天地人

▼初回はなかなか

今年の大河ドラマ「平清盛」が始まった。
いつものように、「食わずぎらい」ならぬ「観ずぎらい」ばっかり
でも大人気ないと思い、まあ初回ぐらい観てみることにした。
率直な感想を言うと、なかなか良かった。
平忠盛(清盛の父)役の中井貴一の好演が光る。
何年か前の武田信玄役を彷彿とさせる。
伊東四朗も白河上皇のイメージにぴったり。
ハナから清盛が白河上皇の落胤だとしている設定に
多少違和感を覚えぬわけではないが、まあそこは
ドラマだと割り切って楽しめばいいのかな、って思ったりして。

File No.292
『清盛』三田誠広(PHP文芸文庫 724円)
オススメ度★★★☆☆

昨年末に平清盛の解説本を一冊読んで、おおよその時代感覚は
つかんだつもりでいたが、何となく物足りなくて…。
やっぱり、物語として読んでみたいと思い、あれこれ物色
したところ、手ごろと思えたこの本を手にとった。
著者は小説家なのでフィクションと思いきや、史料・史実に
基づいた評伝のようなスタイルになっている。
この時代のものを読む時に厄介になるのは、婚姻・姻戚関係の
複雑さである。
皇室と貴族の複雑な血縁関係。それに武士まで加わってくる。
当の清盛にしても、実の父母が確実にわかってはいない。
とくに、白河院や後白河院は宮中の女官殆どに手を付けた
というから、その落胤たるや夥しい数にのぼるのではない
だろうか。
清盛は、長く続いた天皇・貴族による政治から、武家政治を
樹立した人間として歴史のターニングポイントにいると
いうことを改めて感じさせる。
また、いつの世も権力闘争は凄まじいなあとも思う。
力が強いものは武力で、頭がいい者は知恵で、力も頭もない者は
狡知(これも知恵か?)や日和見で、それぞれが権力の
高みを目指して行く様は、古今東西変わらぬ人間の業のようだ。
ただ、本当に高みに辿りつく人間と言うのは、それに加えて
「衆望」があると言えるのではないか。
平清盛にも、その後を襲って初の武家政権・幕府を樹立した
源頼朝にも、間違いなく「衆望」があったのだと思う。

File No.293
『鼠』城山三郎(文春文庫 714円)
オススメ度★★★☆☆

城山三郎は亡父が好んで読んでいた作家でもあったので、
その余慶にあずかり、オレもその著作は殆ど読んでいる、
と思っていたのだが、たまたま本屋でこの本を見つけ、
オビに「これが、城山文学だ!」と書いてあった。
まだ読んでいなかった代表作があったか、という思いで
さっそく購入して読み出した。
これは物語と言うより、ノンフィクションに近いもの。
時代は大正年間。大財閥と並び称された鈴木商店の盛衰を、
事実上の経営者であった金子直吉を中心に描いている。
前半は、米騒動で鈴木商店本店が焼き打ちに合うまでの
ことを、色々な関係者証言を集めながら描いている。
本当に鈴木商店は米を不当に買占め、高騰を狙った悪辣な
商いをしたのか、というのが、著者のそもそもの執筆動機になった。
後半は、飛ぶ鳥を落とすような勢いだった鈴木商店が、
経営近代化の遅れや、ライバル三井の策略などによって
凋落し、ついに昭和2年に倒産してしまうまでを描いている。
前半の朝日新聞引用の多さに少し辟易してしまうが、
それをガマンして読み進めていくと、なかなか面白く
なっていく。
この本を読んで初めて知ったが、米沢ゆかりの帝国人造絹糸
(いまのテイジン)は、もともと鈴木商店資本下の会社だった。
秦逸三博士の渡航にも鈴木商店は莫大な渡航費を出している。
かの神戸製鋼所や豊年製油などもそうだ。
時代感覚はいまいちピンとこないが、時代の流れや群盲に
翻弄される企業の姿が見事に描かれている好著である。


2012.01.09:ycci

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