけに終わっていない。
やはり、どこかにジャーナリスト魂が息づいている。
前作『薄明の淵に落ちて』もそうだった。
片眼失明、片眼視野狭窄と弱視、という物書きにとっては
致命的とも言える障害に陥っても、湿った泣き言にならず、
泰然として運命を甘受する姿勢には、身体をはった知性を
感じる。
まさに、文は人なり。
この本には、新聞記者としての駆け出しの頃から、妻を
見初めた頃、新婚時代、度重なる転居と子育て、初老期、
そして妻の病・死に至る45年余の思い出を綴っている。
まるで、亡妻へのレクイエムのように。
妻との今生の別れに徳岡が言ったことば
「和子、また会おう。近いうちに」。
うむ〜、なんか身につまされるなあ。
人は誰しも別れがいずれやってくる、という至極当たり前の
ことだけど、常には意識したくないことを改めて考えさせて
くれる秀品でもある。
2009.08.25:
ycci
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