天地人

▼冷やかしにもマケズ

遠方に住む友人からメールが入った。
「9月28日付の朝日新聞みたか?」というもの。
どれどれと探して紙面を繰ってみたら、ああこれか。
「リレーおぴにおん 物欲は世界を救う」という連載物。
自転車乗りのスタイルでタレントの絹代さん(オレは知らんが)
が載っている。
「…スポーツ自転車は、体を劇的に変えてくれます。太ももの
裏側など落としにくい所の脂肪が落ちるし、リバウンドもありません。
後ろ姿から変わってきますよ」だど。
件の旧友は「で、オマエは変わった?」ときたもんだ。
おうおう、悪かったねえ、何も変わらんわ。
タレントが好感狙いでキレイ事言うのと現実は違うのさ!と
旧友の冷やかしに居直り対抗策に出たオレ。
でもこのエッセイ、読み進めていくと、
「旅先で走っていると周囲の景色全体の中にどぼーんと入って
いく感じ。車やバスでは決して味わえない『空気感』を
感じられるのは、最高のぜいたくです」と書いている。
ほう、わかってんじゃんか。
どーれ、明日は天気良さそうだなあ。

File No.264
『星の衣』高橋 治(講談社 2000円)
オススメ度★★★☆☆

この間読んだ高橋治の『風の盆恋歌』がなかなか良かったんで、
もう一丁と思い、吉川英治文学賞も受賞した代表作のひとつで
あるこの本を図書館から借りてきた。
単行本で600頁近くもある長編で、読むのに1週間もかかった。
もっとも、毎晩酔眼を凝らしながらだから…。

舞台は日本に復帰して間もない頃の沖縄。
コザ(現・沖縄市)のエイサー祭りの場面から物語は始まる。
前回の風の盆と言い、今回のエイサーと言い、著者はまつり
好きなのかも知れない。
エイサーはオレも10年ほど前に観たことがある。
南国の情緒と熱気たっぷりの感動的なまつりだ。
この沖縄で、尚子と汀子という二人の女性が、沖縄の伝統の
織物とあわせ、人生を織りなしていく物語。
尚子は内地の男に裏切られ、沖縄に戻り、八重山上布という
伝統の織物の世界へとハマっていく。
汀子は大学教授の夫に先立たれた後、首里織の世界へ。
それぞれが、多くのウチナンチュの暖かい支えと厳しい激励を
受けながら、傷を癒し、それぞれの道を極めていく。
全編を通じて、織物と沖縄の風景の描写が美しい。

尚子が男に捨てられて負った傷は、陶芸作家の栗原によって
癒される。
「年をとるってことはな、あの時に、また別なあの時にと、
いろんな自分の生き方があったんじゃないか、良いこと
悪いこと、総て同じだが、そう思わされながら、そのどれも
二度と手にすることが出来ない…そういったことの積み重ね
なんだ」
こういうことにシミジミ感じ入ってしまう。
なんだそれ?と思う人はまだ読まない方がいいかも。

尚子と汀子はそれぞれの道を歩むのだが、やがて二人は
劇的に出会うことになる。その後段はなかなか感動的だ。
そして、そこまできてやっと、そうか、これは過去から
ずっと蓄積されてきた沖縄の想いと、本土復帰してこれからの
沖縄のアイデンティティを問う物語なんだと気付かされた。
題名になった「星の衣」とは、沖縄の伝統的意匠のひとつが
星の柄であることからきている。
明けの明星と宵の明星、自分の人生にとっての二つの星でもある
二人の男への想いを心の襞に折り込みながら女は糸を紡いでいく。

ここ米沢も織物の産地。斯業界に関係する人たちにはぜひ読んで
いただきたい秀作でもある。
高橋治、なかなかいいなあ。もう一丁いってみっか!

2011.10.07:ycci

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