天地人

▼陽春まだ遠し

数日前に上京した折、とある庭園のカワヅザクラが満開に
なっていた。そもそも早咲きで小さく可憐な花をつけて
いるので、そんなに目立たないが、春を実感させることに
かわりはない。
この庭園、20日から桜まつりとなり、庭内のいろんな
桜が次々と花を咲かせていくようだ。
旧所有者である某宮家の優雅な趣向の名残りでもある。
一方、ここ米沢…。
さすがに街の中はめっきり雪が少なくなってきたが、
我が家のあたりはまだメーター級の雪がもっこり。
もうお彼岸だと言うのに、今日は時折よこなぐりの吹雪。
毎度のことながら、なんたる彼我の差。
でも、この雪が清冽な水資源を生み、豊饒の実りをもたらして
くれるのだと思えば、耐えられなくもないか…。

File No.304
『現代語訳 史記』司馬 遷  大木 康=訳・解説
(ちくま新書 780円)
オススメ度★★★☆☆

以前、ある出版社が各界著名人の座右の書に関するアンケート
結果を載せていた。
その第一位が『史記』。それもダントツで。
これはオレもひとつ、と奮起して全10数巻を大枚はたいて購入。
いざっ、と読み始めたが、注釈だけでは四苦八苦。
英語と同じ年数ぐらい漢文も習ったハズなのだが、やはり
余り身に付いてはいなかった。
あえなく挫折。
それからおよそ10年。
この本を本屋で見つけた。
なにせ「現代語訳」というのが有難いではないか。
しかも、新書というボリュームも、オレのオツムには有難い。

で読み出したら、これは面白い。
著者(編訳者)の訳や解説、構成が巧みなのかも知れない。
膨大なボリュームの中からエッセンスを絶妙に編みだし、
『史記』の世界にうまく誘ってくれる。
そもそも、司馬遷が『史記』を書いたのは、まだ紙が存在しない
時代のこと。竹簡や木簡、絹などに書かれたそうで、その量たるや
130巻にも及んでいる。
今から2000年以上も前の超古典なのに、今もって世界の人々に
読み継がれているのはなぜか?
それは、おそらく登場してくる人物たちの際立った個性とその
魅力なのではないだろうか。
中国では後に「科挙」という試験制度が施行され、立身出世への
道がシステム化していく。
しかし、『史記』の時代には、自らの才覚・才能・運・度胸で
自らの道を切り拓いていくダイナミックさがあったのだと思う。
『史記』の中で最大の勝利者として記されている高祖劉邦などは
そのさいたる者だろう。
劉邦のライバル項羽と同席に会した「鴻門の会」は、『史記』
のクライマックスシーンのひとつ。
圧倒的武力優位を誇る項羽が、ここで劉邦を仕留められなかった
ことが、歴史の大きなターニングポイントになった。
劉邦は後に漢王となって、項羽を追い詰める。
項羽は敗走に敗走を重ね、その身体にかけられた賞金と恩賞
目当ての武将たちに五つに引き裂かれるという壮絶な死を
遂げるのである。

因みに、直江兼続から上杉家へと伝わった『史記』は、
南宋時代の黄善夫刊本。現在は国立歴史民族博物館に所蔵
され、国宝に指定されている。

これはガゼン『史記』を読みたくなってきたぞ。
まず漢文の基礎から勉強し直してから…。
うむ〜、そんなことしてると、一体いつになるのやら…。

2012.03.19:ycci

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